第22話 風の空洞の戦い
『比奈三沢台地』の頂上へと向かう為にその坂道を登り、その果てに洞窟へと入って行った村雨一行。
そして、その中の風の抜ける空間の快感さを一頻り味わった所で、彼等はそろそろ新しい刺激が欲しいなと感じる所であったのだった。
無論、例の如くこの星での旅は星の意思により統制された安心出来るものであるのだ。今回もその例に漏れずに事が起ころうとしていただけの事であったようだ。
「父さん、どうやらおでましのようですね♪」
「そのようじゃのう♪」
「ですね♪」
この空気の変化には、短期間であっても歴戦の戦士となった一同には察する事はお茶の子さいさいであるようであった。
そう言い合った一同は、各自その視線を前方へと向けるに至ったのである。
すると、その視線の先にあったのは、鳥の群れであったのだった。
勿論、それは普通の鳥では無かったのであった。それは、その羽毛の色が自然色には無いようなサイケデリックなエメラルドグリーンである事から容易に察する事が出来るというものであろう。
無論、彼等はただの鳥では無く、この星が旅人の経験の為に用意していく産物である『法勢』以外の何者でもないのであった。
そのような、安全な『敵襲』を受けて、一同の意気込みはうなぎ登りとなっていったのだ。
「では、やりましょう父さん♪」
「それがいいという奴じゃのう♪」
「僕もやりますよ♪」
そう一同は口々に言うと、そのまま綺麗に臨戦態勢へと入っていったのであった。
そんな彼等の意気込みに応えたのか、はたまたそれを挑発だと受け取ったのか、彼等の前方に陣取っていた鳥の群れは突如としてかしましく鳴き誇り始めたのであった。
それは、一羽一羽ならば微笑ましいものであっても、その数数多となっている訳であるから、風情よりもやかましさの方が上だと皆は感じる所なのだった。
「父さん、ちょっとこれうるさいですよねぇ……」
「そうじゃのう。これは改良の余地があるのではないかのう……」
それは本来生物の営みに対して向ける言葉ではないだろう。
だが、この法勢は生物ではなく、かつ星が作り出した存在であるのだ。
その事を踏まえて、アイはこの星に『再調整』してくれる事を願っての発言という事なのであった。
これは、実際に星がその案を受け取ってくれる事が考えられるので、断じて愚痴などで終わる言葉とはならないのだ。
この辺り、漫画家に自分の思い通りの展開にしてくれるように意見するような事とは全く違う、建設的な発言となるのである。
ともあれ、それは未来にて実現してもらう為の要望である。なので、今がその望みではない状況であっても、それを享受しなければならない所であろう。
その想いは一同は同じだったようで、口々に言うのであった。
「でもまあ、それが実現されるのは今後の事じゃからの。今は今でやるのがこの星に対する礼儀というものじゃろう」
「そういう事ですね。それでは父さん、やりますよ」
そう言ったミナトに合わせるかのように、鳥の群れが一頻りけたたましく鳴くと、その中の数羽が行動に出たのであった。
それは、この洞窟の属性から生まれた存在らしく、少量の風の力を練り込んだエネルギーの弾丸であったのだ。
無論、その攻撃はミナトに向かって繰り出されていったのである。
そして、勿論それには一切動じる事なくミナトは対処を行っていくのであった。
「父さんやリンさんと比べると……いや、比べる所まで行っていませんね」
そう言いながら、この言い方だとこの星に対する侮辱になってしまうのかとミナトは思う所ではあったが。
一方で、そういう『自信』をつけさせてくれるのもこの星の立派な役割であるとも考え、ここはその星の姿勢に甘える事にしたのであった。
そして、ミナトはここで考える──敵達は今こうして射撃攻撃をしてきたのであるな、と。
(それならば……!)
やる事は決まってくるだろうとミナトは思いながら、平行世界から自身の愛用の刀を取り出すに至ったのであった。
そして、相変わらず自分の手に馴染んでいる事を再確認しつつ、ミナトはその刀の刃を自身の後ろへと持って行った。
そう、これは刀を振るう準備段階へと入ったという事である。そして、後の行動は早かったのであった。
「そこっ!」
そう掛け声をあげると同時にミナトは後ろ手に溜めた刀を一気に振り切ったのであった。
すると、その刃から『何か』が放出される事となったのだ。
その何かとは何という事になるだろう。だが、その疑問はそれが飛び進む事により後方に何か微量の物を撒き散らしている事から判断出来るのであった。
その答えをリンが代弁する。
「すごいねミナト君。水の刃を飛び道具にしてしまうなんて♪」
その称賛は、リンの本心から来る所であったのだ。
それは、彼女とて刀とは基本的に近接戦用の武器である事は常識として知っているからである。つまり、目の前の少年はその常識に囚われない戦法を取ってしまったという事なのだ。
そのような事を成し遂げてしまう者を目の当たりにすれば、そこからリンが抱く想いは一つであるのだった。
(僕も、こんな風な戦い方をしたいな……)
そういった純真な考え方を抱くリンであったが……。
(でも、僕にはそんな広範囲を攻撃出来る飛び道具はないしね)
それが現実であるのだった。なので、リンはこれ以上夢見がちな考えを抱かずに、次の者へと託す事にしたのであった。
「アイ様。次はあなたに任せますね♪」
「よし、任されたぞ♪」
そう言うアイは意気揚々としていたのである。先の茨の森での法勢との戦いでは出番が無かった彼女だけに、こうして活躍の場が出来た事は願ったり叶ったりだったからである。
「では、行くとするかの」
そう言うや否や彼女が懐から取り出したのは、毎度お馴染みの神霊機であるのであった。
そして、やはり手慣れた様子でそこに動力として力を借りる神を呼び出すに至るのだった。
そして、彼女が呼び出した神はというと……。
「『だいだらぼっち』よ、今一度その力を貸してくれたまえ!」
そして、これまた先日から駆り出されっぱなしの神がここに呼び出される事となった。
「父さん……またそのお方って」
「うん、過労死しちゃうんじゃないですかぁ?」
二人はこんな世知辛い現実に頭を抱えるのであった。そして、だいだらぼっちの事を本気で心配するに至ってしまうのだった。
神という生命の摂理に当てはまらない存在であるから、そこに生死という概念は無いのであるが、やはり自分達は生き物であるからどうしてもその物差しで計ってしまう所なのだった。
そして、二人のその心配はやはり杞憂であったようで、だいだらぼっちの力は滞りなくアイの下へと降臨したのである。
勿論、後はその神の力を機械の器へと送り込むだけであったのだ。
「頼むぞ、だいだらぼっちよ!」
そうアイが言うと同時に、その神の力は何の問題もなく神霊機の中へと取り込まれていったのであった。
そして、神の力を取り込んだ機械の器は、みるみる内にその姿を変貌させていったのである。
その展開の後に完成していたのは、重厚なガトリングガンを模した兵器がそこにはあったのである。
「おお~、アイ様何かそれ凄いです……」
その光景に目を焼き付けるのはリンであるのだった。
彼女とて近代兵器の存在というものはその知識で知っているのであったが、やはり彼女の普段の生活は森の中での野生暮らしが基本なので、それは物珍しい事に変わりは無かった訳である。
そして、知識でそれが何だか知っているリンは、意気揚々とそれの用途に繋がるように台詞を選ぶのであった。
「それじゃあアイ様、どうぞ『ぶっ放して下さい』ね♪」
「うむ、言われるまでもなかろうよ♪」
対するアイも意気揚々と無邪気に言う様は、外見年齢である九歳の少女らしい愛らしいものであったのだが。
同時に近代兵器を目の前に携えて意気込むという、とても幼い少女らしからぬ危なっかしさがそこにはあったのだ。
そんなアンバランスな振る舞いを見せながら、いよいよアイはこれを動かす為の一言を宣言するのであった。
「では行くぞ! グランドガトリング、ファイア!」
その宣言を皮切りにそれは行われたのであった。彼女の操るガトリングガンの銃口から、次々に弾丸が雨あられと放出されていったのである。
だが、やはりそれは普通のガトリング砲とは違うのであった。それは、発射されるのが金属製の弾丸ではなく、無数の石つぶてという点にあった。
その辺り、この産物はやはり神の力を行使する神聖な存在である事を物語っていたという事である。
そして、その放出された無数の石の弾丸は、見事としか言えない程に次々に、かつ的確に風の鳥の群れを打ち抜いていったのであった。
その様は下手をすれば、無慈悲な兵器で持って自然に生きる者達をむごたらしく嬲っているようにも見えよう。
だが、実際はこちらが使っているのは神の力であり、向こうは星の意思が生み出した生物とは異なる存在なのである。
故に、これは倫理的には全く問題のない戦闘光景なのである。そういう事なのである。
そして、石の弾丸に風の鳥達は瞬く間に殲滅されていき、次々と元の風のエネルギーへとなって自然に還っていったのであった。
その際に、鳥達は爆ぜて風の流れとなっていったので、その度に辺りには爽やかなそよ風が生み出されるに至っていたのである。
当然その心地良い波動は、リンの元にまで届いていたのであった。
「う~ん、いいそよ風ですねぇ~。これでこそノーパン甲斐があるってものですよ」
「リンさん、幾ら父さんにバトンタッチしたからって、勝手に快楽を享受するのはやめて下さいね?」
「いいじゃない、減るものじゃない訳だし?」
「うっ……」
そうリンに反論されれば、ミナトは反論する事が出来ずにグゥの音も出ない所であったのだ。確かに減るものなど何一つないのであるから。
外野がそのように不毛な心理戦をしている最中にも、石のガトリングによる風の鳥の殲滅は終わったのであった。
そして、そこには綺麗さっぱり法勢の一体も存在せずに開けた洞窟の内部が存在していた。
「これで法勢もクリアした事だし、先へ進むとしようかの?」
「はい、父さん」
「そうしましょう」
そうアイに返しつつ、ここで二人は思うのであった。
──やはり、この人は自分達がそう簡単には到達しえない所にいる存在なんだのだ、と。




