第二十四話
……勝った、の?
「はは、さすがだよ、朝岡美夜日。まさか僕をここまで追い詰めるなんてね」
「はぁ? 強がってんじゃないわよ。もう終わりでしょ」
虚勢を張るくらいの余力はあるらしい。
「ん、いや、ちょっと待てよ。朝岡……、朝岡美夜日っていったっけ。はっ!」
何かに気がついたように、私のフルネームを呼んで大きな声を上げる。
「な、なによ。急に」
むっくりと上半身を起こす。
「僕としたことがまさかこんな重大なことに今まで気がつかなかったなんてどうかしてる。浅倉南、朝岡美夜日。に、似ている」
待って。嫌な予感しかしない。確かに韻は踏んでるけども。
「なんてことだ。君こそが僕のヒロインだったのか!」
「違うに決まってんでしょっ! タッチからいい加減離れなさいよ!」
「なら、今後姉上様と呼ばせて頂いても?」
「いいわけあるかっ」
こんな奴らしかいないのかこの学園には。
「だいたい何が姉上様よ。あんた三年なんだから私より年上でしょーが」
「ここでは年齢や学年よりも尊いものがある。それが強さと」
「強さと?」
「自分に正直なまっすぐな心だ」
「…………」
ねぇハク、やっぱ殺そう。こいつぶっ殺してこの学園を駆け抜けよう。
『おっし、やるか。って、本気でもねえクセに』
くっそぉー。じゃあ死なない程度に脇腹辺りちょっとだけ抉るってのはどーお?
『やめとけ。そのプルプル震えてる腕じゃ土手っ腹にブッ刺さるのがオチだぞ』
「ふっふっふ」
ハクとやりとりしていたら、《大谷》いくみんがいつの間にか笑い声を上げていた。打ち所でも悪かったのかな。
「美夜日ちゃん、まだ終わりじゃないよ」
「へんだ、さっきも言わなかったっけ。強がんじゃないって」
「なにか忘れてやしないかい」
「……何かって?」
何かあったろうか。
『おい美夜日、あれを見ろ』
ハクの言葉に周囲に目を向けると、身体を引き摺るようにして、こちらへ歩いてくる人影があった。
あれは、遥乃。
『《大谷》は木南の姉で、渡会は木南の妹だ。茶室でお前を助け出したのも、こいつが自分の手でケリをつけたいがために指示してやらせたってことかもしれん』
え、ちょっと待ってよ。じゃあ今から二対一の第二ラウンド開始ってこと? でもでも、遥乃はこの人の殺人ノックの餌食になってたじゃん。
『手元が狂ったんだろ』
かわいそっ。もしそうなら遥乃超かわいそうじゃんっ。
「お姉ちゃん、《大谷》さんから離れてっ。まだ終わりじゃないよ!」
遥乃が私に向かって叫んだ。
あれ、なんか違うっぽいよ。遥乃が《大谷》一家のままなら、こんなふうに言うわけがない。
え、じゃあさっきこの人が言ったのは……。
「ねぇ、忘れてるって何のこと」
はっとした。
もしかしてこの世界へ来ることになった犯人の記憶のことだろうか。
「僕の二つ名のことさ」
……全然違った。
「二刀流の《大谷》だ。その僕が持つ刀は『奴宇』と『刃亜』。またの名を『たっちゃん』と『かっちゃん』だ」
「自分で言ってて恥ずかしくないの、それ。で、その名付けがなんなの」
「刀にそれぞれ二つ名前があるなら、僕にも同じように《大谷》の他にもうひとつ名前があってもおかしくないだろ」
なるほど。言いたいことは分かる……か?
高本郁美の名前があって、二つ名が《大谷》なんだから、もうひとつ名前があったらそれは三つ名なんじゃ。
うん、いや、まぁ細かいことはいいよ。
ただ名前がもうひとつあったとして何だと言うのか。今のこの状況をひっくり返すことに繋がるとはとても思えなかった。
それなのに《大谷》いくみんは気にせず続ける。
「そのもうひとつの名はこの学園内ではおいそれとは口に出来ない。バタ臭いだの言語汚染だの言われるからね。規則を守らせる側の剣武会がそれじゃまずいだろう?」
「今まで散々滅茶苦茶やっといて、どの口が言ってんのよ」
しかし私のツッコミなど《大谷》いくみんの耳には届かないようで余裕の笑みすら浮かべている。
「ダメだよ、お姉ちゃん! 早く《大谷》さんから離れて!」
遥乃が叫ぶがとても危険が迫ってるとは思えない。
「敢えてその禁忌の名前を口にし、自らを追い込むことで、僕はさらなる力を解放する!」
『美夜日、こいつの剣気が膨れ上がってんぞ』
え、それってまずい感じ?
「心して聞き届けろ。僕のもうひとつの名前、それは――」
いったい何が起きるのか。
ゴクリと生唾を飲み込む。
なけなしの力を振り絞りいまだ寝っ転がっている《大谷》いくみんに向かって刀を構えた。
「――《MAJOR》!」
『「満田拓也じゃねーか!」』
私とハクのシンクロ率一〇〇%のツッコミと同時に、二発目の爆雷震が炸裂した。
「ぐわぁっ!」
一発目ほどの威力は無かったが、《大谷》いくみんを地面にめり込ませるには十分な威力だった。
「有名野球漫画を雑に掛け持ちすんなっ。ジャンプもサンデーもうんざりなのよ」
『今度こそ終わったな』
「くっそー、誰か『Seventeen』持って来い!」




