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「君らはボクの後ろにいて」

 

 そういうとマーリンは新人の子たちの前に立って背中の剣を抜く。


「わたくしたちは大丈夫ですわ」


 シオンは魔法剣を抜いてアリスもフードを脱いで戦闘態勢に入る。


「体制だけはつくって」


 マーリンのその言葉に新人たちもそれぞれの装備を抜く。


「総員攻撃準備ィーーー」


 今頃になって隊長の指示が飛んできた。後ろの方にいた朝の案内をしてくれた気の弱そうな騎士隊員とその近くの隊員がきれいに隊列を組み終えた後にだ。


「クロック君たちは左を頼むよ」


 マーリンはその言葉と同時に右から来た猪を切り払った。


「今のが、切り払いだよ。良く見ていて次は突きだ」


 マーリンは新人たちにわかりやすいように講義をしながら猪たちの相手をしている。


「余裕すぎるだろ。あの人」


 そう言いながらも、クロックの方も隊長の指示の前にスリングショットを構えてゴムを顔の横まで引っ張った状態で待機していた。一応名目上は、頼りなくてもこの隊を率いているのはアーチス隊長だ。一介の冒険者が命令もなしに勝手に攻撃行動をすれば何を言われるかわからない。最悪、お前が勝手に行動したから魔物が襲ってきたのだ。とか難癖をつけられてこっちの責任にされるかもしれない。そのため、号令と同時にスムーズに攻撃をし始め、奥の方の猪を一体倒していた。


「天楯」「炎よ」


 アリスとシオンの二人はお互い協力して猪の相手をしている。そのためクロックの所まではまだ来ていなかった。しかしシカが一体、二人の間を抜けてクロックの方へ走ってきた。


「くそ」


 クロックはスリングショットを落し、腰のボーラの縄に握り替える。そして悪態をつきながら向かってくるシカの相手をする。殺し方を誤ると魔素が自身に降りかかってしまう。それを考得なくても良いならクロックの実力なら逃げながらスリングショットで遠くから狙撃すれば危険はない。しかし今回は一人ではないため、逃げ回りづらいうえ、避ける際も背後も気を付けて避けなければならない。


「とりあえず、足を止めさせて……」


 クロックは、三本ある分銅のついた縄の一つを握り、残り二つを回転させ、力を溜めつつ、死かが飛びかかってくるのを待っていた。


「よし、この距離なら」


 クロックは一瞬後ろを向き、人がいないのを確認してから、シカの攻撃を避けつつ回転させていた二つの石をシカの右前足にぶつける。


 クロックは同年代に比べて非力だ。しかし、普通のシカを狩るのならボーラをうまく使えば、骨を折ることは簡単にできる。ただ今回は普通のではなく魔素に体を犯され、強化されたシカ達だ。そのためクロックは魔法を使っていた。


 スリングショットの時は、撃つ瞬間に弾に硬化の魔法を掛け、相手の眉間などを打ち抜きやすいようにする。今のボーラにも、相手に当てる瞬間だけ硬化の魔法を掛けている。


「ぐがーーー」


 シカの右前足は手応え的に砕けたはずだ。シカはバランスを崩してしまい、ジャンプの威力を前足でうまく殺せず、クロックの後ろを転がり流れていく。


「魔素の場所を確認して」


 クロックは、先ほどのシカに近づいてとどめを刺す。その前に、魔素の場所を確認する。もし心臓付近に魔素がたまっていた場合、違う場所を刺す必要がある。その場合、不必要にシカを苦しませることになる。食材として狩るのなら、心臓ではなく、眉間を刺し、生かしながら血抜きをしたほうが鮮度を落さない。しかし今回は、食材として狩るのではなく襲ってきたから狩るのだ。それに、魔素に犯されての行動の為、どうせなら一思いにとクロックは思っていた。幸い魔素は頭のほうに溜まっていたため、クロックは心臓を二度三度刺した。シカはすぐに絶命した。


「あの助けに行かなくていいんですか?」


 新人のおどおどした声がシカを殺し終えたクロックの耳に入ってくる。


「別に良いよ。僕の依頼内容に入ってないし」


 マーリンの声も耳に入りクロックは何かあったのかと思い振り返ろうとした時だった。


「ギャーーーーーーーー」


 騎士隊の悲鳴が森の中をこだまする。クロックは自身の事でいっぱいいっぱいになっていたため騎士隊の事を忘れていた。


 クロックたちの所まで前方からの猪が来なかったのは今まであの気の弱そうな騎士隊員たちの隊列が足止めしてくれていたおかげだった。


「けど、そろそろいいかな」


 そういうと先ほど悲鳴を上げた隊列にマーリンが突っ込んでいく。


「よし。ちゃんとアドバイスを守れたね。えらいよ。あとはまかせて」


 猪に食われかけていた隊員に手を差し伸べて引き上げるともう片方の腕一本で残りの一匹を退治した。


「これで終わりだね」


 そう言うとマーリンはおそらく魔法で剣の血を落し鞘にしまった。


「えっ、まだ……」


 新人の子がシオンの横に来ていた。今までの事に気を取られていたシオンは今気づいてハッとしたようだ。


「ん? さっきも言ったけど僕の依頼内容じゃないから。こっちの子たちは」


「クロック⁉」


 クロックの後ろからシオンの叫び声が聞こえる。マーリンが騎士隊員を助けに行かないと思い、クロックは一人で隊長と違う宿の冒険者の所に駆け付けていた。


「うわーーーー」


 隊長が情けない声を上げている。周りを見ても一体倒しただけの様でそこまで近づかなくても魔素に体を犯されているのは明白だった。それをクロックは無視して違う宿の子の所に走る。


「くそっ、間に合え」


 クロックは魔素をくらうのを覚悟で気絶した違う宿の子と猪の間に割って入り、ナイフで猪の頭を刺した。


「ぐがっ」


 魔素がたまった場所を確認する時間が無かったため外れてくれと思ったが、この猪は魔素が頭にたまっていた。そのためそのまま魔素を抵抗できずにクロックは浴びてしまうと思われたが――


「本当に死にたがりみたいだね」


 クロックが思わず閉じた目を開けるとそこにはマーリンの剣が目の前にあった。


「ありがとうございます」


 マーリンの剣が魔素の大部分を受けてくれたため直撃は避けられていた。


「怒るのはボクの仕事じゃないから――。おーい、新人君たちこいつらを頼むよ」


 マーリンは少し不機嫌そうに言いながら騎士隊の投げ捨てられた剣を拾いながらそれを残りの猪3頭に投げ刺して退治してしまった。


「クロック!」


 シオンが後ろからクロックのもとへ駆けてきた。その顔は誰が見ても怒っている顔だ。


「クロック、治療が終わったら部屋にまっすぐ帰って来て。話したいことがあるの」


 シオンはそのままアリスのほうへ駆けていく。アリスの治療の手伝いをするようだ。


「彼女にこってり絞られるいいよ。それより今はこっちを手伝って」


 マーリンは動ける騎士隊員に指示を出している。それと同時に何かを空に打ち上げていた。


「とりあえず助けは呼んだから、動ける奴はこのクロックたちと一緒に村へ帰れ」


 語尾を強めながらマーリンは隊員たちに怒鳴る。


「あなたはどうするんですか?」


 クロックはマーリンの言葉と同時に行動に移し去り際に聞く。


「ここで動けない奴の番をしておくよ」


「頼みます」


 こうしてクロックの成人しての最初の依頼は一旦終わった。



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