第四十三話
私はカトリアーデ高校のこと、入学式翌日にこの世界へやって来たこと、刀に宿るハクの力で十剣鬼を倒したことなどを順番に話していった。
そして昨日そのハクが襲って来た覆面の人物を、《小次郎》永久子だと剣気と剣筋から断定したことなども出来るだけ詳しく説明した。
らみるちゃんは途中一切口を挟まず、私の話を黙って聞いていた。口を開けたり目をまん丸くしたりしていたものの、途中パニックになることもなく、全てを静かに聞き終えた。
「すごい、まるで小説とかの中の話みたい」
「呆れた。それが最初に言うことなの」
残念ながらこれは小説なんかじゃない。小説ならどれだけ良かったか。
「ごめん。その中でも一番重要なのがやっぱりこれだよね」
置いてあった私の刀を取り上げ、鞘から抜き放つ。構えたりひっくり返したりして、刃に顔を寄せる。
「特に変わった所はないみたい。私や大多数の剣徒が持っている刀と何も違いがない。本当にこの刀が喋ったり美夜日の身体を操ったりするの? 不思議な話だねぇ。ねぇ、聞こえますかー」
最後は刀身に向かって声を掛けた。
「この刀を握れば誰でも強くなれるのかな」
「さぁ、分かんない。今ヘソ曲げてるから何も喋んないんだよね。犯人のことで意見が割れて昨日大喧嘩になったから」
「刀と喧嘩ってウケるね」
あははと笑い声を上げる。
「笑い事じゃないよ」
「それで」
らみるちゃんが笑うのをやめ、刀を鞘に収める。
「美夜日は今も姉上様を犯人だと疑ってるの。何かの間違いってこともあると思うんだけど」
「私が進める道は、もう他にないから」
そっか、と小さくらみるちゃんが言った。
「くっ」
唐突にらみるちゃんが堪えるような声を出したかと思うと、がばっと隣から私の身体に抱きついた。
「え、ちょっ、なに」
「決意は固いって捉えていいんだね。『勝った者が正義、強き者が絶対』が士峰館の鉄の掟。例え誤った主張であっても、勝ちさえすればそれが正しくなる」
《小次郎》永久子が犯人じゃなかったとしても、剣闘に勝利して私が彼女を犯人だと主張すれば、それが是となる。それがここでのルール。
「だけど肝心の剣闘を却下されちゃどうにもなんないよ」
飽くまで剣闘での勝利が条件だ。不意討ちで倒しても、私の主張が認められることはない。
「剣裁を得るため、場を整えるくらいの力は私にもあるよ」
「え?」
ゆっくりとらみるちゃんが抱きついていた身体を離した。
「私を誰だと思ってるの。これでも剣武会十剣鬼の第七席だよ。剣闘の立会人を私が務める。同じ十剣鬼の私が進言すればいくら姉上様でも無視出来ない」
「待ってよ。《小次郎》は姉上様なんでしょ」
らみるちゃんは《小次郎》永久子を姉上様と呼ぶ。ということは尊敬の対象なわけで。
「なのになんで美夜日を応援するのかって? 別にあなたに特別肩入れしてるわけじゃないよ」
「そう、なの」
「美夜日は姉上様を犯人だと思っているんだよね」
「う、うん」
「ならその意見を尊重し、きちんと美夜日にも主張の場を公正に用意して上げるべきだと言っているだけ。闘いの手助けをするわけじゃないよ。美夜日があっさり斬られて負ける可能性だってあるんだから」
らみるちゃんが持っていた私の刀をぐいっと目の前に差し出した。
「覚悟はあるの」
ずっと口を利かないハク。もしかしたらハクは力を貸してくれないかも知れない。今の私に呆れているかも知れない。結局こうなるんだったら、昨日の大喧嘩はまるで無意味なものになるのだから。
『そのアホ面下げた顔面を地にこすりつけて土下座のひとつもしやがれ』
なんて聞こえて来そうなのに、相変わらず何も口を利かない。
だけど。
私は目の前の刀を受け取り、しっかりと握り締めた。なんだかんだでハクのことを信じている私がいる。
「あるよ」
私は答えた。
「なら決まり。剣闘はお昼休み、東校舎屋上で執り行う」
「分かった」
頷く。
「でも大丈夫なの。あの人頭固そうだよ。一度言ったことを覆すかな」
「任せて。必ず屋上まで連れてくから。そっちも怖じ気づいて逃げたりしないでね」
「誰が」
らみるちゃんも笑って頷いた。
「よし、話はまとまったね」
パンパンとお尻を払ってらみるちゃんが立ち上がる。
「あ、そうだ。よかったら茶室の鍵貸そうか。まだ完全には綺麗になってないけど」
思い出したようにらみるちゃんが言った。
「え、なんで?」
意味が分からず私は聞き返した。
「なんでって、えっと、その……。姉上様とのことで同級生たちと気まずくなってたりしないかと思って。もしそうなら時間まで茶室にいたらいいんじゃないかなって」
言いにくそうにもにょもにょと小声になるらみるちゃん。
なるほど、そういうことか。私と玻璃組生たちとの軋轢を心配してくれているのだ。
「ありがと。でも大丈夫。教室に戻るよ」
もしかしたら、みんなの顔を見るのもこれが最後になるかも知れないし。
負ければ私は当然ここからいなくなる。もし《小次郎》永久子が私をこの世界に送り込んだ犯人なら、勝てば元の世界にそのまま戻れるかもしれない。その場合でも、ここでの友人たちとはやはり別れることになる。カトリアーデの世界線にもスズちゃんやゆっこはいるが、ここでの二人とはやはり違う。
そうなる前にもう一度みんなの顔を見ておきたかった。
「そう。無理にとは言わないよ」
私も立ち上がった。お尻を払う。
「色々ありがとう、らみるちゃん」
「姉上様でもいいのに」
お互い小さく笑い合った。




