里崎絵美
少女を訪ねることができたのは結局次の日の朝になってからであった。というのも、アパートに聞き込みを行った田中に連絡が入り、犯人を見たかもしれないという情報が舞い込んだため、そちらの方に先に出向いたら夜遅くなり改めて出直すことにしたからである。その情報というのは結果的にガセネタだったことに田中は苛立ちを隠せなかったのだが。
田中と一は今、とある女子高校の前にいた。例の少女が通っているのがこの高校であったからである。当たり前の話ではあるが、女子校に通う生徒は女生徒だけであり、その光景を見て男子校で育ってきた田中が一言
「すごいな…。」
と、一人言のように呟いたのを聞いて一はけたけた笑っていた。その様子を不審げに女生徒達はじろじろ見ながら登校していく。スーツ姿の二人が女子校の校門の前で待ち構えているので、怪しく思われていたのである。
「見当たりませんね、あの子。」
「待ってたらそのうち来るだろう。早く来てほしいもんだが。」
「そわそわしすぎですよ、田中さん。」
「この環境が落ち着かないんだよ。」
笑いながら田中に突っ込む一に田中は渋い顔で答えた。その時だった、遠くから声がしたのは。
「あ、昨日の刑事さん達だ。」
二人が声のする方に目をやるとそこには昨日のあの少女が立っていた。少女は小走りで二人に近づいてくると
「おはようございます。もしかして私に用ですか?」
「するどいね。実はそうなんだ。もう少し昨日のことで詳しく話を聞きたいと思ってね。えっと。」
「私は絵美。里崎絵美って言います。刑事さん達のお名前は?」
「絵美ちゃんね。僕の名前は一って言います。こちらの人は田中さん。」
「一さんって名字すごく珍しいですね。対称的に田中さんはありふれてますね。」
元気に無邪気な笑顔でそう言う絵美に一はにこにこしていたが、田中はずっと仏頂面で黙っていた。一と田中の名字についてはコンビを組んでからというものずっと言われてきており、密かに田中は気にしていた。
「それで私に聞きたいことって何ですか?」
「そうなんだ。絵美ちゃんの話だと不審な男はあのアパートの中に走り込んだ。それで合ってるかな?」
「そうですね。」
「どのくらいの身長だったとか、太っていた痩せていた、なんでもいいんだけど何か特徴みたいなものはなかったかな?」
「んー、身長は170~180cmくらいで痩せていました。あと…。」
「何かあるのか?」
田中がその重い口を開くと絵美は田中を不安げに見つめてこう言った。
「頬に傷があったように思う。絶対かって聞かれたら自信はないけど。」
「傷?それはどっちの頬かな?」
一が尋ねると
「右だと思います。結構大きな傷だったように思うんですけど。」
「傷があった男なんてあのアパートにはいなかったがな。」
「そうなの?おかしいな…。でも走ってアパートには入っていってたのは間違いないよ。」
「…そうか。」
何か田中は言いたそうな顔をして一を見たが、すぐに顔を臥せてしまった。
「じゃあ、もう少し話を…」
そう一が切り出したところでキーンコーンカーンコーンという学校のチャイムが鳴り響いた。
「あ、もう私行かないといけないです。何かまた聞きたいことがあれば、放課後また刑事さん達を訪ねますよ。」
「そうしてくれると助かるよ、ありがとう。」
「はい。それじゃまた、一さん。じゃぁね、田中さん。」
そう挨拶すると、絵美は慌てて学校の中に入って行った。
絵美が行った後、田中は一言目にこう言った。
「俺に対してあの子はフランク過ぎやしないか?」




