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アリスとクロックと ハインリヒ

「私は先に部屋に戻るわ。あなたは一応、隊長とかの様子を見てきてちょうだい」


「わかった」


 シオンは少し無茶をしていたのか顔が少し青ざめていた。彼女も大人なので大丈夫だろと思い、クロックはシオンの言うことに従う。




「といっても、見当たらないんだよね」


 まだテントに寝かされているのかと思ってテントの方も見たが隊長の姿が見えない。もしかしたら村長の所にいるかもしれないと思い、村長の家の前に来ていた。


「やぁ、きみか」


 調度、隊長が村長の家から出て来るところだった。思っていたより簡単に見つかり、クロックは拍子抜けした。


「今回はすまなかったね」


「いえ、大怪我はしていないので、謝るなら違う冒険者ギルドの子に」


 クロックは隊長の謝罪を軽く流す。


「その子にも悪いことをしたよ。けどさっき様子を見に行ったら大丈夫そうだったから安心したよ」


「まぁまぁ、無事に済んで良かったじゃないですか」


 あまり辛気臭い話をしに来たのではないのだから、そんな申し訳なさそうな顔をしないでほしいとクロックは思った。


「すまない」


「それで、今年度の税の件なんですけど……」


 家の中から、村長が出てきた。


「土地の測量と、収穫量とかはきちんとしたものを報告してくれ。それは変わらない。今回の件もあるから、私費である程度減らすから」


「ありがとうございます」


 先ほどまで税の件で話し込んでいたようだ。


「あの、僕はこれで……」


 何やら不穏なものをクロックは感じ、アリスを探すことにした。


「まぁ、そう言わず君も飲みに行こう」


 隊長はこれ以上村長と話をしたくないようだ。だが村長も隊長を逃がそうとしない。


「私も一緒に行きましょうかね」


 勘弁してくれとクロックは思った。




「また飲みすぎた」


 多分三回目だと言うのにクロックは酒を進められると断れないようだ。


「クロックさん」


 クロックは部屋に戻って来るなりベッドで、横になっていた。そこにアリスが一人で帰って来たようだ。


「アリスさん帰ってきたんですね。少し聞きたいことが……」


「聞きたいこととは?」


「アリスさんは本当にアリア教と関係ないんですか?」


 隊長と村長の難しい、政治的な会話が繰り広げられている間、クロックは森の中での戦闘の事を考えていた。その時、気を失う間際にアリスがアリア様の名前を使っていたことを思い出した。


「本来話すなと言われているのですが、パーティーのあなた達に嘘をつき続けるのも気が引けますね」


 アリスは少しうつむきながらそう言う。


「言いにくいのでしたら別に話さなくてもいいですよ」


「いえ……。それなら、これから言うことは戯言だと思って聞いてください。私は、首都のアリア神殿に使える神官なのです」


「そんな気はしていました」


 アリア教の神官なのはわかりきっていた。


「この都市に来たのは……。ここの教会がきちんと機能しているか確認のために寄越されたのです」


「それでいつまでいるのですか?」


「さあ、いつまでいましょうかね?」


 アリスはクロックの頭をなでる。


「期限決まってないんですか?」


 クロックはそのままそれを受け入れる。


「期限は一応決まってはいます。3年です」


「一応?」


 クロックは首をかしげる。


「私はアリア様の加護や魔法を生まれながら使えるから、名誉神官として神殿でただ、のほほんと過ごしていました。というより今まで神殿の外に出たことがありませんでした。 だから外の景色というのを見て見たくて、今回の仕事を、無理を言って作ってもらったのです」


「そうですか」


「まぁ、今のは全部戯言ですけどね」


 アリスが無理をしてようにふざけた調子で言う。


―――。


 二人の間に少しの不思議な間ができた。ただそれはすぐにクロックの言葉で無くなった。


「アリスさん」


 クロックはいつになく真剣な表情アリスの眼を見る。


「なんでしょう? まだ聞きたいことでも?」


「僕は姉と再会できますか?」


「あなたの自殺癖が完全に治れば天界で再会できると思いますよ」


 クロックの突拍子のない問いにアリスは真面目に答える。


「確かなことは言えませんが、あなたの姉、フィートは前世で自死の道を選んだのだと思います。だから今世では長く生きられなかった」


「前世?」


「ええ、一般の書物では、いつごろからかはわかりませんが前世の記載が消されていますね。たぶん今世の不幸な人たちが、全員前世で悪いことをした人たちというレッテルを張られるのを防ぐためでしょうけど……」


「僕たちは前世でそれだけ重い罪を犯したのですか?」


「なにも境遇が不幸な人が全員そうというわけではありません。だいたい半々ぐらいです。今世が初めての人と前世がある人の数は。ただ……」


 アリスは少し言いづらそうにしたが、言葉を続ける。


「自死とはそれだけ重い罪なのです。最愛のあなたと死別という形で別れさせられることによって前世で自分がしたことを認識させるために。それとあなたは多分初めてだと思います」


「分かるんですか?」


「あまりしないようにしているのですが相手の胸を凝視すればある程度なんとなくわかるのです」


 さっきの変な間はこれを言うか迷ったのかなとクロックは思った。


「話を聞く限り、お姉さんは今世を力いっぱいあなたのために生きたみたいですね。あなたが自死を選ばなければ天界で会えますよ」


「そうですか。良かった」


 アリスに胸の内を打ち明けられて少し安心した。それに首都の神殿の神官であるアリスにそう言ってもらえるのならとても安心できた。だからクロックはアリスに礼を言ってもう寝ようと思った。その時だった。急に部屋の中が青白く光りだした。


 クロックは思わず体をパッと起こした。そこには体を青白く光らせたアリスがいた。


「あなたは何も気にしなくても良いのですよ」


“アリアの名のもとに安息の日を”


 部屋全体が青白く包まれたかと思うと急に窓からの月明かりが入ってこなくなった。


「何してるんですか」


「クロックさんは関係のないことですから眠ってて大丈夫ですよ。おやすみなさい」


 クロックの意識はここで落ちた。だが――。


「こんばんわ。あなたには用事があります」


「用事とはなんですか」


 クロック(?)は体を起こしベッドのふちに座る。


「あなたの名前は?」


 アリスは先程までの優しい眼差しではなく、鋭い目線をしている。


「ハインリヒ」


 クロック(?)はその顔を気にせず、違う名前を答える。


「近世の英雄ですか?」


「ええ、それと神の名を冠する大層な名前も頂いているみたいですね」


 自称気味にハインリヒと名乗ったクロック(?)は答える。


「これからの質問については正直に答えてください。今、クロックとあなたは再度この世に転生するか、闇に飲まれるかの瀬戸際です」


 自称気味に笑うことも許さないのか、アリスが怖い声で言う。


「今回のエバンス氏の殺害はあなたが犯人ですね」


「はい」


 ハインリヒは顔を伏せたまま答えた。

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