第十一話
新しく入れたシュワシュワのコーラを飲み干すとようやく人心地ついた。
素人の私にでも分かる。
さっきの九堂院て人はこの前の人よりも遙かに強い。もしあのまま飛び出して闘っていたら果たして勝てただろうか。
『ふん、俺様を誰だと思ってやがる。何なら今からでも追いかけるか。あの長い髪を刈り込んでタラちゃんみてーにしてやるぜ』
よしなさい。スズちゃんにもケンカ売るなって言われたでしょうが。
『剣気をぶつけて来たのはあっちが先だろ』
ん、なら私はケンカを売られたってこと?
『ちっ、暢気に構えてるが、あいつが犯人って可能性もあるんだぜ』
あ、そっか。ハクの言うとおりだ。
「おい美夜日、とりあえず《小次郎》のことは忘れなよ。それよりも今は別の十剣鬼の方が問題だ」
「別のって?」
「お前がやった十剣鬼において最弱のあいつと一番仲の良かった《大谷》ってのがいる。こいつも十剣鬼のひとりなんだが、あんたのことを狙ってるって噂があるんだ」
「ちょっと、勘弁してよ。なんでみんな血で血を洗うようなのが好きなのよ。もっとキラキラJKライフを楽しもうとしなさいよー」
血生臭い段平振り回して何が楽しいってのよ。
『刀を段平ってお前もずい分この世界に馴染んで来たな』
あんたやお母さんのせいでしょうが。
「一応聞くけど、その大谷さんってどんな人? やっぱりこないだの人みたいにデカくって筋肉モリモリで、刀に付いた血を舌で舐め取りそうな危ないタイプ?」
「あんたの偏見は置いといて、所属は三年藤花組だ。名前は高本郁美、こいつは」
「ちょっと待って」
私はスズちゃんにストップを掛ける。えぇっと、聞き間違えたかな。
「さっき大谷さんって言わなかったっけ?」
「言ったけど」
「高本郁美ってのはだぁれ?」
「だから《大谷》が高本郁美なんだって。同級生からはいくみんとかって呼ばれてるみたいだけど」
「待って待って。意味分かんないよ。いくみんとかどうでもいいし。なんで高本さんが《大谷》なの。二つ名が人の名前っておかしいじゃん」
「あぁん? 変なこと言うね。《小次郎》だって人の名前じゃんか」
「そうだけど、それとこれとはなんか違うっていうか。《小次郎》は和のニュアンスあるじゃん、侍とか巌流島とか。別に襲名制とかでもないわけでしょ?」
「卒業する十剣鬼から後輩がその名前を受け継ぐ場合もあるみたいだけど、《大谷》の場合は違うね」
小次郎、大谷……あっ。まさか。
「高本がなんで《大谷》かっていうとだな、それは」
「待ってスズちゃん」
「どした」
「言わないで。分かったかもしんない」
「へぇ、やるじゃん」
やる、とかじゃないような。私の想像通りなら心の底からげんなりする。
「もしかしてさ、超考えたくないんだけど」
どうか当たっていませんように。
「……高本さんが、二刀流だから、とか」
「当ったりー」
「はい、うっざ! なんなのそのネーミング。二刀流だから《大谷》ってアホなんじゃないの。そこは《武蔵》でいいじゃん、《小次郎》いるんだしさぁ!」
「高本は《小次郎》とは仲悪いから《武蔵》は嫌だったらしい。どうしてもワンセットで見られるしね」
「それで《大谷》って、どんなセンスしてんの。人間関係まで史実通りなんだったら素直に《武蔵》名乗りなさいよ、剣武会の十剣鬼めんどっ!」
私は目の前のポテトをムシャムシャとやけ食いする。
「とにかく《大谷》の持ってる刀ってのが厄介って話だよ。もしやりあったら恐らく一筋縄じゃいかないよ」
「そんなすごい刀なの」
「ああ、あいつの持ってる二本一対の刀は、右刀と左刀でそれぞれ《奴宇》と《刃亜》って呼ばれてる」
「…………」
「どした美夜日?」
「ヌートバーじゃないっ! 士峰館は和を重んじてるんじゃなかったの! なんなのさっきからそのおかしな名付け!」
「ヌートバーは日本国籍(事実)だよ。母ちゃんが日本人だからね。つまり士峰館的にはセーフって事になる」
「うっさい、アウトとかセーフとかさりげなく野球用語混ぜ込まないで!」
「アウトは別に言ってないけど」
「だいたいヌートバーのトは接続詞じゃないでしょ! 《ヌー&バー》じゃないでしょ、めっちゃ失礼じゃない! せめて大谷要素から拾いなさいよね!」
はぁはぁ。
「ちょっと待ってな」
スズちゃんがグラスを持って席を立つと、私の分のおかわりを持って戻ってきた。
「ありがと」
「話はまだ終わりじゃない」
「もうお腹いっぱいなんだけど」
もちろん炭酸のせいじゃない。
「まぁ最後まで聞きなよ。この二本の刀、奴が本気を出すと呼び名が変わるって言われてる」
嫌な予感がする。いや、嫌な予感しかしない。
「《たっちゃん》と《かっちゃん》にね。ヌートバーのミドルネームがタツジだからそこにも掛かってんだろうな」
「今度はタッチじゃん! もう集英社ですらないよ。同じ一ツ橋グループだからいいとか思ってない? ねぇ!」
「名付けの理由なんかあーしが知るかよ。《大谷》の勝手じゃん」
「そうだけど! そ! う! だ! け! ど!」
バンバンと机を叩く。
「あ、今思い出した」
「もう今度はなに」
「あんたが倒した十剣鬼最弱のあいつの苗字」
「スズちゃんそれ気に入ってるでしょ。で、あの人の苗字がどうしたの」
「確か木南っていった」
「木南? 普通じゃん」
構えて損した。また変な名前が飛び出すのかと思った。
「何も気付かないの。タッチ知ってんでしょ。ヒロインの名前はなんだったよ」
「えと、確か――南ちゃん。ってちょっと待ってよ。もしかして木南さんは《大谷》さんにとって南ちゃんだったってこと?! 『きなみ』と『みなみ』で韻踏んでるし、同じ漢字も入ってるし」
こっくりと頷くスズちゃん。
「つまり私が十剣鬼の木南ちゃんをやっつけたからタッチ好きの《大谷》さんが怒ったって?! 知らないよそんなの! だいたい木南さんってすんごい鬼みたいな見た目の人だったじゃん。『私のかわいい木南をよくもやってくれたね』ってなる?!」
「他人の好みに文句付けてもどうにもなんないって」
「《大谷》なのに選球眼悪過ぎっ!」




