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パロディアスの牙001・ザファイブ地方編  作者: デウスXマキナ
ザファイブ地方編
19/32

第17話 キノコではなくて……

 茨の森にて、難なく法勢と呼ばれる星の遣いにして試練を退けた村雨一行。

 しかし、当然ながらこの法勢と呼ばれる存在は一体何なのかという疑問が生まれてくるだろう。

 なので、ここで説明が必要となるであろう。

 この法勢と呼ばれる存在も、この星パロディアスが冒険者に与える試練の一環なのである。

 しかし、一般的な他の試練とは一線を画す存在である事は疑いようもない所だろう。

 何せ、試練そのものが意思を持ったかのように自律行動を行うのであるのだから。

 これにより、この星の冒険者は程よく戦闘を行えて、その経験を向上させていく事が出来るのだ。

 そして、これらの法勢という存在は星のエネルギーにより産み出される疑似生命体という事なのであった。

 故に、彼等は倒されてもそもそも実際の生物ではない為に決して死ぬという事はなく、そもそも彼等には生死という概念が無く自然から産み出され、自然に還っていくだけなのである。

 つまり、これにより冒険者は無益な殺生をする事なく経験を積んでいけるという画期的な冒険システムがこの星では確立されているという訳なのであった。

 その事を思いながら、安全が保証されている為に適切な表現ではないかも知れないが『無事に』法勢撃退の余韻に浸りつつ会話を交わしていた。

 今口を開いていたのはリンであった。

「つまりアイ様、この法勢達はこの星に優しい存在だと言う事ですよね?」

「優しいという言葉を何か勘違いしておるのではないのか、この政治屋め!!」

「ええっ!?」

 突拍子も無い言葉をアイに返されてリンは度肝を抜かされてしまった。何かどこかで聞いたような言葉だし、自分は政治には関わっていないし。

「というのは冗談で、確かにリンの言う通りじゃな。そもそもこの者達は自然から生まれて来て、倒されても自然へと還るんじゃから、戦ってもこの星を傷付ける事はないのじゃからな」

 そうしみじみとアイは言いながら頷くのであった。

 それに同意するのはミナトだ。

「確かに父さんの言う通りですね。こうして僕らは腕を鈍らさずにいられつつ、自然を破壊しないで済むという訳なのですからね」

 そう言いながらミナトは屈託の無い笑みを浮かべながらいつになく無邪気に振る舞ってみせたのである。このように言う辺り、やはり彼は温厚に見えるようでも戦うのは好きであるようだ。

 そんなミナトの意外な一面も垣間見る事が出来た後は、皆すっきりした気分となって向かい合っていたのであった。

 やはりこの『法勢』システムには好意的に思う者が多いという事であろう。それは生きとし生ける者は皆、その程度の差はあれど闘争心を持っているからである。

 それは、この世界を生き抜く力であるが、うまく扱わないと破滅を生み出す概念なのである。

 生き物のそんな厄介なエネルギーを、この星はこうしてうまく消化してくれる働きをしているという事なのであった。それは、この星が生き物も自然の一部として見てくれているという事なのかも知れない。

 なので、一同は見た目は襲われたように見える今の展開にも、寧ろ感謝の念を抱いているのであった。

 その想いを胸に、村雨一行のこの茨のダンジョン攻略は続いていった。


◇ ◇ ◇


 そして、幸か不幸か、その後は法勢の『襲撃』もなく滞りなく冒険は続いていったのである。

 いや、この場合は『幸』であると取るべきだろう。その答えである理由はすぐに明らかとなるのであった。

「あ、もうすぐですね。『あの子』の気配がしますから」

 そうリンが言う事が示すのは一つであろう。

 そう……。

「新しい魔物のお出ましという事ですね」

 ミナトがその詳細に触れてくれたようであった。

 そう、まごう事なく次なるアイのスカウトの対象が近付いているという事なのだった。

 だが、少々様子がおかしい事にアイは気付くのであった。

「うぬ……いつまで経っても、現れる気配がないのう……」

 それが問題であるのであった。確かに魔物の気配は確実に存在するのだが、肝心のこちらへの動向というものを感じる事が出来なかったのだ。

 一体どういう事なのだろうか? だが、その答えを知るものはすぐ側にいたのであった。

「あの子は人見知りだから、出るタイミングを窺っているのだと思いますね。それと、多分僕がいる事も関係していますね♪」

 そういつになく悪戯っ子のような立ち振る舞いをするリンは、すぐに「僕に任せておいて下さい」と言うと、文字通り背中のこうもりの翼を使って少し離れた場所へと飛んで行ったのであった。

 そして、少しばかりリンが茨の木陰に入ると、そこから話し合う声が聞こえてきたのであった。

『ほら、──君。村雨アイ様がいらっしゃるから、早く行こうよ♪』

『そんな大それた方とボクが会うなんて恐れ多くて出来ないよ……後、本音を言えばリンさんにも会いたくなかった訳だし』

『そんなつれない事言いっこ無しだよ』

『じゃあリンさん、まずパンツ穿いて下さい』

『だが断る』

 どうやら、その魔物のなけなしの願いすら、リンには却下されてしまったようだ。なので、ミナトは『ご愁傷様……』と思ったりするしかなかったのであった。

 ともあれ、どうやらこの渋っていた魔物にも心境の変化というものが生まれ始めているようだった。

『あ、でも今いった事本当? 村雨アイ様がここに来ているって事?』

『大丈夫だよ、僕はパンツは穿かないけど嘘は吐かないからね♪』

『繋がりありそうで全く無いけど、リンさんが滅多な事では嘘吐かない事はボクも知っているからね……』

 そう言ってその魔物は暫し逡巡したかと思うと、意を決したようにこう決め込むのであった。

『分かったよ。ボクもアイ様には会いたいからね。ボクも行くとするよ』

『ありがとう、──君♪』

 そのような魔物とのやり取りのノリだと、リンはそんな彼を抱きしめそうな展開であったが、暫し彼女はうずうずしながらそれを躊躇っているかのようだった。

 その流れからどういう事だろうかと思っていた村雨親子であったが、どうやら彼の出現によりそのからくりは解明される事となったようだ。

 そして、満を持してリンはその魔物を連れて村雨親子の前へと現れたのであった。

「お待たせしました、アイ様にミナト君♪」

「これは……何というか……」

 そう思わずミナトは口にしてしまう所であるのだった。それは、ここまで露骨に『触れ難い』存在はいないだろうという見たまま感じる事であったのだ。それに加えて、実にシンプルな外観をしていたのだ。

 その魔物の姿は、実に分かりやすいものであるのだった。一言で言うと『いが栗』一個を成人男性の一抱え位のサイズに拡大したものに、目と落書きの人間のような手足を取り付けたという、もし創作キャラクターであったらこれ以上思い切ったものはないという様相であったのだ。

 だが無論、この存在はちゃんと意思を持ち活きる魔物なのだ。それを証明するかのようにリンは促していく。

「アイ様、この子が僕の言っていた魔物の『クリボール』ですよ」

「はい、『クリボール』です。よろしくお願いしますアイ様」

 そう言うと『クリボール』はぺこりとアイの前でお辞儀をして見せたのであった。

 しかし、彼は丸いいが栗に目と手足の付いた魔物なのだ。故に、その動きは人間のお辞儀とは似つかない、どこかユーモラスな様相となってしまっていた。

 そんな彼──クリボールを見ながら、思わずアイは呟いてしまうのであった。

「うむ、お主はまるでスーm……」

「はい父さん、それ以上はアウトですからね!」

 父が踏み越えてはいけない一線を越えてしまう前に、ミナトは歯止めを掛けておく事にしたのであった。

 そして、事なきを得た状態から、話が進んでいくのであった。

「お主がリンの推薦する魔物という事じゃな? それなら、わしが……」

「いえいえいえ、ちょっとお待ち下さいって!」

 そう言ってクリボールは被りを振るのであった。その様子を見ながらアイは何事かと思案する。

「のう、どうしたのかのう?」

 そう宥めるように言うアイの配慮によって少しばかり平静さを取り戻したクリボールは改めてこう言う。

「ボクはとてもアイ様のお目に掛かるような大層な魔物ではないという事なんですよね」

「ふむ……」

 そんな弁を打ち出すクリボールに対して、アイは思案しつつもこう返すのであった。

「それはのクリボールとやら……。月並みな言葉になるかも知れぬが、やり切らないで諦めるのはいかんと、わしは思うぞ」

 そのようにしてクリボールの背中を押すように諭すアイであったが、当人にはただの諦めとは違う事情があり、その事を彼は証明すべく話を進める。

「これはただのボクの臆病風とかそういう事じゃないのですよね。それを今から証明しようと思います……リンさん、いいですか?」

「うん、その事を僕が今から証明するのも少しばかりち……じゃなくて心が痛む感じなのですけど、これはアイ様に分かりやすく伝える必要がありますからね……」

 そう言うリンであったが、その際に彼女が聞き捨てならない用語を言おうとしたのをミナトは聞き逃さなかったのであった。

 なので彼は思う。──パンツは勿論、ブラジャーもしなさい、と。

 ともあれ、少年にいらぬ葛藤をさせた事を露知らずにリンは、クリボールと共に行動を開始し始めたのである。

 それは、両者が向き合う姿勢となる──正に決闘の体勢であるのだった。

「ほう、お主等魔物同士の決闘か?」

 その事実にアイは感心しながら両者へと言うのであった。そして、確かに珍しいが、全くない事情ではないと彼女は意識を改めるのであった。

 そう寛容な態度を取るアイに対して、リンは言うのであった。

「そういう事です、アイ様。これから見せるのは僕としても気乗りしない事なのですけど、これでクリボール君の言う事が分かって貰えると幸いですね」

「そういう訳なんですよね、それじゃあリンさん、やろうか?」

 そうあっけらかんと答えるクリボールであったが、やはり彼は気分が乗っていない事が声質から感じ取られるのであった。

 そして、そのような微妙な空気の状態から、いよいよ二人の決闘が始まったのである。

「それじゃあ、始めるよ」

「そうだね」

 クリボールはともかく、リンの方まで意外な程にその口調に覇気が少ない掛け合いから、決闘は始まったのであった。

 まずは動いたのはクリボールであるのだった。彼はその手足を胴体のいが栗の中へと押し込めると、そのままその場で回転を始めたのであった。

「ほう、これは……」

 それを見ながらアイは感心する所であった。何と無駄のない攻撃方法かと。

 そんな自身の身体構造を最大限に活かした戦法を取るクリボールへのアイの感心は一気に高まったのだ。

 その回転は一気に速度を上げたのであった。そして、無論クリボールは全身トゲでその身を形成されているのだ。

 これでは自らの肉体を行使して戦うリンにとって、最悪の相性だろうと村雨親子は思う所であった。

(そうか、これが二人が何やら渋っていた理由か……?)

(いえ、それならリンさんが不利って事ですよ、父さん。でも実際はクリボール君が何やらまごついていたんですよ?)

(うむ、確かにそうじゃのう?)

 これは一体どういう事だろうかと、二人は思案するのであったが、どうやらその答えはすぐに出る事となったようだ。

 クリボールはその回転を保ったままに前へと飛び出し、その身をリンへと叩き込むべく突撃していったのであった。その様は、どこかの城の侵入者撃退用の鉄球のトラップかの如きである。

 そんな生きたトラップと化したクリボールはそのまま相手へと突っ込んでいったのである。このまますれば、その身を武器に戦い、本当の意味での武器を余り使用しないリンは一溜まりもないだろうと思われたのだ。

「……」

 だが、当のリンはこの窮地にも一切動じる事なく対応をして見せたのである。彼女は突っ込んで来たそのトゲ付き鉄球を、跳躍一つで難なくかわすという芸当をしてみせたのである。

 ここまでは村雨親子は驚く事は無かったのであった。このようなリンの肉体捌きは同行してまだ短いながらも、幾度となく見せられてきたからだ。

 しかし、この後はリンはどうするのかと二人は思う所であった。

 何せ、相手はその身が全身凶器というべきトゲを寄せ集めた存在なのだ。そのような相手に武器を使わずに攻撃するなど、命取りもいい所であるのだ。

 それは、幾ら肉体へのダメージが発生しないように統制されたパロディアスでの戦いでも同様であろう。本来自分が傷つくような場合なので、それにより逆に相手にダメージを与えられるようになる等という事は、この星の加護を持ってしても有り得ない事なのだ。

 だが、どうやらその予想は見事に裏切られる事となったようだ。

 リンは、その跳躍した姿勢のまま「はあっ!」と掛け声をあげると、それを皮切りにしたかのようにそのまま宙にて蹴りの体勢へと入ったのであった。

 後はご察しの通りであろう。リンはそのままその素足で敵へと蹴りを放ったのであった。しかも、相手はトゲの塊という産物である。

 そのような事をすれば目も覆いたくなるような大惨事となるであろう。だが、どうやら事はそのように単純な事にはならなかったようであった。

 何と、そのトゲ鉄球の如き存在と化したクリボールに、リンの蹴りが深々と突き刺さっていたのであった。それは、決して逆ではなく、リンの蹴りがクリボールにで間違いはないのだった。

「ぎゃふん!」

 その展開に、クリボールは思わず変な呻き声を出してしまったのであった。そして、彼の回転の突進は見事に止められて、リンに踏みつけられる形となっていたのである。

「ええっ!?」

「何と!?」

 この予想出来なかった展開に、ミナトとアイの親子であろうとも、度肝を抜かれてしまう所であるのだった。

 それも無理からぬ事であろう。何せ裸足のままの蹴りで、トゲまみれの敵を『踏み付ける』という芸当をこなしてしまったのであった。

「父さん……これは……」

「うむ……世の中にはグーに勝つチョキというものがごく稀にあったりするものじゃが……正に今のはそういう感じじゃな……」

 少し別次元の例えをしながらアイは、今の展開は正にその例だと頷くしかなかったのであった。

 そして、リンに踏まれて一撃の元に叩き伏せられてしまったクリボールはそのまま地面に転がり目を回していた。

「きゅううう……」

 そのような感じで、見事に伸びてしまってしまったクリボール。そして、そうさせてしまったリンには罪悪感がひしひしと芽生えてしまったいたのであった。

「だからね、僕は乗り気じゃなかったんですよ。こうなっちゃうのは分かっていましたから……」

 そう言ってしゅんとするリンは、実に乙女らしい可憐な振る舞いであるのだった。無論、そんな彼女を茨の華の髪飾りは余す事なく引き立てていた。

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