第16話 現れる、『法の使者』
茨の森の中にて。
ふとリンが思いついた茶目っ気溢れる遊び心により、そこに咲き誇る茨の華を彼女が髪飾りとして着飾って見せるという催しを見せたのであった。
それにより、見た目は美少女であっても、その中身はれっきとした男性であるアイとミナトの村雨親子は、そんなリンの乙女として愛らしい振る舞いに目を惹かれてしまっていたのである。
そして、リンはその髪飾りをあしらったまま、この先の冒険を続ける事にしたのであった。
ちなみに、いつも被っている帽子は平行世界に既に預けている状態であり、つまり髪を飾るのに余計な物は退場させてあるという徹底っぷりだったのだ。
その事もあり、それだけでリンはまるで今までとは別人かのように非常に『映えて』いたのであった。その事を二人は見事と思うしかない所であった。
「リンさん……何か見違えてますねぇ……」
「うむ……、女性というのはこうも少し模様替えをしただけで化けるものという事なのじゃのう……」
そうアイは言うのであった。彼女は今では曲がりなりにも(?)少女の姿をしているのであるから、同じ女性(?)として見習わなければならないとも感じてしまう所である。
「ほらほら、呆けてないで先に行きますよ。この森も僕の庭みたいなものですから♪」
そのように着飾ったリンは、そのまま意気揚々とリーダーシップを取るかのように二人を先導していったのだ。
こうして二人はリンの導きにより茨のダンジョンを歩き進める訳であったのだが、いつまでも彼女に見惚れている訳にもいかなかったのである。
「……父さん、そろそろ『お出まし』ですかね?」
「うむ、その通りじゃ」
そう言って意識を集中し始めるミナトとアイ。そして、アイはリンにもその事を確認しておく。
「リンも分かっているじゃろう? もうじき『現れる』という事は?」
そう確信を付かない台詞回しでものを言うアイに対して、リンも同意する所であった。
「そうですね。でも大丈夫ですよ? 今の僕はノーパンな上に髪飾り装備なんですから?」
「いえ、パンツを装備していないってのがおかしいです。しかもそれ、強さに関係あるんですか?」
そんなリンのふざけたような弁に頭を抱えながらツッコむミナトであったが、一方でアイは好意的に捉えていたようだ。
「ふふっ、甘いぞミナト。今のリンはその立ち振る舞いにより、確かに普段よりもその身に纏う生命エネルギーに質が向上しておる」
「って、本当ですか?」
その事実にミナトは驚愕してしまう所であった。気の持ちようという言葉はあるが、こうも気が本質に影響を及ぼしてしまうものなのかと。
なので、彼には思わず魔が差してしまうのであった。──例えば、自分もノーパンになれば強くなれるのだろうか、と。
(ないないない!)
だが、彼はすぐに首を横に振ってその考えを手っ取り早く否定する事にしたのであった。
まず強くなるのにそんなメカニズムは無いだろうし、第一今の自分はミニ丈の浴衣という際どい格好なのであるから、そのような危険な『隠し味』を仕込む訳にもいかなかったのである。
(でも……)
しかし、ここで彼は別の考えにも至るのであった。
確かに、意識の集中する箇所の通気性を良くする事で、本人の集中力や体内エネルギーの巡りも良くなり、戦闘においてもプラスの働きをするのでは……とも。
だが、すぐに彼は実行しようかという考えは捨て去るのであった。
まず、自分の『大切な箇所』はそう易々と開放するものではないからだ。美少女のような外見の彼とて、自分が男である誇りはあるからである。
そして、そもそもそんな事を提案すれば、父であるアイの玩具にされる事は明白であるからであった。まず、この普通の男性が着るようなものではないミニ丈の和服も、アイが用意した物であるのだから。
なので、ミナトの結論は一つであった。──自分がノーパンになるなんて、まっぴらごめんという事だ。
そうミナトが一大決心と言えるのかは謎な事を心に決めた所で、彼は本題に入るべく、辺りに意識を配らせる。
すると、この茨の森から、どこからともなく何者かの気配が現出し始めているのが彼にも感じられたのであった。
「いよいよですね……!」
そう言いながら、彼は平行世界から自前の刀を取り出すと、すぐさまそれを手に握ったのである。
そんなミナトの対応が正解だと言わんばからりに、事は起こっていくのであった。
それは、確かに先程までは他の茨と同じく森の一部となっているそれであったものが、まるで意思を持っているかのように蠢き始めたという事だ。
そして、その蠢く茨は徐々にその姿を変え、遂にはその姿を人型のものへと変化させていったのである。その数は二体であった。
その存在の名前を、ミナトは口にする。
「とうとう現れましたね、法勢が!」
それが今しがたミナト達の目の前に現れた存在の名前であったのだ。
『法勢』。それが彼等を指す名称なのである。
彼等の正体。それはこの星パロディアスの意思により生み出された存在という事なのである。
こう言えば、ご察しになる方もいるのではないだろうか。そう、彼等も星が生み出した冒険者に与えられる試練の一環という事なのである。
そして、その試練の中でも特に『目に見える形』となっているのがこれだと言えばいいだろうか。
何せ、この『法勢』は先日の洞窟の落盤のような起これば一回ポッキリである現象とは大きく違い、それ自体がまるで意思を持ったかのように行動するのだから。
これは、この星により、自然の生命力がそのまま生命体のように肉体を形成して動くようになった存在なのである。故に、これらは自然エネルギーそのものが行動を起こすという現象を生み出すのだ。
そんな彼等『法勢』の存在を認識したミナト達の行動は早かったのであった。
まず、動いたのはミナトであるのであった。彼は手に持った刀を、抜刀の形で一気に抜き払い、その一閃の元に『茨法勢』の一体を切り伏せたのであった。
すると、その法勢は一瞬の内に真っ二つとなり、その身は綺麗に二分割されてしまったのである。
そのような惨状にしてしまったら、この茨法勢の一体は命をむごたらしく奪われてしまったという事になりかねないだろう。
この星での決闘は命の奪い合いには決してならないシステムが構築されているというのに、これではその星の配慮も形無しというのであろう。
だが、この辺りも安心して欲しいのである。その事を示す現象が今起きようとしていたのであった。
今しがた真っ二つにされた法勢の一体は、その分割された茨の身がそのままこの茨の森へと同化し、再び森を構成する木々の一部へと戻っていったのである。
これが、惑星パロディアスの意思が生み出した法勢のシステムなのであるが、今はこの事を説明する前にやる事があるのであった。
そう、残りもう一体の茨法勢の存在なのであった。こちらは先駆の方とは違い、ターゲットをリンへと向けていたのである。
そして、その法勢からしてみれば、今度はベストな相手のチョイスであるだろうという思考に至っていたのであった。
先程は温厚そうな少年だと思って掛かれば、実は刀の達人であったという読み違いの為にあっさり斬り捨てられてしまったのであるが、今回はか弱そうな魔物の少女が相手なのだ。
無論、魔物であるが為にその見た目での判断は危険なものとなるだろう。しかし、それでも先程の少年の時程の読み違いはないだろうと法勢は判断したのであった。
そして、その意識を確かにリンへと向けたのである。
すると、その法勢はおもむろに右手を高らかに頭上へと上げたのだ。
その次の瞬間であったのだ。その法勢の右腕が鞭のようにシュルシュルと伸びていったのである。
後の展開は分かるであろう。その腕はトゲ付きの触手となって、リンへと襲い掛かったのだ。
「リンさん!」
その危機的状況に、ミナトは咄嗟に法勢の標的となった少女に呼び掛けていたのだった。
ちなみに、ノーパン少女に触手という玄人好みのシチュエーションだと一瞬思考がよぎったのだが、どうやらそれは本当に一瞬の事だったので事なきを得たのである。
本題に戻る。その茨法勢の触手の迎撃は、刻一刻といたいけな少女……に見えるリンへと向かっていたのであった。
だが、当然というべきだろうか、当のリンには焦りの類いは全く無かったのである。
「はあっ!」
そうリンは掛け声をあげると、全く無駄のない動きでその触手攻撃の回避をこなしてしまったのであった。
そして、その動きの勢いに乗る形でそのまま敵の懐へと潜り込み、そこでその裸足の足を地面へと踏み込んだのだ。
次にやる事は決まっていた。彼女はその踏み込みと体のバネを活かして、そのまま回し蹴りをその茨法勢へと叩き込んだのであった。
それにより、その法勢も先駆と同じように真っ二つにされてしまったのである。
そう、リンの蹴りには今までのパロディアスの加護の下による決闘では分からなかった事だが、このように対象を両断するだけの威力があるという事だったのだ。
「ふう……」
そして、難なく敵を仕留めたリンはそれも先駆のように自然へと還っていく様を見ながら一息吐くのであった。




