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朝岡美夜日は疾駆する 〜常識がバグり散らかした世界で、喋る刀と青春キラキラJKライフを勝ち取ります〜  作者: 叉火多
第四章 辻斬り騒動

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第二十六話

 翌日、教室に入るなり私はクラスメイトたちに一斉に囲まれた。剣道部の防具入れ風鞄を置いた途端、自分の席から一歩も動けなくなる。

 囲みの中にはスズちゃんやゆっこの顔もあった。


「おはよ、美夜日」

「お、おはよう」


 みんなの圧に押されながらもなんとか挨拶を返す。一番手前にいたゆっこがばんっと私の机を両手で叩いた。


「ミヤッピ、なんでこんなことになってるか分かってるよね」

「あー、うん。まぁ、たぶん?」

「なんで私が休みの時にそういうことするかなぁ! あぁ、なんで私昨日休んじゃったんだろ。最悪だよ、もう」


 ゆっこが唇を尖らせて怒る姿は恐いどころか普通にカワイイ。なので、あんたがフラれた腹いせで田中君を斬るからだよとは言わないでおいてあげた。


「第六席の《大谷》さんを倒したんだよね。私も見たかったなぁ」


 隣の席のエリちゃんが聖剣バーティミアスをハンカチで拭き拭きしながら言う。

 そう、この騒ぎは昨日の闘いの結果によるものだった。


「ねぇ、誰も撮影してなかったの」


 ゆっこはエリちゃんやスズちゃんを見て、次にクラス中に声を掛けたが、名乗り出る者はいなかった。


「ちょっとスズー、あんたマネージャーでしょ。《大谷》戦見れないとかマジ最悪。『根と掘り(ネトホリ)』独占じゃあるまいし、しっかりしてよね」


 この世界にあるらしい聞いたことないネット配信会社の名前を引き合いに出して、クラスメイトのひとりが文句を言った。


「誰がマネージャーだ、誰が。昨日は美夜日が用事あるって言ったから別れて帰ったんだよ。まさかひとりで剣武会にカチ込み行ってるなんて思わないじゃん」


 クラスメイトの非難にスズちゃんが反論する。


「いや、あの、別にカチ込んだわけじゃあ……」


 ヤクザの鉄砲玉じゃないんだから。しかし誰も私の言葉など聞いていない。


『甘いもんに釣られて誘い込まれましたって言うつもりかよ。それよりかはなんぼかマシじゃねぇか』


 そうかもしんないけど。っていうか、慰めになってないよ。


「あ、そういえばスズちゃん、なんか廊下歩いてたらいつも以上に視線が痛かったんだけど、あれなに。このクラス内にもなんかビミョーな視線向けてくる人がちらほらいるみたいだしさ」


 人垣の間から離れた席の辺りをこっそりみると、複雑な表情を浮かべてこっちを見ているクラスメイトの姿があった。


「ああ、それな。《大谷》は木南と違ってあのルックスだろ。姉上様って呼んで慕うファンは多いんだよ」


 確かに剣徒会館の屋根に立つ《大谷》いくみんはめっちゃ()えてた。闘いの最中じゃなかったら私もスマホで撮ってたかもしんない。


「でもそれをあんたが倒しちゃったからね。玻璃組の評価が上がるのは嬉しいけど、内心複雑な心境の人間もいるってこと」

「はぁ」


 そう言われてもね。私は降りかかる火の粉を払っただけだし。


『お前が木南にケンカ売って倒した結果、渡会に続いて《大谷》が挑んできたのを考えたら、単純にそうも言えん気もするがな』


 じゃあどうすりゃよかったのさ。


『クク、結局この世界を受け入れて闘いに身を投じるしか道はなかったってことよ』


 嬉しそうにしやがって。

 ふんだ、言ってなさい。私はまだまだ青春キラキラJKライフを諦めたわけじゃないんだからね。


『勘違いしないでよね、てか』


 そういうこと。


 ピンポンパンポーン。


 その時、間抜けな音と共に校内放送が流れた。


 ――一年玻璃組、朝岡美夜日さん。登校していましたら直ちに剣徒会館・剣武会執行室へ来るように。繰り返します……。


「呼んでるよ、ミヤッピ」

「我らが超新星は今日も朝から大人気だねぇ」

「二人とも他人事だと思ってさ」


 机に座ってそっぽを向く私を、ゆっことスズちゃんがニヤニヤと見下ろしている。絶対今度は何が起こるかと面白がってる顔だ。

 毎日毎日どいつもこいつも朝っぱらから。朝読とかこの世界には絶対無いんだろうな。


 よし、決めた。


 いつまでも席から立ち上がろうとしない私に対して、周りがざわつきだした。


「美夜日、行かないの」


 スズちゃんが代表して尋ねた。


「行かない。行くわけないじゃん」


 私は昨日騙されたのだ。その結果があれだ。今回だって罠に決まってる。

 なので断固無視。


「さすがにまずくない、ミヤッピ」

「あーしらは知らないよ」


 結局朝、私は剣徒会館には行かなかった。

 で、昼休みになった。


 ピンポンパンポーン。


 ――一年玻璃組、朝岡美夜日さん。至急剣徒会館・剣武会執行室への出頭を命じます。尚、本要請は強制であり、拒否及び遅延は処罰の対象となります。繰り返します……。


「朝の放送よりずい分言葉が強いよ。ミヤッピだいじょぶ?」

「素直に従った方がいいんじゃないの」

「無視無視。用があんならあっちが来りゃいいのよ。それよりお腹空いたから早くお昼食べよう」


 昼休みの出頭要請も無視し、やがて放課後になった。


「なんで来ないの!」


 ズバンッと扉を開け放ち、大声と共にらみるちゃんが玻璃組の教室に踏み込んできた。つかつかと私の机の前までやって来る。

 剣武会十剣鬼・第八席《無形》一ノ瀬らみるの突然の登場に教室中がざわざわとなる。


「行くわけないじゃん。食べ物の恨みは恐いんだよ」


 甘い物食べさせてくれるって言ったくせに結局貰ったのは飴玉一個だけ。腕へし折られそうになったり、殺人ノックで狙撃されたり散々だった。そんな連中の巣窟に今さらノコノコ行くわけがない。


「こんなこと言ってますけどどうします、姉上様」


 振り返り入り口の方へ向かってらみるちゃんが声を掛けた。

 長い一本括りの髪と羽織を揺らめかし、人影が教室内に侵入する。それだけでさっきまでのざわめきがけし飛び空気が一瞬にして変わる。

 入って来たのは剣武会十剣鬼第二席、《小次郎》こと九堂院永久子。

 黄色い悲鳴が幾つも上がった。

 彼女の姿を目に入れただけで、足元にひれ伏さんばかりのクラスメイトたちが何人もいる。《大谷》いくみんに負けず劣らずこの人にもファンが多いようだった。そういやファミレス前で何人も女子たちをはべらせていたっけ。


「あ、あの、姉上様……」


 憧れの上級生に思い切って声を掛けるクラスメイト。しかし、


「すまない。今は朝岡に話がある」


 すげなくあしらわれがっくりと項垂れる。

 明らかに二人ともピリついた空気を放っているのだから当然だ。朝と昼の放送を聞けば分かりそうなもんなのに、憧れの人を前にすると途端に人って周りが見えなくなるみたい。

 十剣鬼の二人が私を逃がすかと言わんばかりに机を挟み込むようにして立つと、潮が引くように周りから人がいなくなった。


 教室の空気が一気に張り詰めた。

 それは刀剣検査の時の木南ちゃんの比じゃなかった。彼女よりも強い、学園トップクラスの剣の腕を持つ十剣鬼の二人がやって来たのだ。それもなんか怒ってるっぽい。


「なんか用?」

「朝岡、最初に言っておく。素直に従った方が身のためだぞ」

「力で脅しつけようっての? 剣武会ってのはそれしか能が無いわけ。マジでただの脳筋集団じゃん」


 そう余裕ぶって言い返したものの、実は心臓バクバクだった。


『お前、強がってみせるくせに意外と小心者だよな』


 面白そうにハクが的確に私の性格を言い表す。全くもって仰る通りだから反論のしようもない。

 ただこっちも考えなしで言ったわけではなかった。《小次郎》永久子が怒りっぽいのはもう分かっている。その姿にファンの子たちが幻滅してしまうかもと考えたら無茶苦茶な真似は出来ないのではと考えての発言だった。


『こういう組織のトップ集団ってのは体面を気にすっからな。いくら力はあっても横暴が過ぎりゃ軽んじられて反発を招くだけだ。そうなってないとこを見ると剣武会って組織はそれをちゃんと分かって飴と鞭やってそうな気はするな』


 でしょ。私もたまには考えんのよ。


『たまにしか考えない、だろ』


 ひとこと多いよ。

 まぁそれは置いといても、昨日あれだけの目に遭わされたんだから、嫌味のひとつくらい言ってやったってバチは当たんないって。


『それで済みゃいいがな』

「剣武会への侮辱は許されない。口の利き方に気をつけて、美夜日ちゃん」


 強い口調でらみるちゃんが窘める。


「口の利き方が気に入らないの? もしかして頭に来た? だったらどうすんの、ねぇ」


 ただの強がりだが言ってやった。私の言葉に眉を吊り上げて身を乗り出そうとしたらみるちゃんを《小次郎》永久子が片手で制した。意外にも彼女は私の発言など気にしてないようで、怒るどころかむしろ笑っていた。


「力で脅す必要などない」


 袂から一枚の紙切れを取り出し、広げて私の机の上に置いた。そこには何だかよく分からない数字が記載されている。


「なにこれ」

「これで分からんか。らみる」

「はい、姉上様」


 らみるちゃんが自分のスマホを出して操作し、紙切れの横へと置いた。ひとつの画像が表示されている。人差し指が画面をスワイプして画像を次々に表示させていった。


「…………行きます。すぐ行きます。早く行きましょう」


 私の返答はそれしかありえなかった。


『激弱じゃねぇか』






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