第24話 剣のプロフェッショナル:前編
こうして突如として登場した、だんご虫の魔物のコロシテデモムシ──改めコロムシであったのだが。
そんな彼が相手をするに相応しい神は如何なものかと暫し思案するアイであった。
(さて……、ここはどうしたものかのう?)
何せ、相手はだんご虫型という思い切った造型をしているのだから。そんな個性の強い彼には一体どういう神を差し向けるべきだというのだろうか?
少しばかり考えるアイであったが、ここで彼女の頭に電球が浮かびあがるかのような心持ちとなったのであった。
「おや? もしかして技閃きました?」
「違うって……そもそもわしの電球のイメージが目に見える形になっていたのかのう?」
色々ツッコミ所が多かったので、アイはこの場は流す事にしたのであった。
そして、コロムシの弁を少しばかり借りるかのように言う事にした。
「わしが閃いたのは、技ではなくてお主と戦わせる神の力を何にするかという事じゃったのじゃよ」
「神様ですか? そんなのチェーンソーであっさりと真っ二つに……」
「……それは別の世界の神様じゃ」
アイは呆れるしか無かった。電動ノコギリ一つで葬られる神のいる世界とはこれ如何にと思う所であるのだった。
そんな世知辛い内容に触れられつつも、アイがする事に変わりはなかったのであるから、彼女はいつもの通りにまず神霊機を懐から取り出し、その後で神へと呼び掛けるに至るのであった。
そして、その神は何だったのかと言うと。
「コロムシ、お主に相応しそうな神はこの方じゃ。出でよ、『スサノオ』よ!」
そうアイが宣言すると、彼の傍らにある神が顕現したのであった。
その神は屈強な男性の姿をした神であったのだ。無論、そこから感じられるのは揺ぎ無い戦士であるという事だろう。
「おお~、しんじられぬ~……じゃなくて、これはまた俺が相手をするのにピッタリな感じですね?」
「やはり、わしの読みは正しかったようじゃの?」
そんなコロムシの反応を見ながら、アイは気を良くするのであった。
アイの読み、それはコロムシが先程皇国に雇われた際の目標に『剣の博物館を開く』というものであった事から、彼が剣士や戦士の気概を持った者であるという推論であったのだ。
そして、今のコロムシの反応を見ればその判断は正しかったといえる事になるであろう。
「これは正に『聖戦士』な俺好みの展開ですね。虫なだけに」
「……何か、聖戦士の概念が色々混じってはいないかの?」
それは、普通に剣を取って戦う聖戦士の他に、オーラの力でロボットを操って戦う方の聖戦士の概念も含まれている……そんな感じであった。
だが、それはまた別な話なので、気を取り直してアイは続ける事にしたのであった。
「では、早速スサノオの力を我が神霊機へと取り込む事としようかの?」
そう言うやアイは早かったのである。手早く彼はスサノオの力を神霊機へと取り込ませるに至ったのであった。
それにより、例の如く神霊機はみるみるその形状を変化させていったのである。
そして、その後にそこに存在していたのは……。
「おっ! これはまた男のロマンというものですよね?」
そのように言いながらコロムシは今しがた顕現した姿に心が釘付けとなるのであった。
それも無理からぬ事であろう。何せそこには立派な戦士の姿を、鋼鉄の機械であしらった存在が大地に足を踏み締めていたのであるから。
ロボットで構築された戦士。これに憧れる男子というものは多く、このコロムシも例外ではなかったようであった。
そう憧れるのは当然の成り行きとしても、やはり彼は常に何か一線を越えてしまう癖というものがあったようで。
「それも、これはまるで機動戦s……」
「うむ、その先はアウトじゃから踏み入らないように」
ここでアイはコロムシに釘を刺しておく事にしたのであった。これ以上入り込むと、日の出の名を関した会社が怖いからである。
ともあれ、こうしてアイは神霊機の力を行使して、無事に鋼の戦士を繰り出すに至ったのである。後は、この存在を目の前のだんご虫戦士と戦わせるだけであろう。
そうと決まれば話は早い所であろう。なので、まどろっこしい事は抜きにして、アイはこうコロムシへと言うのであった。
「それじゃあ、お主とて待ちわびている事じゃろう。じゃから、面倒な話は無しにしようぞ!」
「うん、それがいい!」
やはりここでもコロムシはどこかこの状況には変な返答をかましたものであったのだが、ここに神の戦士と魔物の戦士の戦いの火蓋は落とされたのである。
◇ ◇ ◇
「では、まずはわしから行くとしよう!」
そう言って先制攻撃を決め込むに至ったのはアイの方であったようだ。
それは、この目の前の虫の魔物には、どうも小細工というものは通用しなさそうな気概が感じられたからなのである。
そう感じたアイは、下手に相手の出方を伺うよりも、まず攻めに攻めていくのが得策だと考え行動するのであった。
そう考えるに至ったアイは、早速自身が顕現させた鋼の戦士へと呼び掛ける。
「では、早速あ奴に攻撃を仕掛けるのだ。『スサ・ソルジャー』よ!」
『スサ・ソルジャー』。それがアイがスサノオの力を借りて降臨させた鋼の戦士の名前であるのだった。
そして、そのスサ・ソルジャーは手に持った大振りの刀を掲げながらだんご虫型の魔物へと突撃していったのであった。
そのようにして魔物との距離を一気に詰めた鋼の戦士。
そう、彼はその鋼鉄製のボディーや、大刀を持っているという事から想像される重量級故に鈍足というイメージをものの見事に払拭させてしまう程の動きを見せたのだ。
こうして敵に肉薄したスサ・ソルジャーは、そのまま大刀を両手で持ってそれを振り翳したのだ。
この攻撃が届けば、敵に致命的なダメージを与える事になるだろう。そこには様子見などという悠長な姿勢はない、真剣勝負の念が籠められていたのであった。
しかし、相手とて相当の手練れのようであった。開幕が決着になるというような事は断じて可能にはさせないのだった。
「甘いですよ、アイ様!」
そう言うと、コロムシのその対応は早かったのであった。少し前に流行った言葉で言えば『神対応』であろうか。実際に神と戦っているのは彼の方なのであるが。
ともあれ、このコロムシは敵の迷いのない先制攻撃にも怯まずに対処を行うに至ったのであった。そして、その方法は彼にとって非常にシンプルなものであるのだった。
「はっ!」
そう彼は掛け声を掛けるや否や早かったのであった。彼はそのだんご虫のボディーを活かして、自らの身体をほぼ球体状に丸めたのだ。
そして、そこにスサ・ソルジャーの凶刃が振り下ろされる事となったのであったが、当然その攻撃は遅れた事となったのだ。
刹那、鋼の戦士の大刀が虫の戦士の生の装甲に弾かれて火花と金属音が辺りに鳴り響いたのであった。
その際、両者ともに激しい衝撃を体感する事となったのである。
『くぅぅっ……』
いくら自前の装甲で以て敵の凶刃を防いだとはいえ、やはりそこに走る波動は尋常ではない所であるのだった。
この事にコロムシは思わず球状に身を固めた肉体の中で怯みそうになるのを感じていたのであった。
(だけどな……!)
しかし、そうはさせてたまるかと彼は勇む心の炎を燃やす所なのだった。
何故なら、自分は今こうして敵の攻撃を防いだのであるのだから。
即ち、敵がこれ以上攻勢に出る事が出来ないという事なのだ。それはつまり……。
『今度は俺の番だろ?』
どことなく『くそみそ』な響きのあるこの台詞であったが、確かにコロムシの言う通りであったのだ。
それは、敵の攻撃が通らない所に一瞬の隙が出る事となり、逆に言えば先程まで防戦になっていたコロムシに逆転のチャンスが訪れたという事なのであった。
その事を確信した彼は、その丸まった状態で自身の眼をギラリと輝かせるのだった。
そして、遂に彼は防御から攻撃へと転じたのであった。
しかし、未だに彼はその身を丸めた状態であったのである。だが、『それでいい』のである。
何と、彼はその球状の形態のままに宙へと跳躍を行ったのであった。
「何とまあ……」
この意外性にはアイも思わず感心する所であるのだった。まさか防御の状態から行動を起こすとは彼女にとっても目を見張るものであったからだ。
アイにしてそう驚きの念を抱かせたコロムシであったが、今は彼はそれどころではなかったのであった。
そう、彼はこれから攻勢に転じなければならないのであったのだから。
そして、文字通り『転』に移る事となるのであった。
それはシンプルな事であるのであった。彼は今球体の形状をとっているのだから、それを活かさなくてはナンセンスというものであったのだから。
それは一瞬の事であったのだ。彼は宙に浮かばせたその丸いボディーを、そのまま回転させてみせたのである。
後の展開は分かるであろう。彼はその回転力を持ったまま、そのままスサ・ソルジャーへと空中突進攻撃を繰り出したのだ。
それを見ながら、アイは咄嗟に彼へと指示を出す。
「スサ・ソルジャーよ。迎え撃て!」
その彼女の指示に応え、鋼の戦士はそのアイセンサーを光らせると、手早く両手持ちの大刀を敵の回転攻撃へと合わせたのであった。
刹那、そこに大玉と化したコロムシの突撃が繰り出される。そして、そこにぶつあり合う金属音と衝撃。
ガリガリと耳障りな音と、激しい火花を散らしながら両者の攻防は続いたのであった。
こうして刃と装甲の二つの硬質な手段により、文字通りその勝負は火花を散らしていたのである。
そして、これを表現するならば、正に『矛と盾』といった様子であろう。
だが、これは『矛盾』という言葉を生んだ要因でもあるのだった。つまり、矛と盾のぶつかり合いには、どちらかが否定される事となるのが定めなのである。
そして、どうやらその答えは出たようであった。
その攻防の果てにガキンという音が鳴ったかと思うと、硬い方の内、刃の形状をした方が砕けてしまったのである。
そう、この場合矛と盾の勝負は、盾の勝利となったようであった。
その成果を確信したコロムシは、颯爽と回転しながら地面へと降り立った。その様は正に『スタッ』という擬音がとても似合うと言えばいいだろうか。
そのようにして、再び二足歩行のだんご虫の形態をとったコロムシは、得意気にアイ達へと言葉を向けるのであった。
「ざっと、こんなものですよ、アイ様♪」
「成程のう……いや見事じゃ」
そんなコロムシの快挙には、アイとて素直に感心しなければならない所だと思うのであった。ここまで自分の遣いに対してやり込めたのだから、当然敬意というものは払わねばならないだろう。
だが、これだけで満足してもらっては困る所であるので、アイは彼に釘を刺しておくことにしたのであった。
「じゃが、まずは最初の攻防をクリアしただけの事じゃというのも忘れてはいかんぞ」
「……」
そのアイの言い分に対して暫し無言となるコロムシであったが、その様子は実にさっぱりしたもののようだ。
そして、そんな振る舞いの下、彼はさも当然と言わんばかりにこう確認の言葉をアイに向けるのであった。
「そうですよね、アイ様の遣いの剣を砕いた位で俺の優位にはならないって事ですよね?」
「その通りじゃよ」
そのコロムシの言葉に対して、アイの方も実にあっけらかんとしてそう返したのである。
この様は両者とも引いていないという張り詰めた空気だった。
「『そのとうり!』って言ってはくれないのですね?」
「わしにはワザと文法間違いをする趣味はないぞ」
「アイ様は、そんなしゅみじゃないって事ですか……」
「……むぅ」
──筈が、どうもコロムシの減らず口によって台無しにされてしまっていた感じであった。しかも、どこかペースを彼に掴まれている心持ちがして堪らないとアイは思う所だった。
(これではいかんぞな……)
なので、これ以上相手の土俵に引きずりこまれないようにしようと、アイは気を引き締めて勝負の続きに臨む心構えとなるのであった。
ともあれ、今のこの状況は端から見れば、自身の遣いの命とも言える剣を砕かれてしまったという絶望的状況である事に代わりはないのである。
なので、この見た目が実は幻想である事を相手に思い知らせようとアイは一人心の中で意気込むのであった。
(では行くとするか……って、これもあ奴好みになっているのか……まあそれはよい)
そう思ったアイは、早速自身の目論見を相手に示す事とするべく口を開く。
「ではコロムシや。これからスサ・ソルジャーのする事には余り驚かんようにな」
それは、倒す相手に敢えて恐怖を与えないようにするという、別次元のハンターが序盤に誇り高かった時に言った事に準じるようなアイの心得からの配慮であった。
その言葉の甲斐もあって、コロムシはごくりと固唾を飲みつつも、過剰には気構えずに平静を保ちながら向かい合う事が出来ていたのである。
それを見届けながらアイはうまくいったと思いつつ、次なる行動に出るのであった。




