第25話 剣のプロフェッショナル:後編
アイと変なダンゴムシの魔物のコロムシことコロシテデモムシとの戦いは続いていた。
「では、スサ・ソルジャーよ。ここいらでもう一度そなたの武器をあ奴へと見せてやるのだ」
そのアイの呼び掛けに鋼の戦士は駆動音を返答の変わりに行った。そして、次にそれは起こるのであった。
突如として、スサ・ソルジャーの両手の部分のパーツがガチャガチャと音と立ててその構成を解除していったのである。後に残ったのは手首から先がない腕が一対であるのだった。
「なにおー!?」
無駄に驚かないようにアイは配慮してくれたのであるが、この展開にはコロムシは意表を突かれざるを得なかったので、思わず声をうわずらせてしまったのであった。
「そう驚く事はないじゃろう?」
そうなってしまったので、アイは相手に要らぬ精神的負担を避けるように促すのを狙って、宥めるように優しく言うのであったが。
「いや、驚きますって! 突然手首の先からパーツが無くなったら! 生き物なら一大事ですから!」
「それもそうじゃのう……」
そうコロムシに抗議されて、アイはやはりこれは無理もないかと内省する所であった。
(今後は考えねばならぬかも知れんのう……)
そして、これからも彼女は魔物をスカウトするべく彼等と戦い続ける予定でいるが故に、この今のコロムシの反応は大いに自分にとって反省材料にする必要があると心に留めるのだった。
しかし、それは後でも出来る事なのである。今は、多少相手を驚かせてしまう状況でありつつも、暫しそれには目を瞑ってもらってでも戦いを進める必要があるのであった。
なので、彼女は手っ取り早く遣いに行動をさせたのだ。
「ソルジャーよ、前置きはもういかんから、迷う事なく『アレ』をやるのじゃ」
そのアイの呼び掛けに言葉で答える代わりに、例の如くソルジャーは自身のアイセンサーを光らせて応えるのであった。その様は、彼が言葉を発せられたら正に『御意』と言っているかのようなものであったのだ。
そうソルジャーが意思表示をした後はすぐであったのだ。何と彼の手首から消えた腕の断面から、実態の刃の代わりにエネルギーの刃が放出を始めたのだから。
それを見ながら、コロムシは感心したように言うのであった。
「成る程、そんな事が出来るから、さっき剣を砕いても落ち着いていたという事なんですよね?」
「そういう事じゃ」
ご名答と言わんばかりの態度となるアイであった。そうコロムシが指摘した通り、このような奥の手がソルジャーには備わっていたが為に、全く慌てる必要は無かったという事なのであった。
そして、ここでコロムシは少々面倒だと密かに思う所であったのだ。──これでは、俺の奥の手は使えないな、と。
だが、『その機会』は確実にやってくるという予感が彼にはあったのだ。だから、今はこの敵のやり方に従うまでだと、彼はこの場は腹を括る事にしたのである。
それにしても、敵は要は両手の手首からエネルギーの剣を現出させたという事なのである。つまり、単純計算でも二振りの剣が相手には携えられているという事だ。
なので、これに対しては悠長な気持ちでは対処出来ないだろうと決め込み、コロムシはある行動に出る事にした。
「それじゃあアイ様。ここいらで俺も剣を使わせてもらう事にするよ」
「おう、確かそういう話じゃったのう?」
確かにコロムシが言った事を、アイは忘れてはいなかったのだ。
それは、この戦いが始まる前に、コロムシが目標として『剣の博物館を建てる』というものを挙げた事にあるのだった。
その事から、コロムシが剣を愛用する者である事はアイも察する事が出来る所なのであった。
そして、その事実にはミナトも瞠目するのだ。
「コロムシさん、剣の使い手だったんですね?」
その事に目を向けるミナト。何故なら、彼も剣の腕を磨いてきた戦士であるのだから。そんな者として、目の前の魔物が剣の使い手だという事には注目してしまう所であろう。
なので、いつか手合わせをしてみたいとミナトは思う所であったのだ。だが、今はアイの遣いとの勝負の真っ最中なのである。
だから、今は観る側に徹するべきだと、ミナトは決め込むのであった。
このようにして、ミナトが再びギャラリーとして徹しようと決めている間に、コロムシはその手に剣を取り出して握るに至っていたのだ。
その剣は、大振りの両手剣である、バスタードソードなのであった。
「ほう、それがお主の剣であるか?」
「ええ、俺にバスタードソードを使わせたら、右に出る者はいませんからね?」
「それは頼もしい限りじゃのう?」
そんなコロムシの振る舞いに、アイは感心する所であったのだ。
こうして強きでふてぶてしい発言を出来るのは、身の程知らずか、はたまた心の強い人のどちらかであるからだ。
そして、アイには分かっていたのであった。自身の遣いを彼と戦わせた事で、今の発言は決して前者からは来ていない事が。
この瞬間、アイはコロムシの評価を更に上げる事にしたのであった。──この者は戦士としての誇りの高い、立派な存在である魔物なのだ、と。
そうと分かったアイは、そんな彼の心意気に応える意味でも、気を引き締めなければと想うのであった。
その想いを胸に、彼女は気高き虫の戦士に言葉を投げ掛ける。
「では行こうぞ。真剣勝負の続きとしよう!」
「望む所です!」
この瞬間に両者の纏う気迫というものが別物になるのが、ミナトにもリンにも感じ取れるのであった。
そして、外野も固唾を飲んでいる所で、当事者たる両者が同時に出たのであった。
そう、両者とも相手の出方を待たずに前に出る事を選んだのだった。このような流れになれば、下手に出方を伺っていては悪手以外の何者にもならないだろうと踏んでの事なのだ。
そして、一気に距離が縮まった事で最初を仕掛けたのはソルジャーの方であるのであった。
この場合、彼の方が攻撃に関しては便利であろう。何せ、体の一部がそのまま武器となっているのだから、握るという行為が省けている為である。
その今の自身の特徴を活かす形で、ソルジャーはまずは右手のエネルギーの剣を相手へと振り翳したのであった。
勿論、その攻撃をそう簡単には貰ってあげるいわれはないコロムシであったので、彼もそれに合わせて、バスタードソードを差し向けたのだ。
その瞬間、またも激しい金属音と火花の散る展開がなされたのであった。この瞬間は何度立ち会っても手に汗握るものがあるだろう。
だが、これは両者の均衡とはならなかったのであった。そう、ソルジャーが携える剣は二刀流なのであるのだから。
なので、やる事は簡単であろう。右の剣が防がれたなら、次は左と決め込むだけであるのだ。
無論、次には左手の刃が振り翳され、コロムシへと肉薄していったのであった。
だが、コロムシはこれには一切怯む事なく立ち向かったのであった。
「ソードインパクト!」
そう言うとコロムシは手に持ったバスタードソードを思い切り向かってきたソルジャーの左の刃へと差し向けたのであった。
次の瞬間、その刃と合わさるや否や、そこから激しい衝撃が辺りにほとばしったのである。
その衝撃により、ソルジャーは僅かに後方へと吹き飛ばされ、コロムシとは距離を取る事となったのである。
無論、その一瞬の好機を見逃すコロムシでは無かったのであった。
「今ですね!」
そう言うと彼はその足を踏み込み、体を宙で僅かに回転させる形で怯んだソルジャーのとの距離を詰めたのである。
その回転に乗ったまま彼は手に持った両手剣をソルジャー目掛けて叩き付けたのであった。
しかし、当然アイも相手に成すがままにされる趣味は無かったのだ。咄嗟に彼女はソルジャーに指令を出したのだ。
「ソルジャーよ。多少の犠牲は致し方ない。じゃから、直撃だけは避けるのじゃ!」
その言葉に無言でいながら力強く応える雰囲気を見せたソルジャーは、手から出る光の剣を一旦引っ込めて両手を交差させて防御体制に入ったのであった。
そこに、容赦なくコロムシの両手剣の渾身の一撃が繰り出される事となったのだ。
「はああっ!!」
その裂帛の叫びと共にコロムシはありったけの力で以て敵の両腕に縦一文字に大振りの剣戟を叩き込んだのであった。
刹那、その箇所から小規模の爆発が起こったのである。それが意味する所はというとこうだ。
「ふむ……ソルジャーの腕に損傷を与えるとは、見事なものじゃのう」
それが答えであるのだった。つまり、こうしてソルジャーは戦士の攻撃の要である両手に、致命的な一撃を加えられてしまったという事なのだ。
そして、その展開を築き上げたコロムシは胸を張りながら言うのであった。
「これで、俺にバスタードソードを使わせたら右に出る者はいないって事が分かったでしょう?」
「うむ、文句なしの満点じゃ♪」
アイの方も、彼のこの奮闘っぷりには満足感を感じる所であったのだ。これを見れば、今後の自身の皇国での働きっぷりには期待出来るというものなのだから。
これは、アイにとっても大収穫というものであろう。だが、一方でアイはこうも思うのであった。
(だからといって……そう簡単に勝たせる趣味も、わしにはないって所じゃな♪)
そう、これは真剣勝負なのだ。だから、これから雇う事になるだろう魔物の実力を測るだけでは気持ちが足りないというものであるのだ。
なので、アイはここで秘策を使う事にしたのであった。そして、これを行うという事はこの勝負はどう転んでもここで決着が着くだろうという事も分かっているのであった。
そこで、彼女はその想いをコロムシへと打ち明けるのであった。
「コロムシや、こうなってはわしとて次に勝負を決めなければならんから、お主も心して掛かるようにな」
「心得ていますよ、アイ様」
そのアイの意見にはコロムシも同意する所であるのだった。自分にとっても、次で勝負の締めとなるだろう事が分かっていたのだから。
そして、コロムシにとってこれは賭けとなる展開であったのだ。
もし、相手が自分の最後の奥の手を使える行動に出れば、その時は自身の勝利で幕を閉じる事が出来るのであるが、そうでなければ、少々彼にとって不利になるのだ。
だが、相手がどう出ようとも自分は冷静に、かつ大胆に対処をするだけだと彼は心に決める所であるのだった。
そうと決まれば、もう後は最善を尽くして戦うだけであろう。その想いを胸に、コロムシは一見両腕を損傷して圧倒的不利に見える相手の戦士を一瞥するのであった。
──ここは油断が出来ないだろう。そう思った彼は、驕る事なく相手を見据えながら出方を見計らう。
そして、いよいよ相手が行動に出てきたようである。ソルジャーの司令官たるアイが口を開いたのであった。
「ではソルジャーよ。『モード:アメノムラクモ』で行くぞ!」
その言葉にもソルジャーは返事の代わりにアイセンサーを光らせ、了解の意思を示すのであった。
そして、その意思のままに彼はその形態を変化させていったのである。
またしてもガチャガチャと耳障りである一方で男子なら興奮するだろう機械音を出しながらの変型であった。
それにより、彼の姿はみるみる内に変化していき、そしてとうとうその姿へと変貌を遂げたのであった。
その姿はというと……。
「剣……そのものですか?」
そうコロムシが言うように、ソルジャーの姿はそのまま巨大な剣へと作り替えられていたのであった。
それは単純かつ、思い切りのいる試みだったと言えよう。腕を破壊されて剣が握れないのなら、自身が剣になってしまえばいいという暴論であったのだ。
「そういう訳じゃ。どうじゃ、隙の無い事じゃろう?」
そんな突拍子も無い案を出したアイの方はというと得意気にのたまうのであった。
だが、この試みは理に適っているだろう。自身が武器を持てないなら、自らが武器となって戦えばいいという事なのだから。
その事が分かるコロムシは、ここでアイにこう返しておくのであった。
「確かに、その発想は無駄が無くて良いですよ。いや、お見事です」
そう言うコロムシであったが、これには彼の本意の『全て』は含ませずに置かれていたのだ。その彼の真意は、これから分かる事となる。
対して、遣いをそのまま文字通り武器にするという暴挙に出たアイは、そんな彼にこれで勝負を決める為の最終指令を出すのであった。
「では、ソルジャー改めアメノムラクモよ。そのまま敵を叩き斬るのじゃ!」
それは、単純ながら的確な指令であるのだった。そして、その的確な命を受け鋼の戦士改め剣そのものが動いたのだ。
そして、鋼の剣はその武器そのものの体を使って、勇猛果敢に敵目掛けて斬り付けに行ったのであった。何せ、それは全身武器であるから、非常に無駄のない行動であったのだ。
「……」
それを見ながらコロムシは無言となっていた。そして、心の中で密かにこう呟いていたのであった。
──どうやら、敵は俺の奥の手が通用する手段に出てくれようだな、と。
その想いを胸に、コロムシは無駄の無い動きでこの状況に対して的確な行動に出るのであった。
それは、跳躍の後に体を丸めて回転させるという行為であったのだ。それを、彼は剣となった戦士の『柄』の部分を狙っていき、そしてそのまま宣言する。
「これが俺の奥の手、『回転してでも☆うばいとる』ですよ!」
そう言いながら彼は敵の柄の部分へと回転体当たりを加えたのであった。
その衝撃により、アメノムラクモはバランスを崩して斬撃の体勢を解いてしまったのであった。
そして、どうにか体勢を戻して仕切り直しに出ようとするが──ここで彼は自身に起きた異変に気付いたのであった。
もし、彼に文章する機能が付いていたら、こう思っていた事であろう──体が自由に動かない、と。
そう、鋼の剣は今、自身の意思に反してその体を動かせない状態であるのだった。そのからくりをコロムシは説明する。
「気付いたようですね。これが俺の奥の手の真骨頂です。この回転攻撃を加えられた武器は、問答無用で俺に自在に扱われるんですよ♪」
もっとも、それは僅か一分間という短い間で、それが一つの武器に適応出来るのは一日に一回だけですけどね、とコロムシは最後に注釈を入れるのであった。
そして、その後に彼はこう付け加えるのだった。
「でも、あなたが剣そのものなら、その一分があれば勝負は着くって事ですよ♪」
そう言うとコロムシは今しがた主導権を握った鋼の剣の柄を持ったのである。
その様は、正に剣を奪い取った者の姿であった。
後は、敵であり戦利品の処理をすればいいだけの事であるのだった。ここでコロムシはどう出ても勝利する事が出来るであろう。
何せ、手に持った鋼の剣を煮るなり焼くなりすればいいのだから。だが、彼が取った行動はこうであった。
「ふんっ!」
そう言うと彼はその剣を地面へと突き刺したのであった。──そして、それによりこの勝負の決着は着いたのである。
その事を察したアイは先手を打つ形でコロムシに言うのであった。
「分かった、これでお主の勝ちじゃ。これに二言はないぞ」
「物分りが良くてさすがです、アイ様」
そう言って、彼は自分が勝利者であるにも関わらず、その頭をアイへと垂れていたのであった。やはり彼にそうさせるだけの立ち振る舞いというものがアイにはあったのだ。
そして、今しがた自身の敗北を認めたアイはコロムシにこう言うのであった。
「そして、そなたの情け、確かに受け取った。どうにでも出来たアメノムラクモを、地面に埋め込んで行動出来なくするだけで済ませたのじゃからな」
「お察しありがとうございます。でも、これは剣が好きな俺自身の為でもありますから、そう畏まらなくてもいいですよ?」
「いや、わしとて神や神霊機にはいつも敬意を払いながらその力を借りている訳じゃからな、彼等にそういう配慮をしてくれる者というのは、実にありがたいものなのじゃよ?」
「成る程、こうしてみると俺とアイ様は似ている所があるって事なんでしょうね?」
「そのようじゃな♪」
そうコロムシに言われた事を自覚したアイは、そこに彼と奇妙奇天烈な友情が芽生えるのを感じる所なのであった。




