第20話 リベンジ勝負?:後編
アイの助力により神の力を借りて思い掛けない戦いを見せてきたクリボール。
そんな彼の正体の掴めない攻撃をリンは受け止めたのだが。
「!?」
そして、リンの両手には激しい衝撃が走るのであった。
だが、彼女は確かにその攻撃を押さえ込む事に成功していた為、自身の身体にまでその攻撃が届く事はなかったのである。
その攻撃を受け止めたリンは、今のが何であったのかをその目で確かめるに至ったのであった。
そして、彼女は驚愕する事となる。
「これは……!?」
そう彼女が驚いたのも無理はない事であろう。何故なら、今しがた彼女に繰り出されたものが予想だにしない内容であったからだ。
それは、クリボールの拳がダイヤモンドになっていた事なのであった。
──これは、決して比喩表現ではなく、彼の拳自体が目映く輝く金剛石、すなわちダイヤモンドへと変貌していたという事なのであった。
当然そのような芸当をしでかしたクリボールにリンは驚愕する所であり、その起こる疑問へと彼は答えていったのである。
「これは、だいだらぼっちの力によるものだよ」
「と、言うと?」
それがこの金剛石の拳の形成にどう結びついているのかと、リンは聞き返すと、それにクリボールは答える。
「だいらだぼっちは大地の神様だからね。そして、ダイヤモンドが何で出来ているかリンさんは知ってる?」
「あ!」
それを聞いてリンは察する事に至ったのであった。彼女は野性味溢れる出で立ちをしていてその見た目からは判断する事が出来ない所であるが、実際は彼女は割りと知識を高く持っていたのである。
「『炭素』だよね?」
「その通り、そしてボクに備わっただいだらぼっちの力でその炭素を操る事が出来た──そういう事なんだよ?」
そのようにして、クリボールは得意気に答えて見せたのであった。普段戦う度に辛酸を舐めさせられたリンに対して、ここまで優位に立つ事が出来る事に酔い知れていたのであった。
だが、このリンという相手はいつまでもそのような浮ついた心で向き合っていては簡単に出し抜かれてしまうというものであろう。
なので、クリボールは再度気を引き締め直してリンへと向かい合うのであった。
「それじゃあ、もう一度受けてもらうよ。このボクと神様の力で生み出す『ダイヤモンドナックリー』を!」
「──掛かって来なさい!」
そう意気込むクリボールに対して、リンもその身で精一杯答えようとするのであった。それは、彼が向けるこの勝負に対する意気込みというものが、彼女にも沸々と伝わってきたからである。
それは、クリボールにとって色々な観点から『負けられない』戦いであるからだ。
まず、この勝負に勝てばアイの目に適って皇国へとスカウトされるに至るという事。そして、今まで勝つ事を諦めていたリンに対して白星を飾る事が出来るという事もである。
そんなクリボールの心意気をリンは受け止める事にしたのであった。それは、気の知れた友人の想いにはしっかりと答えなくてはならないだろうという彼女の敬意が含まれていたのである。
両者がそれぞれそのような想いを抱える中で、とうとうクリボールの方から動き出したのであった。
彼はその右腕の拳を眼前に突き出すと、意識を集中してそこに神の力を注ぎ込んでいったのである。
そして、再度その拳はダイヤモンドの硬度を持ち、かつ目映く光を反射していたのであった。
その拳を携えながら、クリボールは再度宣言するのであった。
「もう一度喰らえ! ダイヤモンドナックリー!」
その掛け声と共にクリボールはその背中の天使の羽根で以って文字通りリンの元へと飛び出したのであった。
しかし、その速度はリンの足捌きによる跳躍程の威力は無かった。しかし、今の彼には文字通りの金剛石の拳が宿っているのである。
そして、とうとうリンの元まで迫った彼は、その拳を彼女へと振り翳したのであった。
その拳撃はリンの洗練された格闘センスのようなキレは無かったのであるが、そのダイヤモンドの硬度と神の力を備え付けた拳は、凄まじい破壊力を生むに至っていたのであった。
その拳に合わせる形で、リンも自身の拳を前に構え意識を集中したのであった。
それにより、洗練された彼女の身体能力により、気の流れが操作されてその腕に流れる力が増していったのであった。
それを行った後、リンも自身の拳を敵に合わせて振り翳したのだ。
「こっちも行くよ! クラッシャーフィスト!」
その技名を叫びながらリンも拳の一撃を繰り出したのであった。
そして、リンの拳とクリボールの拳が合わせられたのだ。両者の渾身の拳の一撃と一撃が互いにぶつかり合う。
すると、そこに凄まじい衝撃が走ったのであった。神とダイヤモンドの力を籠めた拳と、洗練された鋼の肉体から繰り出される拳。それらが衝突したのだから無理もない事であろう。
辺りには激しい衝撃波が走ったのであった。それによりリンの腰巻がはためく光景が艶っぽく映っていた。そこにクリボールの視線が一瞬向かっていた。
だが、どうやらその衝突は均衡という訳にはいかなかったようだ。その事が目に見える形ですぐに分かる事となる。
「うっ……!」
そう呻いたのはクリボールの方なのであった。それが示すように、彼の生成したダイヤモンドの拳にヒビが入ってしまっていたのだった。
確かにダイヤモンドは自然界に存在する鉱物の中で最高の『硬度』を誇るのであるが、その硬度というものはあくまで切り傷に対する強さであるのだ。
故に、意外に思えるかも知れないが、ダイヤモンドは金槌の一振りで以って粉々に砕けてしまうのである。極めて高価な代物なので、それを実行する人が少なかったのもその事実が知られるのが遅かったのにも拍車を掛けているのであろう。
そして、リンの洗練された肉体による攻撃は、金槌など比較にならない程の堅剛さを誇っているのである。ここまで説明すれば、いかにリンにダイヤモンドなど攻略しやすい物の提供でしかなかった事が分かるだろう。
しかし、『これもクリボールの計算の内』なのであった。
この金剛石の拳を砕かれたという彼にとって衝撃的な瞬間であったにも関わらずに、彼の目にはぎらついた光が宿るに至ったのであった。その一瞬の気迫を感じて、リンは少したじろいでしまう。
だが、この場の流れはそれだけでは終わらなかったのであった。クリボールは右腕の金剛石の拳が砕かれてもなお、その闘志は費える事はなかったのだ。
そして、彼は今度は『左腕』に意識を向け始めたのであった。
それにより、次はその左腕に変化が見られていったのである。
無論、この左腕もダイヤモンドへと作り変えて反撃を狙うのであろう。
だが、先程その拳がリンの磨き上げられた肉体からの一撃により砕かれたのは周知の事実であろう。なので、もう一度それを繰り返しても悪手である事は疑いようもない事なのだ。
しかし、クリボールが狙うのはリンの『身体』では無かったのだ。そのように、彼にはこの戦いの中で見出した『ある秘策』が存在するのであった。
それは、賭けの可能性があったのだ。もしかしたら、クリボールの思い違いの可能性もあるのだから。
だが、それに賭けなければ彼はリンには勝てないだろうと踏んでいたのであった。いくら今の自分が神の力を借りているとはいえ、それはあくまで借り物に過ぎないのだから。
だから、その神の力に頼っていては自身には勝機はないだろうというのが彼の想いであるのだった。ましてや、高い実力を持つリンには到底無謀であり失礼というものであろう。
なので、彼はリンに敬意を払う意味合いで、そして確実に勝つ為にこの手に出るのであった。
「──ダイヤモンドニードルカッター!」
そう叫び、クリボールはその左腕にも金剛石の力を宿したのである。
だが勿論、先程の右腕とは様相が違っていたのであった。
その左腕は、彼のボディーと同様にトゲだらけのものとなり、そしてそれがダイヤモンドで形成されていたのだ。
その様を見ながら、リンはこう言うのであった。
「拳の形でダメなら、ダイヤモンドのトゲを生やせば良いって事かな? でも、それは凡ミスだよ?」
そう、元よりリンは普段からトゲを持つクリボールをその肉体で軽くいなしてしまう事が出来るのであった。
だから、例えそれがダイヤモンド製になっても変わりない所であろう。
いや、ダイヤモンドという叩く力に弱い物にしてしまった以上、普段よりも状況は悪化してしまうというものだろう。
しかし、そこまで言われてもクリボールは動じる事は無かったのであった。
「勿論、その事は分かっているよ」
そう言って彼はそのトゲまみれのダイヤモンドの左腕を一瞬の内にリンの方向へと繰り出したのであった。
それを目の当たりにしながらリンは残念がる心持ちとなってしまったのであった。
「クリボール君……勝負を焦っちゃったのかなあ?」
本心から惜しそうにリンは言うのであった。折角今こうして彼とはいい勝負が出来たのであるのだから。それが、相手が判断を誤っての自身の勝利になるのは、例え自分が勝っても後味の良くない代物であるのだ。
そして、リンはその無謀な攻撃へと自身の拳を合わせたのであった。
だが、ここでクリボールは悠然と言ってのけたのである。
「残念、狙いはリンさん『自身』じゃないよ!」
そう言いながら彼がその左腕を向けた先は、リンの繰り出した拳では無かったのである。
その瞬間に、当然リンは呆気に取られる事となったのであった。
「? クリボール君!?」
相手が何を考えているのか一瞬判断しかねたリンは思わず上擦った声で反応してしまったのである。
そして、クリボールのその左腕の行き先を瞬時に把握したリンは、ここでハッとなってしまったのであった。
「あ、もしかして……!?」
どうやらリンは気付いたようだ。敵が自身が人知れずに守っていたものを見破っていた事に。
そして、勝利に王手を掛けたクリボールはそのまま言うのであった。
「気付いたようですね、でももう遅いです!」
そう言うと、クリボールはリンの腹部の近くでそのダイヤモンドの刃を振り抜いたのだった。
それは、リンの内臓を狙ったものだったのだろうか?
確かに、内臓というものは四肢と違って鍛える事の出来ない急所であるのだ。
そして、それは物理的ダメージが発生しないパロディアスにおいても有効打なのである。
幾らダメージが精神的なものに置き換えられるとはいえ、元は内臓から発生したダメージなのだ。故にそれは肉体への攻撃以上のものに置き換えられるのだ。
なので、リンはその内臓からのダメージを覚悟して身構えたのであった。ぐっと意識を集中して、来るべき苦痛に備える彼女。
「あれ……?」
だが、彼女はそこで違和感に気付くのであった。そう、いつまで経っても予期していたダメージの発生が行われなかったという事だ。
これはどういう事であろう。だが、その答えはすぐに彼女の中で出る事になったのであったが、戦闘中においてそれまでの時間は致命的であるのだった。
そして、リンが気付いたと同時にそれは行われたのであった。クリボールはその左手のトゲの刃の餌食にしたのは、リンが纏っている服そのものであったのである。
厳密に言うと、彼女の腰巻きスカートを腰回りに固定している紐であるのだった。クリボールはそのへその近くで蝶々結びとなっていた結び目へと器用に刃を通したのであった。
当然、結び目となる部分とは普通にしていれば頑丈な固定がなされるのだが、そこに外部から干渉されると決まって脆くなってしまうものなのである。
リンのそれも例外ではなく、クリボールの正に今こうして『凶刃』となったそれに対して、全く抵抗出来ずに終わってしまったのであった。
即ち、リンを良俗的に護っていた防壁の扉の鍵が、あっさりと解き放たれてしまったという事なのだった。
そして、支えの失ったリンの腰巻きスカートは、無慈悲にも重力に従って地に落ちようとしていた──。
「させるものですか!?」
だが、リンはその危機的状況にも咄嗟に反応したのであった。
彼女は、すぐ側にあった手頃な茨の蔦を手早く引きちぎると、それを腰元へと持っていったのである。
後は話が早いであろう。察しの通りリンはその蔦を先程までの紐の代わりにして、まるで今までこういうケースがあったかのように手馴れた手付きで蝶々結びにしてスカートへと固定したのであった。
「ふう、これで一安心♪」
こうして、リンの良俗的な意味での安全はしっかりと護られたのであった。
だが、悲しいかな。こういう行為を真剣勝負の最中に行ってしまうという事は即ち。
「うん、隙が出ちゃった訳だよね……」
そう言うリンに対して、容赦なくクリボールはそのつぶらな瞳をギラギラと光らせながら宣言するのであった。
「『ブルドーザー・インパクト』!!」
大量発生するムラサキウニは別名『海のブルドーザー』と呼ばれて海底の海草を文字通り根こそぎ喰い尽くして生態系を荒らしてしまうという問題を起こすのであったが、今回のクリボールはだいだらぼっちの力を借りて因縁の相手であるリン目掛けてブルドーザーの如き衝撃を繰り出したのであった。
彼が両手を地面に叩き付けると、そこから一気に地面が掘り起こされていき、その大地の津波はものの見事にリンを飲み込んでしまったのであった。
その衝撃の規模に加えて、リンは今しがた良俗を護る為に隙を見せてしまったのだから、さすがの彼女とてその猛攻に抗う事が出来なかったのである。
そして、その流動に弾き飛ばされながらリンはなけなしの感嘆の声を漏らすのであった。
「ウニすごいの……」
◇ ◇ ◇
こうして、クリボールにとっては見事にリベンジを果たす結果となり、リンにとっては惜しくも敗北という結果に終わったのであった。
そんな展開は、奇しくも両者にとっても衝撃的な感慨をもたらしていたのである。
「驚いたよ、クリボール君がここまでやるなんてね。僕の完敗だよ」
「ボクとしてもリンさんに勝てるなんて自分でもビックリだよ。でも……」
だが、そう言ってからはクリボールはその丸々としたボディーを縮こませるような態度となってしまうのであった。
「これってボクが勝ったって扱いでいいのかなあ? まず、アイ様からは神様の力を借りた訳だし」
それがまずクリボールが引け目を感じている第一の理由であるのだった。そして、第二の理由にも触れていく。
「それから、リンさんがスカートの中身を見せないように戦っているのに気付いてそれを付いたから隙を作れたのもね……。普段のリンさんならスカートが脱げようが中身が見えようが気にしないで戦いを続行したからね」
「それ本当ですか、リンさん!?」
「うん♪」
さらりと問題発言をしたクリボールにミナトが反応すれば、その当事者であるリンもさらりと認めてしまうのであった。
こんな世知辛い世の中に頭を抱えたくなるミナトをよそに、そこから話は進んでいったのである。
ここで出てきたのは、今までの一同のやり取りを見ていたアイであったのだ。
「両者ともよく健闘した戦いじゃったぞ。まずはクリボールよ、恥じる事はない。相手の様子を判断してそれに的確な戦法を取るのは立派な戦術じゃからの? という訳で、お主が勝ったのじゃから、約束通りお主を我が皇国へとスカウトしよう♪」
「アイ様……そうなればボクは大好きなキャベツを好きなだけ食べられるようになるって事ですか?」
「うむ、お主が十分な働きを見せてくれるのなら、お安い御用というものじゃよ♪」
「アイ様ぁ♪」
そうやってアイからのご褒美に歓喜するクリボールの様は、正に無邪気な人間の子供と同じという微笑ましいものがあるのであった。
こうしてクリボールとは話が着いたのであった。続いてアイは一応敗者であるリンにも声を掛ける。
「そしてリンよ、お主もミナトとの約束を守りながら戦って立派じゃったぞ。お主は確かに勝負には負けたが、ノーパンスタイリストとしては勝ったのじゃ♪」
「アイ様……」
そのようにして敗者である自分までも労ってくれるアイに、リンは目頭が熱くなるような心持ちであったが、ここでミナトは密かに思うのであった。
──父さん、最後のは無い方が良かったです、ノーパンスタイリストとして勝ったって意味不明ですから。




