回想①
あの夜、クロックはエバンスの家でお祝いをしてもらっていた。
「さぁ、食べてちょうだい」
「いただきます」
テーブルの上には、鳥の照り焼きや旬の野菜や穀物、ケーキなど普段のクロックでは食べる余裕がない豪華な食事が並べられていた。
「どうぞ、どうぞ」
エバンスがクロックの机を挟んだ真向かいに座る。
「それで、今日の洗礼はどうだったかしら」
エバンスはBARのママのような恰好ではなく、男性用の服を着ていた。
「はい。少し眠くなりました」
クロックは笑いながら冗談を言う。
「まぁ。きちんと聞いていないと駄目よ」
エバンスが、鳥の照り焼きをクロックと自分用に切りわけだした。
「ちゃんと聞いていましたよ。けど、入ったばっかりの時に聞いたこととかもありましたし……」
クロックは切り分けてもらった肉を一切れ口に運ぶ。
「そうね。クロックちゃんも、もう大人の仲間入りしたのよね」
エバンスは、野菜の方をメインに食べだした。
「それで、前に言った話考えてくれた?」
エバンスはにこやかに切り出す。
クロックは姉の葬式の時が終わった後、エバンスから一緒に暮らさないかと提案を受けていた。
一緒にといっても、クロックが一人前の冒険者になるまでだ。いわゆる、養子縁組と言うものだ。クロックもこの時は、そう思っていた。
「ごめんなさい。そこまで面倒見てもらうのは気が引けます」
正直クロックは、今お祝いをしてもらっているのも本当は何か違うような気がしている。
なので、これ以上エバンスに迷惑を掛けたくないと思っている。
「まぁ、気が変わったらいつでも言ってね。それで、今日は朝来てくれると思ってたんだけど……」
エバンスはほほに手を当て、首をかしげる。
「すみません。本当は来ようと思っていたんですけど、色々ありまして……」
クロックは食べていた手を止める。
「色々って?」
「朝は、女性が男二人に絡まれていたので助けたんです。そのあと、紆余曲折に末に、同期の女の子とその女性とパーティを組むことになりました。その後、姉の墓に行っていたので……」
「ふーん」
エバンスは少し顔が黒くなった。それにクロックは気づいていない。
「それで、その子たちとパーティを組むのは嫌じゃないの?女の子ばっかりみたいだけど?」
「……」
エバンスの問いに、クロックは本当の事を答えようか少し悩んだが、正直に胸の内を答えておこうと思った。
「実は、その女性に姉を幻視してしまって……。正直、最初は誰とも組む気は無かったんですけど……。この人ともう少し一緒にいたいと思いまして……」
「そう……。なら、良かったわ」
エバンスはそう言いながら席を立つ。
「エバンスさん?」
クロックはエバンスがどこに行くのだろうと思った。
「まぁ、これでも飲みましょう。クロックちゃんも、もう飲める年になったんだから練習しましょう」
台所の方からエバンスが戻って来る。手には、酒瓶とコップを持っていた。
「あ、はい。いただきます」
クロックはエバンスからコップを受け取る。
「この粉入れといたらある程度は酔わなくて済むから……」
エバンスはそう言って、注ぐ前にクロックのコップに白い粉を入れる。
「ありがとうございます」
クロックは、それを何も疑わずに受け入れ、注いでもらう。
「それじゃ、乾杯」
エバンスは自分のコップには自分で注いで、コップをクロックの前へ突き出す。
「乾杯」
クロックはそのコップに軽く当てるように自身のコップを当てる。そして一口だけ飲む。
「本当ですね。全然、酔いそうにないです」
クロックは思っていたよりおいしいと思った。それに頭も痛くならなさそうだし、これならお酒が好きになれると思った。
「あら。それは良かったわ。それでさっきの続きなのだけど……」
エバンスはその後、クロックに今日何があったか根掘り葉掘り聞いた。
クロックは上機嫌にエバンスの問いに答えていった。それに対してエバンスは、一喜一憂していた。そして最後の質問をする前に、何か意を決したのかコップの中身を一気に空にする。
「それで、もし、私とそのアリスって子のどちらかしか助けられないってなったらどっちを選ぶ?」
「何ですかぁー。その質問ンー」
クロックは出来上がってしまっていた。顔が真っ赤になっている。
「ちゃんと答えてほしい」
「え」
そんな出来上がっていたクロックの頭が一発で冷めるような声でエバンスが聞く。口調もいつもの間延びした言い方ではない。
「えーと、両方は駄目ですか」
クロックは勘弁してほしいと思いながらも、一応逃げ道がないか確認する。
「なしで」
即答だった。それでもクロックは何か逃げ道はないか考えていると、とてつもない眠気が襲ってきた。
「あれ、何か急に眠気が……」
「時間切れね」
エバンスが席を立つ。それをクロックは見送るしかなかった。
そしてクロックは眠りに落ちた。
「いいんすね。エバンス先生」
後輩の男と一緒にエバンスは部屋に戻ってきた。
「ええ、正攻法では私のモノにできないもの。それならいっそ……」
クロックは気が付いていなかったが、あの白い粉は睡眠薬だった。
そして、最後の問いに“エバンス”と答えていたらこんなことにはならなかった。
「先生がそう言うなら、お手伝いしますよ」
「ありがとう。それじゃ、地下室に運ぶわよ」
クロックは二人の男にかつがれて、連れて行かれた。




