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朝岡美夜日は疾駆する 〜常識がバグり散らかした世界で、喋る刀と青春キラキラJKライフを勝ち取ります〜  作者: 叉火多
第四章 辻斬り騒動

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第三十六話

 泥だらけ汗まみれで私は帰路についた。

 すっかり日の落ちた住宅街をとぼとぼと歩く。

 いつもはうるさいくらいツッコミを入れてくるハクとの会話もなかった。


 自宅の灯りが見えて来た。


 あんなにあったはずの《小次郎》永久子に対する怒りは、今は少し落ち着いていた。もちろん消えたわけじゃないけど。


 門を開けて敷地内へと入る。玄関ポーチで立ち止まり、意を決して私はハクに話しかけた。このままモヤモヤした気持ちを抱えたまま家に帰るのは嫌だった。


「ねぇハク」

「あん?」

「もう一度聞くけど、竹林で襲ってきたのは永久子だったんだよね」

「……ああ。剣気は確かにあいつのもんだった」

「なんかの間違いってことはないの?」

「お前、俺様を疑うのか?」

「そうじゃないよ。例えばハクも誰かに永久子が犯人ですって言われてそれで素直に納得出来るのかなって」


 本当にハクの言うように《小次郎》永久子が私を襲った犯人なのか。私には今ひとつ納得出来ずにいた。


「……なにが言いてぇ」

「私には剣気の違いなんて分かんない。だからさ、別人のものと間違えることもあるのかな、なんて思って」

「竹林での覆面野郎の剣気は間違いなく《小次郎》のもんだった。断言出来る。あれほどの剣気の持ち主はそうそういるもんじゃねぇからな」


 絶対の自信があるらしい。


「……剣気については分かったよ。でもさ、あいつの得物ってあのバカ長いやつでしょ。なのに、竹林の襲撃犯が持っていた刀は普通サイズのやつじゃなかった?」


 そう。覆面をしていたから服装や体格ばかりで犯人を割り出そうとしていたが、刀も重要な判別材料だった。思えばあの時の襲撃犯は長刀を振るってはいなかった。《小次郎》と言えばやはりあの長い刀がトレードマークだ。


「あいつくらいの腕前ならどんな得物でも自在に操れるはずだ。笹や竹が密集している場所で長刀は不利と考え、小回りの利く刀に持ち替えていたってだけだろ。そもそもあんな目立つもん持ってたら覆面してる意味がねぇじゃねぇかよ」


 イラついたように吐き捨てる。

 ハクにはやはり《小次郎》永久子が犯人であるという絶対の自信があるようだった。それなのに、実際に対面した本人は私への襲撃を認めないどころか、取り巻き連中もやっていないと言い張った。

 単にシラを切って周りと口裏を合わせているだけなのか。それとも本当に《小次郎》永久子は犯人じゃないのか。


「ねぇハク、あんたの言い分は分かったよ。でももう一度最初から考えてみようよ」

「何を考える必要がある。犯人は《小次郎》だ。バカでも分かるだろうが」

「バカとは何よ。私は冷静になって考えようって言ってるだけでしょ」

「てめぇが冷静になったところでいい案なんか浮かぶわけねぇだろ。アホ面が」

「冷静になるのは私じゃなくってあんたの方でしょ!」


 頑ななハクの態度にさすがに頭に来て大声が出た。身体は汗まみれ泥だらけでくたく

た。おまけに擦り傷切り傷打ち身のオンパレード。私の我慢は絶賛大安売り中だった。


「たまにはこっちの意見も聞いたらどうなのよ、このポンコツナマクラ刀!」


 地面に投げつけてやろうと、腰から鞘ごと刀を引っこ抜いた。が、振り被った右手が反転して刀を掴んだまま拳が顔面目がけて飛んで来た。


「ぶべっ」


 ごつんという衝撃と共に、もんどり打って玄関ポーチの段差を転がり落ちた。


「ふん、ざまぁ見やがれ」


 ハクが私の身体のコントロールを奪って、私自身を殴りつけさせたのだ。思いっきり鼻血が出た。


「よ、よっくもやったわね」

「はっ、やったのはてめぇ自身だろボケナス」


 私は強引に身体のコントロールを取り返して立ち上がると、敷地内の敷石タイル目がけて鞘ごと思い切り刀を振り下ろした。

 ガチーンッと硬質な音が夜空に鳴り響き、両腕にじんとした痺れを残す。


「てんめぇ、やりやがったな。曲がったらどうしてくれる!」

「はん、それ以上曲がりようないでしょ。最初っから性格ひん曲がってんだから」

「んだとぉ」

「なによぅ」


 またハクが私の身体のコントロールを奪い返した。


「あ、ちょっと、待……ぎゃあっ」


 止める間もなく庭の茂みに頭から突っ込んだ。葉を散らし何本も枝を折る。人を今日何回こんな目に遭わせりゃ気が済むの。


「へっ、どうだバカタレ」


 茂みから頭を引っこ抜くと、道路と敷地を隔てるフェンスに向かって私は刀を振り抜いた。一回、手首を返して二回、もひとつおまけに三回。

 曲がろうが欠けようが知ったことか。少しくらい痛い目を見て反省すりゃいいんだ。


「そっちこそどうよ」

「んなもんが俺様に効くか!」

「さっきはやめてー、僕の刀身が曲がっちゃうーって泣き言こいてたくせに!」

「誰が言ったよ。耳と記憶力までバカになっちまったらもう救えねえな」

「耳どころか脳味噌もない奴に言われたかないわね。ハクロウだなんて大層な名前名乗ってるけど、あんたなんてただのFe(鉄)(かっこてつ)じゃないの」

「俺様をただのFe(鉄)(かっこてつ)だぁ。その髪の毛のうなじ刈り上げてワカメちゃんみてぇにしてやる。明日からそれで登校しやがれ!」

「やってみなさいよ。そっちこそエリちゃんみたいな魔改造面白刀剣にしてやるから!」




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