第二十七話
私は剣徒会館内にある剣武会執行室に連行された。
広いがらんとした室内の真ん中に小汚い筵が敷かれ、その上に正座させられる。ノミとかいそう。
「誤りが無いようにもう一度言う。茶室の汚損及び剣徒会館の屋根の破壊。さっきの紙はそれらの請求書だ」
らみるちゃんのスマホには昨日私が関わった器物損壊の数々が収められ、さっきの紙――請求書には目玉の飛び出るような額が記載されていた。
私の前に折りたたみ式の長机を置き、二人はその向こう側に座っている。
「何か申し開きがあるなら聞いてやる」
茶室の汚損は遥乃がやったことだが、あれがなかったら私は今ここにいなかった可能性がある。だから、茶室の件については受け入れる覚悟があった。しかし、もうひとつに関しては別だ。
「屋根の件だけど、あれはあんたらんとこの《大谷》さんが襲いかかって来たから仕方なくやったことじゃん」
「当然郁美にも請求する予定だ。地面に何カ所も球をめり込ませた修繕費をな。だが朝岡、屋根を破壊したのは貴様自身のはずだ」
うっ。
「み、見てたの?」
「さぁな」
非常にまずい流れだった。こいつら、こんな追い詰め方も出来たの。
真剣突きつけられるより、高額請求書を突きつけられる方が精神的にきついもんだなんて。なんでこんなとこだけ現実的なのよ。なんか切り抜ける方法はないだろうか。
あ、そうだ。
「確か剣武会には処理班ってのがいるんだよね。その人たちが事後処理を諸々してくれるとかって聞いた記憶があるんだけど」
以前スズちゃんがそんなことを言っていたが、費用が請求されるとかは言ってなかったはずだ。されないとも言ってなかったけど。もしかしたらワンチャンあるかも。
「確かに。剣武会には貴様の言う通り処理班なる者たちがいる。剣闘において発生した様々な損害を処理するのが仕事だ。施設破損の修繕、汚損の清掃、遺体の処理などを主な役目としている。我々がこの学び舎で気持ちよく学園生活を送れているのは処理班の人間が日夜奮闘してくれているおかげだ」
そもそも人を斬らなきゃいいのにと思ったが言うとぜったい面倒になるので黙っていた。
「今言ったこれらの意味が分かるか」
「えぇっと、処理班に感謝しなさいってこと?」
「昨日立会人がいたか」
「はい?」
「今言ったのは貴様と郁美の闘いが剣闘だった場合に成立する話だ。昨日の闘いは剣闘だったかと聞いている」
私は昨日の《大谷》いくみんの言葉を思い出す。
――これは剣闘じゃないよ。ただの手合わせさ。
……ヤバい。これは本格的にヤバい。冷や汗がダラダラと流れ出す。
「貴様らの闘いが剣闘という神聖なものであったのならば、剣武会予算で処理することも出来たが、ただの手合わせにより発生した損害だ。そういうわけにはいかん。当然茶室の汚損は別だがな」
私としても大目に見てやりたいが。なんて心にもないことを小声で呟く。そんな気ひとつもないクセに。
でも私だってあんな金額払えない。そう簡単に引き下がるわけにいかなかった。数年おこづかいなしになるくらいじゃ済まない金額だった。
「ねぇ、ちょっと待って。《大谷》さんと話させてよ。あの人はどこ」
私を姉上様と呼ばせて上げるからとか何とか言えば、修繕費を肩代わりしてくれないだろうか。
「貴様がそれを言うか。奴は今どこにいると思う」
「え、どこ?」
「病院だ」
あ。
ダメだ、詰んだ。
『ククク、こうなりゃこいつらぶっ倒して、修繕費もついでに踏み倒そうぜ』
外道過ぎることをハクが言う。
ぶっ倒して踏み倒して、最後人の道踏み外してんでしょうが。
『あん、嫌だってのか』
だって、それはすがにさ。
ムカつくけどやったのは確かに私なんだし、壊した物の弁償を申し渡されるのは正論中の正論ティーだよ。命をもって償えとか言われて斬りかかってこられたら反撃するけど、向こうにその気は無いようだし。
『ならバイトでもして素直に払えよ』
それはやだ。
『面倒臭ぇな。なら、どうすんだよ』
それに簡単に答えられるなら冷や汗ダラダラ流してないっての。
「朝岡、貴様には二つの道がある。ひとつ目、素直に屋根の修繕費を払う」
却下。だから払えないっての、あんな金額。
「だろうな。そこで二つ目だ」
私の顔を見て考えを読んだように《小次郎》永久子がにやりと笑う。
「今から貴様にひとつ任務を与える。そしてその任務を見事やり遂げれば、屋根の修繕費は剣武会予算から出してやる。どうだ」
「それ、やります!」
『お前昨日の今日で懲りてねぇのか。また安請け合いしやがって』
ハクの言いたいことは分かったが、無い袖は振れないのだ。制服にでっかい袖は付いているけれど。
「もしこちらの期待に添えなかった場合はどうする?」
「心配しないで。必ずやり遂げる」
そう言うしかない。これで逃げ道はなくなった。
「よかろう。話は決まりだ。らみる、朝岡に説明してやれ」
「分かりました」
らみるちゃんが話を始めた。




