第10話 獣機使い:前編
洞窟内で出会ったコボルドの少年の、『サイコメットーラー』の『メット』。そんな彼をスカウトする為の戦いの火蓋は、今落とされようとしているのであった。
まずは、メットの方は準備万端という様子であった。と、なれば後はアイが彼と戦う相手を『拵える』事のみとなるだろう。
なので、アイは満を持してその準備へと取り掛かるのであった。
「メットの方はもう良さそうじゃからな。後はわしの方となるだけじゃろう♪」
そう言ってアイは手慣れた手付きで懐からいつもの『神霊機』を取り出すに至ったのである。
無論、それだけでは何も起こらないというものなのである。なので、アイは次なる行動に出る……その前にメットにこう言う。
「当然お主は初めて見る事になるのじゃからな、説明しておくとするかの?」
「一体どうするの?」
「まあ、見ておれ♪」
如何にも少年らしく興味津々といった風に食い付くメットに対して、少しじらすようにアイは楽しげに振る舞うのであった。
そして、そのようにしてメットの反応を見るのも面白いが、それでは彼が可哀想という事で、アイはいよいよ本番へと入る。
「それじゃあの、この神霊機を起動させる為に、今これからわしが『神』の力を呼び出すとするからの?」
「おお~☆」
神の力を……そのキャッチフレーズはメット程の少年ともなれば、やはりロマンを掻き立てられるというものなのであった。故に、彼も今から起こる事に目が釘付けとなる所であったのだ。
そんなメットの純真な姿勢に気持ちが良くなりつつも、アイはちゃんとこれからやる事をやるだけだと心に決めて、神の呼び出しに取り掛かるのであった。
「では行くとするかの? 出でよ、『だいだらぼっち』!」
そうアイが宣言すると、辺りの空気が一変するのであった。
そして、その変化の後に、目に見えた光景が繰り広げられていたのである。
その事に、アイと対峙していたメットはいち早く気付く事となる。
「これが……だいだらぼっちって奴なんだね……!?」
そうメットが指摘する視線の先にあるのは、洞窟の通路に浮かぶ二つの巨大な瞳であるのであった。
そして、そうメットに言われたアイは彼に言葉を返す。
「そうじゃ、この者こそがだいだらぼっちという訳じゃな? じゃが、そもそもはこの者は巨人の神であるからの? そういう訳でその姿をこの洞窟に合わせて瞳だけにしてもらったという事じゃよ」
「ほおお~……」
メットはその言葉にただただ感心するしかなかったのであった。色々とスケールがデカすぎて、コボルドの少年をやっている自分の世界の視点から見るとおいそれと辿り着く事の出来ない領域だと感じる所なのだから。
なので、余りの興奮により、思わずメットはこう口走ってしまうのであった。
「すごいっす! オレ思わずオシッコちびりそうになっちゃいました~☆」
それもそれで下な話題なのでどうかと思う主張であったのだが、これに更にいらない引っ掻き回しをする者がいたのであった。
「メット君。オシッコ漏らす際にはノーパンが便利だよ♪」
「その場合汚すものがないですからね……ってバカ!」
ミナトは思わずノリツッコミをしてしまった所であり、そんな流れに組み込まれた自分に嫌悪感を感じてしまいもしたのである。
そして、今のリンの口振りからある疑惑が生まれるのであった。──この魔物は、まるで経験談から言っていたようにしか見えなかった、と。
しかし、考えていても仕方がない事だと腹を括ったミナトは、それ以上の追求をしないようにと心に決めたのであった。
それに、今は父が呼び出した大地の神が、今回はどのような機体を生み出すのか、それを見所にするだけであるのだから。
そんなミナトの心を察するかのように、アイはここで宣言するのであった。
「では、だいだらぼっちよ。わしの神霊機に力を与えたまえ!」
そう言ってアイは右腕を高らかに上に上げて見せるのであった。その際に、彼のノースリーブの小袖という矛盾した出で立ちの中から、いたいけな九歳の少女の腋がお目見えしてしまったのである。
──どうして僕はこうも『目のやり場に困る女性』ばかりと関わりやすいのだろうか、と。
そう思うミナト自身、ミニ丈の浴衣から生足を覗かせる美少女にしか見えない外見である事は触れてはいけないだろう。
幸い、メットは大地の神の降臨に夢中となっていたので、今の一行のむせかえるほど甘酸っぱい要素のオンパレードには意識が向いていないようだ。
そんな状況でも、アイの行った神の力の行使は確実に形となって現れるに至るのであった。
神霊機がだいだらぼっちの力を取り込んでいき、みるみる内にその姿を顕現させていったのである。
そして、その規模はこのザファイブ地方に来てから見せた前の二回目の時のケースよりも、より大きいものとなっていたのである。
それも当然であろう。何せ巨体の神であるだいだらぼっちの力を取り込んだのだから。故に、その体躯も巨大なものとなるのはごく自然な事であるのだった。
そして、それは動物の脱皮の如く大っぴらに行われていく、そんな光景をメットは目に焼き付けていたのである。
「すごい……」
これが、皇帝村雨アイの底力というものであろうか。改めてメットは彼女の持つものの計り知れなさを思い知る事となるのであった。
そのようにメットが心奪われている間にも、それは確実に明確な形を形成するに至っているのであった。
「これが……」
その全体像は、ミミズのようなものであった。
ミミズ自体にはメットは慣れ親しんでいるものである。何せ洞窟を掘り進めるのが日課である彼にはいつも自然にお目に掛かるものであるからだ。
だが、今彼の目の前にある『それ』を易々とミミズと呼んでしまうのは、様々な観点からとても許容出来るものでは無かったのだ。
まず、そのボディーが本物のミミズとは違い、鋼鉄製の機械によって形成されているという事なのである。これだけで、メットが慣れ親しんできた生物としてのミミズとはかけ離れているだろう。
それだけでも飛んでいる話だというのに、その事が大した話題でないと思わせる徹底的な概念がそこにはあるのであった。
それは、無論とでもいうべきだろうか。その巨体であるのであった。優にそれは5メートルを超えるものであったのである。
「…………」
機械仕掛けかつ巨体。その異質極まりなく、かつ威圧的なその存在に、メットは思わず無言となってしまうのであった。
そんなメットを見ながらアイは彼に挑発めいた態度でのたまう。
「どうしたかのう? 怖気づいたのかえ?」
無論、アイは相手に余計なプレッシャーを与えて押さえつけるという下衆な趣味は持ち合わせてはいないのであり、これは寧ろメットに発破を掛けて彼が物怖じせずに本調子で戦えるように仕向けるという彼女の配慮から来るものであるのだ。
だが、この光景を目の当たりにしていた外野のリンとミナトの二人は、この『課題』はどうなのかと思う所であるのであった。
「……ミナトさん。これ、僕の時とは比べ物にならないお出迎えでしょう?」
「ええ、父さんもいつになく本腰を入れていますね……」
リンは勿論、息子のミナトすらそう思う所であるのだった。──今回のアイの本気は伊達ではない、と。
だが、それだけ彼女がこの『サイコメットーラー』こと『メット』に立派なものを感じたという事の現れという訳なのだろう。
しかし、この課題はあどけない少年たるメットには少々キツいものがあるだろう。
そう思ったリンは、ここでメットに声を掛ける事にしたのであった。
「メット君、大丈夫? このスカウトは強制じゃないから、もし無理ならアイ様に言えばいいと思うよ?」
その事はリンの独断から感じられるものではなく、アイからは決して無理強いではないという方針が彼女の立ち振る舞いにより伝わってくるものなのだ。
そして、そのリンの読みは的を得ているようであった。
「そうじゃよ、メット。リンの言う通りじゃ。何と言ってもわしのモットーの一つは『無支配』じゃからのう?」
それが意味するのは、彼女が他の者を支配して自分の思い通りに動かすというのが最も嫌う行為という事なのであった。
それは、彼女が皇帝という役職にある事が所以であるのだった。
皇帝というものは王というものよりも支配のイメージが強いだろう。その事もあって、アイはそんな負のイメージのある皇帝にはなるまいという強い気持ちがあるのだった。
だが、アイは決してメットの降参を促すような方針は無かったのであった。なので、彼女はこうもメットに言うのであった。
「じゃが、お主も『これしきの事』で諦める気はないじゃろう? 何にしてもお主次第じゃよ♪」
「……」
そのアイの物言いに、メットは慎重になって考え込む所であるのだった。それは、彼は自分の実力と相談しようと頭の中で考え始めたからである。
これは良く考慮しないといけないだろう。いくらこのパロディアスでの決闘が絶対安全とはいえ、これ程の存在を相手にすれば、その精神への影響は大きいのであるから。
(でも……)
だが、もうメットには迷いは無かったのであった。元より、こうして皇帝アイと対峙した時点で自分の心積もりは決まっているのだから。
(よし……!)
そう心の中で自分を鼓舞したメットは、意を決して言うのであった。
「アイ様、オレそいつと戦います!」
「良く言ったのう」
メットのその勇気と心意気にアイは感心する。そして、そんな彼に経緯を示す意味合いで、彼女はこう言うのであった。
「この者は『ダンジョンワーム』と名付けた。今からそう呼んでくれると助かるぞ」
「あ、はい」
その申し出から、メットはアイのこれから勝負に向かう際の心意気を感じ、そして素直に了承の返事を返したのである。
「では、メット。勝負開始じゃ!」
そのアイの言葉が合図となったようだ。メットはそれに押される形で答えるのであった。
「はい、オレの底力をアイ様に見せてあげるよ♪」
◇ ◇ ◇
そして、とうとうメットとダンジョンワームの戦いは始まったのであった。
「まずは、わしの方からいかなければならぬじゃろうな?」
そう言うアイの真意は、彼女がけしかけたダンジョンワームの性質上、どうしてもまず自分側から行動を開始しないと物事が始まらないという事にあるのであった。
その為にアイがまずワームにさせるべき事を彼に指示を出す。
「まずは何ともといった感じじゃな? では──ダンジョンワームよ、潜れ!」
その指令を受けた機械ミミズはその頭をもたげるや否や、そのまま地面へとそれを突っ込んで見せたのである。
後はご察しの通りであろう。彼はその機械の頭で以て一気に地面へと穴を開け、そのままその中へとズルズルと捻じ込むように潜っていったのであった。
「むぅぅ……」
この光景にメットは唸るしかなかったのであった。こうも先に自分の得意分野である、地面を潜るという行為をされるというのは出鼻を挫かれたという感じであるからだ。
そんなメットの様子を見て、すぐにアイは察する所であるのだった。
「地面に潜るのは、お主の専売特許という訳ではないのじゃからな?」
そう得意気に、それでいて諭すようにアイはメットに言うのであった。
だが、元よりメットはこの巨体なる強敵へと戦いを挑んだ身であるのだ。故に、これしきの事でへこたれる心積もりは既に無かったのであった。
そして、彼は意気揚々とアイに言葉を返す。
「アイ様こそ、オレの取柄が潜るだけだと思ってはいないよね?」
そう言うと彼はどこからともなく巨大な鉄球を取り出したのであった。
明らかに物理法則を逸脱していると、我々地球人は思うだろう。だが、これはパロディアスではごく普通の光景であるのだった。
この星では、自分の持ち物を予め平行世界へと預けておけ、それを自由にいつでも取り出すという事が可能なのだ。
それは、この星が冒険する者への配慮の意味が込められているのであった。旅に必要な、かつかさばる荷物を持ち運ぶ事なく旅を出来るようにし、旅の間に起こる戦闘をより快適に行わせるというのが星の意思の狙いなのである。
無論、自由にはある程度の責任がつきまとうものである。この便利な星の機能も例外ではなく、一日に四回が限度という制約が設けられているのだ。
しかし、幸いその際の取り出せる道具の量や大きさは問われないのである。あくまで回数のみが制限されているという事である。
なので、そのアイテムの取り出しを戦闘中に行うというのも、特におかしい話ではないのであった。問題なのは別の所にあり、その事をアイは指摘する。
「ほう……そのような大きな武器を使うのじゃな、お主は?」
その事が話題となるのであった。今しがたメットが取り出した鉄球は、直径が優に2メートルはあろうかという産物であり、勿論人間の少年と同じ程の体格のメットには一回りも二回りも上回っていたのだから。
そうアイに問われたメットは、今度は彼が得意気になってアイに返すのであった。
「オレは重機使いなんでね。これ位朝飯前って事だよ? ちなみに、この鉄球は削岩機で使うものさ♪」
そして、メットはその鉄球をぶんぶんと円を描くように振り回し始めたのであった。それだけで、そこから生まれる力の大きさというものが察せられる所であろう。
そのウォーミングアップが一頻り済んだ所で、メットは迷わずにそれをぶん投げるに至ったのであった。
「そこっ!」
そう言うとメットはその巨大な鉄球を地面目掛けて投げ付けたのである。すると、それがまるで狙いすましたかのように今しがた地面から顔を出したワームの頭部を捉えたのであった。
刹那、金属同士が叩き付けられる激しい音が洞窟内に鳴り響き、そして、そこから火花が散り始めたのである。
その展開は、メットにとって少々予想外の出来事だったようで、彼は首を傾げる。
「これは……?」
そう彼が首を捻るのも無理はない所であろう。何せ、彼が予想していたのは、自前の鉄塊により敵の頭を叩き潰した光景であったのだから。
しかし、現実にはそうはなってはいなかったのである。それが何を意味するのかをメットは目を向けて理解していこうとする。
そして、すぐにその真意を彼は理解するに至ったのであった。
「これは……ド……」
その解は、ミミズの頭がドリル状になって鉄球へとぶつかり合っていたのであった。
さながら、その光景は削岩機と穿孔機の衝突そのもののようであった。
そんな光景を見ながら、メットはうっとりとしていたのである。不謹慎ながらも、この展開には彼は心惹かれるものを感じずにはいられないのであった。
「おお~、すごいっす♪ 削岩機とドリルのぶつかり合いってのは、男のロマンをくるぐられるものっす♪」
そうはしゃぐメットは、正に無邪気な少年そのものといった風であるのだった。そんな彼を見ながら、アイは思う。
「良いのう、そのはしゃぎっぷりは。それでこそ子供らしいというものでいいぞ」
「そ、そうかな?」
てっきり怒られでもするかと思っていた所に、まさかの褒め言葉であったので、メットは思わず面食らってしまうのであった。
しかし、相手は見た目九歳の少女であろうとも、その実は大人であるのだ。そんな大人から褒められたという事実は、メットにとって悪い気はしなかったのだ。
そのように、どこか和やかになった場の空気であったが、勿論両者とも今が真剣勝負である事は忘れてはいなかったのであった。




