第14話 旅の後半戦
前日には皆の意見が一致し、道中にあった森の中の宿泊施設の『ログホテルビレッジ』の一角である『ホテル:皇』へと泊まるに至った村雨アイとその一行であるのだった。
そして、各々がホテルの中でそれぞれの憩いの時間を過ごし、そして夜が明けていったのであった。
「う~ん……」
そう早朝特有の程良い気だるさを感じながら目が覚めて間延びするゴブリンバットの少女のリンは、今の自分の置かれている状況に気付くのであった。
「あ、昨日からホテルに泊まったんだっけ……」
言いながら彼女は現状把握に目覚めたての脳の働きを総動員する。
昨日は自分はアイの繰り出す神霊機に見事打ち勝ち、そしてそんなアイと同行者のミナトの事を気に入り、そして自分も今のザファイブ地方での行動に関して同行するする事に決めたのだ。
そして、その後は洞窟へと入り、そこでも自分の友達の魔物のサイコメットーラーのメットが自分と同じくアイの神霊機と激闘の果てに打ち勝ち、自分と同様に新たな道を掴む好機を得るに至ったのだ。
その後メットと別れ、洞窟から出た先には今いる宿泊施設地帯の『ログホテルビレッジ』へと辿り着き、そこで時刻が夕刻である事に気付き、そのままそこのホテルの一角である『ホテル:皇』へと宿泊する事に決まったのだ。
そのホテル:皇はノーパンの利用者も大歓迎の、正に自分にうってつけな仕様の場所であったので彼女もそこを薦めるに至り……。
そして、彼女にとっての理想郷のこの場所にて、羽目を外した彼女はあろう事か、その解放感に蕩け切りながら全裸となって寝るに至ったのであった。
そう、寝た時の姿がそれだった訳だから、起きた今もその姿な訳であり。
「そうだったね、昨日は裸でそのまま寝たんだっけ☆」
言いながらリンはてへっと舌を出しながら誰にともなく茶目っ気を出して見せたのであった。
そして、そんな彼女は上半身を布団の中から出している訳であるので、その膨らみかけの胸元が恥も外聞もなく曝け出されていたのだ。
なので、いつまでも生まれたままの姿ではいけないとリンは思うのであった。常時ノーパンの彼女とて、最低限の弁えというのは存在するのであった。しかし悲しいかな、ノーパンな時点でそれは本当に最低限であるのだ。
「さてと、服を着ないとね」
そういうリンの視線の先にあるのは、寝間着であるこのホテルの浴衣と、普段着の粗末な毛皮のノースリーブワンショルダーとミニスカート丈の腰巻きのセットであるのだった。
このように、寝間着と普段着が同居しているという光景が生まれるのも、全裸で寝た時に起こる珍現象なのであった。
そして、それらは綺麗に畳まれていたのである。確かに普段彼女は下着を身に付けないという破廉恥な格好であるが、それはだらしなさからくるのではなく、逆に彼女自身が取り決めた規律によってのものなのだ。
つまり、リンというこの魔物は『几帳面な女の子』であるのであった。些か信じがたい事実かも知れないが。
◇ ◇ ◇
その後一同は朝起きるとそれぞれの支度を済ませ、後は前日の約束通りに食堂へと合流するに至ったのである。
「おはよう。うむ、これにて皆が揃ったようじゃの♪」
「ええ、そのようですね」
「みんないるね♪」
心地よい朝のねぼけまなこを噛み締めつつ、一同は皆快い朝の挨拶をして無事の確認をし合うのであった。
そして、その様子からホテルという外泊で起こりうる問題である睡眠の事も無事にこなした事が感じ取られるのだ。
その事はすでに皆の様子で分かっていた一同であったが、ここで再確認の意味も籠めて口で確認しておいた方がいいだろう。
「皆の者、どうやら昨日はよく眠れたようじゃの♪」
「ええ、お陰様で。父さんこそお体の年齢は九歳なのですから、興奮して眠れないという事は無かったようですね」
「勿論、心配はご無用って事じゃよ。それと、リンの方はどうじゃったのかの? 普段お主は森の中で眠るのじゃから、わしらの中でも特に落ち着かなったのではないかの?」
「アイ様、それこそ心配ご無用ですよ。寧ろ、森の中以上によく眠れましたよ。何たって全r……」
「はいはいはい!」
話が怪しい路線へと向かう事をいち早く察したミナトは、ここで強引にこの話を切り上げる事としたのであった。これ以上、朝から聞くのはどうかという、寧ろ夜に聞いて悦ぶような内容の話には持ち込ませたくはなかったのである。
「ミナトさん、この話聞かなくていいんですか? 何と言っても素肌に布団が……」
「はい、完全にアウトだからやめましょうね!」
尚も食い下がるリンに対して、ミナトの方も負けじとバリケードを張って応戦する所であったのだった。
そして、どうやらその不毛な攻防は引き分けとされたようだ。
「二人とも、朝からそうテンションが高くては辛いじゃろうから、その辺りにしておくのがいいじゃろう?」
「あ、それもそうですね」
「同じく」
その意見には二人も同意する所であったのだ。それは、彼等は二人とも朝にはそこまで強くはない性質であるからだ。
何故か他人を操る性質の強いエゴイストは朝から活気に溢れているという、常人から見ると羨ましい限りの特性を以ているものであるのだが。無論、エゴイストでなくとも鍛錬や心掛けにより朝から調子を出せる人もいる事は忘れてはならない所である。
閑話休題。今重要な事は、彼等が朝からはしゃぎすぎてはいけないという内容であるのだ。
その事を理解した一同は、いよいよこの場に集合した本題へと入るのであった。
「さて、朝起きたばかりという事もあって、お腹も空いている事じゃろう。つまり、まどろっこしい話は無しという事じゃよ♪」
「理解が早いですね、父さん。僕もお腹が空いていますからね」
「僕もですよ」
ここに一同の意見は合致したのであった。要は、朝のすきっ腹を満たすべく、早い所目の前の食堂へ向かう、たったこれだけの事なのだ。
そして、食堂に入場して一同は昨夜と同じようにバイキング形式で料理を各々集めていったのであった。
しかし、ここで暗雲が立ち込める事となったのである──アイにのみであるが。
各々が料理を集めて席へと集っていた村雨一行であるが、今この場は全くを以て微妙な空気に包まれていたのであった。
「…………」
そう無言を貫いていたのは、アイであったのだ。
その理由は取り敢えず分かっているのであったが、念のためにミナトは彼女に聞いておく事にしたのであった。
「父さん、どうしましたか?」
「うむ……、煮物が無かった……」
やっぱり、とミナトは思うしかなかったのであった。余りにも予想通りであった内容であったからだ。
「うぼぁ~。わしはのう……、里芋の煮っころがしのような丹精込められた作られた煮物にありつきたかったんじゃあ~☆」
「また出ましたね、その口癖……」
「そして、ホテルの食堂で朝からそのような物が出される場所ってのは少ないと思いますよ。皆さん朝はさっぱりしたものを食べたいでしょうから」
「そういうものかのう……」
そう言って拗ねるアイは、正に外見通りの九歳の少女そのもののようであった。
しかし、その内容は寧ろ未成年の人は余り好まないような、煮物を欲するというものであるのだった。
これは、大人と子供を使い分けているのではなく、自身が大人だか子供だか判断の付いていないアンバランスなものであるのだった。これにはカミーユ・ビダンも真っ青な所であろう。
そのように子供相応に多少拗ねるアイであったが、その心は立派な大人であるが為に我が侭をそこまで引きずる事なく、代わりに盛り付けた、かつてホットケーキと呼ばれていて今ではパンケーキと認知されている代物を美味しそうに頬張るのであった。
その様は、また子供っぽいものであったのだ。やはり彼女の心は大人だか子供だか判別の難しいものであろう。
◇ ◇ ◇
そのようにして、本当に微妙な空気の中で終わった朝食も終わり、その後は出発まで各自再び自身の部屋へと向かい、歯磨き等の身支度を終えてホテルのロビーへと集合していたのであった。
「うむ、みんなおるようじゃの。それじゃあ、出発するとするか」
「そうですね」
「僕も大丈夫ですよ」
このようにしてそれぞれが、出発OKな意思表示をし合うと、一同はその足でホテル:皇を後にするのであった。
◇ ◇ ◇
そして、村雨一行がホテルを出てそのまま辺りを意識すると、その光景が目に飛び込んでくるのであった。
昨日は夕刻時の到着であったが為に意識がそちらへ向かっていたものであるが、こうして朝の澄み渡った状態の景色を目の当たりにした時、村雨親子は再認識するのであった。
「ほお~、ここはこういう所じゃったのじゃな……」
「そういう事みたいですね……」
そう二人が呆気に取られている理由。
それは、この『ログホテルビレッジ』が、正に森に面した場所に設けられていたという事であるのだ。
つまり、目と鼻の先に森が存在するという事なのであった。
それが意味する所は……。
「この森が次の目的の場所って事ですよね、父さん」
「そういう事じゃ」
その村雨親子の言が全てを物語っていたのだった。
そして、この森。どうやらリンの住んでいた森とはその様相は違うようだ。




