第二十九話
十剣鬼二人の間で細かい所を詰めるためか、しばらく私を抜いて何事かやりとりが続けられていた。
足が痺れてきた私は、こっそりと筵の上で足を崩す。
ねぇ、ハク。
『なんだ』
ハクは私をこの世界に連れ込んだ犯人は剣武会の中にいるって考えてんだよね。
『まぁな』
らみるちゃんたちの言う辻斬り犯が、私たちの探している犯人と同一人物って線はないのかな。聞くところによると強いみたいだし。
『ない、とは言い切れねぇが。どうだろうな。あ、お前もしかして、もしそうなら一石二鳥で手間が省けるとか考えてんだろ』
ち、ばれたか。
『まぁそんな都合のいい話はねぇだろうな。さっき奴らも犯人像の話をしていたが、俺たちの追う犯人は、剣と力が物を言う士峰館学園を中心とした世界への改変を行った。恐らくこの世界=学園を牛耳り君臨するのが目的だろう。そんな奴がコソコソとセコい辻斬りなんかするか?』
さっきの話みたいに犯人像が違うってわけね。
『そうだ』
だとするとやっぱ犯人同一説はなしか。
まぁ私もだったらいいなくらいの話だったので、さほど残念でもなかった。
屋根の修繕費の件もある。ここは本腰入れて、なんとしても辻斬り犯を見つけ出さないと。
『美夜日よ、分かってると思うが、本来の目的はお前をこの世界に連れ込んだ犯人を見つけることだ。履き違えんなよ』
なによ、唐突に。分かってるよ。
『ま、俺様はこの世界のままの方が退屈しなくて済むが、刀は持ち主を選べねぇからな。少しでもましな持ち主の信念乗せて斬り結ばねぇとやってられねぇってのはある。こっちはどこぞの誰と違ってただ辻斬りがしたいんじゃねぇんだ』
何が言いたいの。
『あくまで俺たちの狙いが十剣鬼なのは変わらねぇってことが言いたかった。それだけだ』
あんたがただ強い相手と闘いたいだけでしょうが。
『そうとも言うな。だが、これはお前にとってチャンスでもあるんだぜ』
どこがよ。脅されて顎で使われてるだけでしょ。
『お前は気に入らねぇだろうが、奴らの方からこっちへ来てくれたんだ。残り八人の中に犯人がいるかどうか調べるのには持って来いじゃねぇか』
あ、そうか。私は図らずも容疑の濃い者たちのすぐそばにいられるポジションを手に入れたのだ。
『それとも順番に剣闘を申し込んで血祭りに上げていくか? 俺はそれでも構わんが、これ以上メンバーを減らされたら奴らにも面子があるだろうからな。剣闘とか無視してなりふり構わず全員で、ってなことになったらちと厄介だな』
やめてよ、縁起でも無い。
なんとなく《おひさま》陽奈と《月姫》月奈の顔が浮かんだ。あの二人は従姉妹同士と言っていた。もし二人に連係なんてされた日には、とても息ピッタリの攻撃を仕掛けてきそうで考えただけでも気が重い。
辻斬り犯を探しつつ、十剣鬼内にいるかもしれない犯人のことも調査する。骨が折れそうだが、やらないわけにもいかない。
ねぇ、ハク。何かいい方法ないのかな。
『今考えてる。柄に手を置いてろ』
私はハクを掴んで膝元に置くと正面の二人に目を向けた。
「会長が動けない以上、私がいないと……」
「姉上様は今日はもうお帰り下さい。昨日も大変だったんですから。あとは私が……」
「いや、しかし、そういうわけには……」
なんだか二人が押し問答していた。私はいつまでこうしていたらいいんだろう。とりあえず声を掛けてみることにした。
「えっと、らみるちゃん。私はこれからどうしたらいいのかな。動くにしてもあまりにも情報がなさすぎるんだけど」
「ちょっと待って。辻斬りに関する資料は纏めてあるから」
私にそう言い、《小次郎》永久子に向き直る。
「姉上様、しっかりと事前に決められた予定通りに動くことも必要です。会長の代わりを務めようと必死なのは分かりますが、全てに手を出されては下の人間が自信をなくしてしまいます。私たちは頼りにならないのかって。だから、もっと任せてくれませんか」
「しかしらみる、会長不在で木南と郁美が抜けた今、私が早々に帰ったんでは他に示しがつかん」
「一日くらい大丈夫です。文句言う奴がいたら私が張り倒します」
しばらくじっと二人は見つめ合う。やがて、
「わかったよ」
ふっと微笑み《小次郎》永久子が折れた。
「言う通り、今日は帰宅しよう。後のことは任せた。朝岡もな。なにか調査に必要な物があればらみるに言え。らみる、なるだけ便宜を図ってやれ」
そう言い残して《小次郎》永久子は剣武会執行室を出て行った。
「ふぅ、やれやれ」
「どうしたの?」
「ああでも言わないとずっと誰よりも働いて、帰るのなんて一番最後なんだから。あの人、第二席になってずい分気負ってるの。事情があって会長があまり学校に来れていないから、自分が代わりを務めなくちゃって」
「ふぅん」
確かに責任感は人一倍強そうな感じはする。が、やる気が空回りしそうなタイプにも思えた。
「美夜日ちゃんが茶室を無茶苦茶にしたから、昨日なんて遅くまで残って片付けしてたんだよ」
「それは……スミマセン」
やったのは遥乃だけどそこは甘んじて受け入れる。
「あ、でも処理班が施設の汚損の場合は片付けてくれるんじゃなかった?」
「話聞いてたの。処理班が動いてくれるのは剣闘の時だけ。なんでもかんでも都合良く動いてくれる便利屋じゃないの」
軽く睨まれさらに小さくなる。
「茶室の片付けはまだ済んでないの。私はこれから姉上様の代わりに片付けに行かなきゃならない。美夜日ちゃんは言われた通り辻斬りの調査に向かってね。資料はスマホに送るから」
「え、私ひとり? てっきりらみるちゃんが同行するのかなって思ってたんだけど」
「そうしたいのは山々なんだけどね。色々と仕事がね!」
「あ、はい。ですよね」
と言いかけた私の口が止まり、全然考えてもいなかった事柄を口走った。
『「なら誰でもいい。十剣鬼を一人貸して欲しい」』
ぎょっとした。ハクが私の口を使って勝手に喋らせたのだ。




