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朝岡美夜日は疾駆する 〜常識がバグり散らかした世界で、喋る刀と青春キラキラJKライフを勝ち取ります〜  作者: 叉火多
第三章 朝の恋文、放課後のお茶会

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第十六話

「立会人、剣闘の開始を!」


 渡会さんの声に朝の澄んだ空気が震えた。スズちゃんが刀を抜いて天に振り上げる。


「これより、士峰館学園十七条の剣法第九条に基づき、剣闘を執り行う。立会人は私、一年玻璃(はり)組・道山鈴蘭が務める」


 渡会さんの強烈な剣気が私に向かって放たれる。


「剣闘は得物の折損(せっそん)、あるいは敗北の(だく)をもって決着し、これを剣裁とする。両者異存はないな」

「我が命は剣に」

「我が剣は(ことわり)に」


 お互いの剣気が、ぶつかり弾けて混ざり合う。


「剣閃抜刀、――不退転!」


 渡会さんは一気に飛び込んでくる。そう思っていたのだが、彼女は剣を構えたままぴくりとも動かなかった。刀の切っ先を私の中心に向けたままだ。


『こっちに先に打たせて後の先を取る気か。しゃらくせぇ』


 じりじりと少しずつ右へと動きつつ渡会さんとの距離を詰めるが、切っ先はやはり私の中心からは逸らさない。


 どう責めるの、ハク。


『そうだな』


 その時だった。


「あーー!!」


 頭上から大きな声がした。


「ちょっとスズ、やるなら言ってよー!」


 三階の窓からひとりの女子が顔を出していた。何事かとひとつ、またひとつと顔が突き出された。


「あっ、みんな、玻璃組の外様(とざま)がまたやってるよー!」


 その声を呼び水に二階や三階の窓ガラスが次々と開き、たくさんの女子たちが現れてはスマホを突き出して構える。


「ちゃんとグルチャで回してよ、最初撮り逃したじゃん!」

「あ、あれ木南さんの妹じゃないの」

「あー、だからミヤミヤに挑んでるわけね。なるほど、姉上様の敵討ちだ。で、動画タイトルは何にする?」

「【必見】木南の妹VS木南を倒した女!」


 まったく人の命が懸かってんのに、この学園のJKたちは……。


『集中しろ。仕掛けるぞ』


 身体が自然に動いた。最小の動きで最短距離を射貫く。

 高速の突きが渡会さんの顔面目がけて放たれた。


 ガキンッ!


 甲高い音と供に刀身が弾かれた。すぐに腕と身体を引き戻し二撃目に備える。

 渡会さんは私よりも小柄。ということはリーチ的には私の方が有利。今の突きは小手調べで、ギリギリ相手の身体に届かないくらいの場所を狙って打っていた。


『分かるか』

 自分の身体だもん、なんとなくね。

『よし』


 私は二撃目を放った。今度はさっきよりも半歩深く踏み込んでいる。


 ガキンッ!


 また防がれる。さっきよりも踏み込んだ分、渡会さんは少しだけ下がりつつ受けていた。

 そこを見逃さず一気に間合いを詰める。迎撃しようと刀を振ろうとしたものの、もうそのスペースはないし、あったとしても私の踏み込みの方が圧倒的に早い。


「うっ!」


 渡会さんの小さな叫び。刀を立てて防御するしか間に合わない。こちらも同じように刀を立てて身体ごと思い切りぶつかった。

 二本の白刃が私たちの間で激しくかち合い、鋼を軋ませる。


「おー、鍔迫り合い! 撮って撮って!」

「めっちゃ映える! みんな下行こう!」


 わーきゃー言う声がどこか遠い。私の頭は変に冷静だった。二回目の剣闘だから?


『美菜萌の娘だからかもな』

 それって褒められてんの?

『さぁな。ただお前にも分かっただろ、このわずかな立ち合いでも』

 うん。ハクの言いたいこと。言わなくてもね。

『でも言う気だろ』

 うん。渡会さんには悪いけど、木南ちゃんに比べてこの子、


『「全然大したことない!」』


 思い切り足を踏ん張り、次に両肩、続いて両腕へと絞り込むようにして、生まれた力を刀へとぶつける。


「ふっ!」


 鋭い呼気と供に一気にそれを爆発させて身体ごと踏み込んだ。


「……っ?!」


 小柄な渡会さんが言葉もなく後ろへ吹き飛んだ。土の地面に背中からぶつかりゴロゴロと転がる。


「すっごい、またやったよあの子!」

「待って、まだ終わってないよ」

「いっけー、ぶった斬れー!」


 指笛まで鳴らして騒ぐ外野を無視して、私は砂と土にまみれた渡会さんに近付いて行く。

 仰向けで身体の痛みに呻く渡会さん。


「く、まだまだ……」


 往生際悪く刀を振るう。だがそんな体勢で力もスピードも乗るはずがなく、私はあっさりとその刀を弾いた。続けて刀を持った右腕をローファーの爪先で蹴っ飛ばす。


「あぅ」


 手から刀が離れた。勝負あった。

 ピタリと渡会さんの首筋に切っ先を向ける。燃えるような目つきで私を睨む。


『勝負はあったが、まだ闘志は萎えていないって面だぞ』

 そうは言ってもここから逆転出来るとは本人も思っていないでしょ。


「もうそんな顔したってダメだよ。これで終わり。ねぇスズちゃん」


 私は切っ先を渡会さんから外さずに、離れた所に立つスズちゃんを横目で見た。


「まだだ。得物の折損は確認されていないし、渡会も負けを認めちゃいない。剣闘続行!」


 無情な宣言。


「美夜日ー、早く斬りなって」

「授業始まっちゃうよー」

「ブシュッと派手に行こうよー」

「斬れー!」


 たくさんのヤジが降ってくる。


「斬れ」

「斬れー」

「斬ーれ」

「斬ーれ」

「斬ーれ」

「斬ーれ」


 JKたちの声が唱和していく。ちょっとみんな本気なの。


『クク、どうするよ美夜日、こいつを斬って修羅となり俺様とこの世界を駆け抜けるか。元の世界に戻るにはそれが一番手っ取り早いかもしれねぇぞ』


 そんな、こと。


『なーに、気にすんな。こんなイカレた世界なんかぶっ潰したってどうってことねぇだろ。斬られて死んだ奴が復活するようなトコなんだぜ』


 そうだ。死んだはずのエリちゃんはあっさりと復活した。ゆっこをフッたってだけで田中君は駐車場で真っ二つになった。この世界では人の生も死もちり紙のように軽い。


 悩んで傷つき心を削られ、振り回されてる私の方がバカなのか。この世界のルールが「斬れ」なら、ここでこの子を斬ったって……。


 私は刀を振り上げた。






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