最終話 最初の冒険の終わりの後
ザファイブ地方での魔物スカウトの冒険を終えた村雨親子は、そのまま憩いの我が家といえるベストロット皇国の城へと帰還していたのであった。
そして、そこには途中からこの旅のお供をしていた、ゴブリンバットのリンの姿もあったのである。
そのような展開に、さすがのリンも少しばかりたじろいでしまう所であったのだ。
「あの……僕がアイ様のお城への帰還に同席などしていいのでしょうか?」
そう身を縮こませるリンに対して、アイは少しばかりからかうように言う。
「リンや。そんな事を気にしておったのか? わし等とお主は、最早同じ釜の飯を食ったと言ってもいい仲ではないか?」
「ですが……、こうも身分の違いを目の当たりにするとですね……」
そうリンが思うのも無理はない所であろう。何せ方や森で自由に育った野性娘、方や由緒正しき皇室で育った皇帝という肩書きを持つ者。
こうなれば、自身とアイの次元の違いというものを感じずにはいられない所であるのであった。
そうリンが感じている事を認めたアイは、ふと思案するように言う。
「いや、確かにお主がそう感じるのも無理はない事じゃったな。これは十分吟味して反省材料にしなければならぬじゃろう……」
それは、アイが目指すのは魔物を自らの皇国に雇って、彼等の力で十二分に働いてもらって双方に利益が出るシステムを築き上げる事なのだ。
なので、その為には皇帝である自分と、基本的に自然に生きる魔物達との間に壁というものがあってはならない、そうアイは思い至ったのである。
この問題は軽視出来ないだろう。自分と魔物達の間に埋まらない溝があれば、それだけで自分と魔物の持ちつ持たれつ──砕けて言えばwin-winな関係を築くのに支障を来たしてしまうからである。
なので、この事に気付かせてくれたリンに、アイはお礼を言うのであった。
「ありがとう、リン。お陰で課題の一つが見えたのじゃからな?」
「はえっ? 何だかよく分かりませんが、お役に立てたなら光栄です」
アイの言いたい事を完全には理解出来ないものの、自分の振る舞いの何かがアイにとってプラスになったという事なのだ。取り敢えずリンはその事実に喜んでおく事にしたのであった。
そして、アイはその答えを知れた事に感謝をすれど、いつまでもリンを恐縮させておく趣味は持ち合わせてはいなかったのであった。
なので、彼女はアイを奮い立たせるべく、決定打を投入するのであった。それも、アイにピッタリな産物を、であった。
「そうじゃよ。お主がそうかしこまってばかりいては、ノーパンスタイリストとして名が廃るというものじゃろう?」
そう、ノーパンという『大胆』の縮図ともいうべきスタイルを貫く彼女には、縮こまる等という態度は全く似つかわしくない、その事をアイは言いたいのであった。
そして、その意思はしっかりとリンには届いたようだ。
「そうですね、私が堂々としなくちゃ、世のノーパンの者達に示しがつかないというものですよね♪」
そう言って彼女は胸を張って堂々とした態度を取ってみせるのであった。
それを見ながらミナトは思う。──そういう堂々ってのは、倫理的にどうなのか、と。
しかも、世の中には他のノーパンの者達もいる事を否応にも認識させられてしまって、ミナトはやるせない心持ちとなってしまうのであった。
しかし、そこで彼は気付くのであった。ザファイブでの冒険の間中、リンは決して『見せる』事は無かったという事実に。
その事から、彼が導き出した答えはこれであったのだ。
(……僕の負け、という事ですね?)
こういう『負け』というのも悪くないなと、ミナトは思うのであった。何故なら侍らしく二言を嫌う彼は、最後まで有言実行を遂げる者が好きなのだから。ノーパンは勘弁な所であるが。
そのような心地良い『敗北感』に苛まれながら、これから皇帝村雨アイを始めとした者達の帰還を祝うパーティー──そこにこの旅の同行をしたリンも加わる──へと赴いていくのであった。
◇ ◇ ◇
こうして、アイのザファイブ地方での魔物のスカウトは完了し、彼等を皇国に雇った事により、確実に効果が出るに至っていたのであった。
スライムワンは愛玩用のスライム達を引き連れて皇国のマスコットとなり脚光を浴び。
ゴブリンバットのリンはその磨き抜かれた格闘センスで以って師範代となり多くの弟子を抱える事となったのだ。その弟子は彼女がノーパンであるが為に男性の構成員がやや多くなってしまったのはご愛嬌だろう。
サイコメットーラーのメットは、その小柄な体格に似合わない土木業のスキルを活かして皇国の開発担当となった。
クリボールは、増えすぎたウニを食用にする第一人者となったのであった。この事により、ウニは高級食材だと敬遠する者にも食べてもらえる事となり、皇国の庶民の味へと変貌を遂げたのであった。
コロシテデモムシのコロムシは、皇国に『ねんがんの』剣博物館を開く事に成功し、そこへの入場者が増えた事により収益も潤う事となったのだ。
グラビットは自身の能力を活かし、皇国に雪の地帯を作り出し、そこにゲレンデ等を作って来客を集めたのである。しかも、グラビットの能力と魔力で集めた雪である為に夏でも溶けないと評判になって人気はうなぎ登りとなったのであった。
◇ ◇ ◇
「いやあ~、儲かる儲かる♪」
そうだらしない口調で、玉座に座りながらベストロット皇国皇帝たる村雨アイは上機嫌であったのだ。
そんな些かみっともない振る舞いのアイに対して、彼女の義理の息子である村雨ミナトは嗜めるように言う。
「父さん、ちょっと砕けすぎですよ。今時お札束をうちわ代わりにふんぞり返る人も少ないでしょうし?」
そんなミナトの指摘ももっともであろう。血の繋がりはないとは言え父親のそのような態度は見たくないだろうし、何より九歳の少女の外見である彼女がやってしまえば、その可憐さが台無しになってしまうのだから。
そのミナトの意見も無理からぬ事である事を受け止めつつも、それでも彼女ははしゃがずにはいられない所であったのだ。
「悪い悪い。じゃが、わしにも少しばかり羽目を外させてはくれぬだろうか?」
そのアイの言葉に、ミナトはそれもそうだと納得する。
「そうですね。父さんにとって、これでこのベストロット皇国が貧乏国家から一歩遠のいて行ったのですからね?」
「そういう事じゃ♪ 今回のザファイブでの魔物達のスカウトは大成功だったという事じゃな?」
「その通りですね、父さん」
そう相槌を打つミナトに対して、アイは今後の方針ともなる言を口にするのであった。
「なのじゃから、引き続き他の地方でも魔物達のスカウトを続けて行こうと思うのじゃが……ミナトや、それに協力してくれるかの?」
「ええ、勿論ですよ」
【ザファイブ地方編──完】




