第15話 文字通りの意味で、茨の道
村雨一行の行く手に広がる森……なのであるが、どうやらその森はリンと出合った所とは違い、普通の森とはいかないのであった。
その事は、彼等がその森の入り口へと辿り着いた時に分かる事なのであった。
「父さん……ここは……」
「このような場所もあるのじゃのう……?」
そう言って二人は今目の前の光景に目を見開いている所であるのだった。
その理由はこうである。
「こうも、『茨』の森ってのも見事ですね」
それが答えであるのだった。
ミナト達の目の前に繰り広げられている森は、普通の木々ではなく、茨で構成されているのであった。
茨……それは所々にトゲのある、割と危ない木であるのだった。それが普通の木々のようなサイズのもので、この森は形成されているという事であるのだ。
無論、このパロディアスではこのような危ない木々の中での旅も保証されているものであるのだが、それでも普通の木々と比べてリスクがない訳ではないのだ。
そのような光景を目の当たりにしたミナトは再確認の意味を籠めてアイに言うのであった。
「父さん、当然ここを通る……って事ですよね?」
そのなけなしの覚悟と僅かな期待を籠めて放ったミナトの問いに返って来た答えは、やはり非情なるものであったのだ。
「そういう事になるじゃろう。そもそもここを通り抜けなければならぬし、この先にわしの神通力により、スカウトすべき魔物がいる事が告げられているのじゃからな」
「そう、ですよね……」
そう言葉が返って来る事は予感はしていたミナトであったが、いざ実際に言われると少々尻すぼみしてしまう所なのだ。
そんな彼に後押しと取るべきか追い打ちと取るべきか分からない言を、リンは口にするのであった。
「ミナトさん。そこまで気を張る事はないですよ。この森はちょっとチクチクするだけですから♪」
「いえ、あなたこそこの森へ入る事に危機感を覚えて下さいって……」
そうミナトが反論したのも無理はないだろう。
何せ、茨とはトゲトゲの産物、そしてリンは肌の露出が激しく、あまつさえ裸足なのである。その事を考慮すると、どう見てもリンがこの森へと入るのは自殺行為もいい所のように思われるのであった。
勿論、パロディアスでの旅は肉体的ダメージは発生しないようになっているのであるが、それでもこのトゲへの接触がそこから代わりに精神的ダメージへと変換される事は避けられないだろうから、安全でも『楽な』探索とはならないだろう。
しかし、そんなミナトのリンへの心配は、全くを以て杞憂である事が分かる事になるのだが、それはその後の話であり。
今は、このような危なげな自然のダンジョンへと一行は立ち入らなければいけないという事に尽きるのであった。
なので、リンは躊躇するミナトに対して発破を掛ける意味合いでこう言う。
「もしかしてミナトさん、怖気づいているんですかぁ?」
そう挑発めいた口調で言うリンであったが、ミナトはそれに乗る程安い心は持っていなかったのであるが。
「その挑発に乗る気はありませんけど……。いつまでも躊躇っていても仕方がないですからね。なので、もう決心はしました」
「そうこなくっちゃ♪」
漸く覚悟を決めたミナトに対して、リンは気持ちのいいものを感じるのであった。そもそも挑発に乗るか否かは問題ではなく、ミナトが動けば何でも良かったのであるし。
「これにて、話は決まったようじゃな♪」
そして、アイの方も事が進むこの展開に心地よいものを感じ、そして最後に確認の意味を籠めて皆に言うのであった。
「それじゃあ、ミナトにリン。この正に茨の道に、飛び込んでいく覚悟はあるかの?」
「ええ、もう迷いませんよ」
「そもそも、この茨の森も僕にとって庭のようなものですしね」
「決まりじゃの、では行くとするか」
こうして、見た目危険極まりない魔窟へと、一同が向かう算段が着いたのだ。
◇ ◇ ◇
そして、村雨一行は遂にその茨の森の中へと足を踏み入れたのであった。それだけで、この森の異様さが沸々と伝わってくるのであった。
それは、普通の木々のような柔らかい雰囲気からかけ離れており、その身にトゲというトゲを付けた植物が森の主役をこなしているという所から威圧感すら伝わって来るのである。
そのような刺激的な光景に、意外にもミナトの反応はこうであるのであった。
「父さん、この冒険は結構楽しいですね」
それが彼の結論であるのであった。彼はこの独特の様相の森の探索を始めて、その冒険心に火が付いてしまったという事のようだ。
彼とて、意外かもしれないが、ただ温厚なだけではなく少年らしくその好奇心も非常に旺盛な所があるのであった。それが今、普段深層心理に隠れている所から表に出ただけの事なのである。
そんなミナトの一面を垣間見たリンは、ニヤニヤと粘着質な笑みを浮かべながら彼に言うのであった。
「おやあ? ミナト君。さっきまでは嫌々だったのが、今じゃあ乗り気だねえ?」
「ええ、お陰様で僕の冒険魂に火が付いてしまったようですよ♪」
対するミナトも、負けじと意気揚々とリンへと返すのであった。
そんな彼に対して、この事に踏み入るなら今しかないと、リンは言葉にする。
「そう、冒険心ってのは大切だからね。なので僕のノーパンスタイルも冒険って事で認めて下さい」
「それは冒険の意味が違うのでお断りします」
どうやら、折角のリンの好機は棒に振られてしまったようだ、残念。
「ぇ~……」
ここに一つのどうでもいい敗北が生まれた所で、一行の冒険は続いていくのであった。
そして、この文字通りの茨の道を進み続けて行く一行。そんな彼等を出迎えるかのような光景が辺りには現れたのであった。
「うわあ~……これって……」
それを見たミナトは、思わず感嘆の声をあげてしまっていた。
そうミナトが心奪われてしまった理由。それは、彼等を立派に咲き誇る華が出迎えたからであるのだった。
そう、それはこの森の主成分である茨の華であるのだった。即ち、細工のように精鍛でかつ艶やかな朱の華が、辺りに沢山咲いていたのであった。
その美しさは、一度薔薇の華を見た人であるなら分かるかも知れないだろう。
「ほう、見事な茨の華じゃのう……」
アイもミナトのその主張に同意する所であるのだった。
(!)
そんな二人の『茨の華称賛』にふとある事を思い付いたリンは、早速とばかりにそれを実行に移すのであった。
そして、密かに『それ』を実行したリンは、ここで二人に声を掛ける。
「アイ様♪ ミナト君♪」
そう突如はにかむかのように弾む口調で呼び掛けて来たリンを、村雨親子は見やる。
「おう……これは……」
「リンさん……」
そして、リンの思惑通りに二人は思わず呆けてしまうのであった。
そんな二人の視線の先には、彼等が見ていた茨の華を淑やかに髪に飾っているリンの姿があったのだ。
その状態から、リンは照れくさそうに二人に聞くのであった。
「どうかな、これ?」
その質問の後に、暫し沈黙が走ったが、すぐに時が動き出し二人は口々に彼女に向かって言うのであった。
「見事に似合っているぞ、リン」
「リンさん、素敵です」
そこに、人格で言えば男二人であるアイとミナトが否定する要素は無かったのであった。
つまり、今の華でしおらしく自分を女性として飾ったリンは、二人の男性の目を惹くには十分な魅力を持っていたという事だ。
そのような、お世辞ではない二人の心からの言葉を受け取ったリンは、更に頬を染めながら言葉を返すのであった。
「良かった。僕って森の中で野性味溢れる生活をしているから、自分の女気ってものの自覚が難しいんですよね。でも、今の二人の対応から考えて、その心配は杞憂だったって事ですね?」
そう可憐に立ち振る舞うリンの姿は正に乙女であるのだった。
(リンさん……)
そんなリンを見ながらミナトは思うのだった。──やっぱりこれでノーパンではなかったら、と。




