第九話 王都凱旋! 影武者、正面から城門をくぐる
呼び出し状が届いた翌朝。食堂の前には、山盛りの食材が積まれた馬車と、当然のような顔をして旅支度を整えた三人の姿があった。
「ベルトさん? おじいさん、マリナさんまで……どうして?」
「大切な料理人を一人で敵地にやらせるわけねえだろ」ベルトさんが不敵に笑った。「俺は食材の護衛兼、御者だ」
「ワシの最高特級のカブが盗まれてたまるか。ワシが直々に品質を管理してやるわい!」ゴルドじいさんがクワを掲げる。
「アンナちゃん、王宮の厨房は広くて大変でしょう? アシスタントなら任せて」マリナさんがウインクをくれた。
胸の奥が熱くなる。かつて王都を去るときは一人ぼっちだった。でも今の私には、一緒に戦ってくれる最高の仲間たちがいる。
「みんな……ありがとうございます! よし、王都へ行きましょう!」
数日後、白亜の巨大な城壁がそびえ立つ王都の正門。
かつてお姉様の影武者だった頃の私は、いつも薄暗い裏口の通用門からコソコソと出入りしていた。自分の名前を名乗ることすら許されず、ただの「荷物」のように扱われて。
だが、今は違う。
「ガラン村の料理人、アンナである! レオンハルト宮廷料理長およびクロエ・フォン・アルバート様の呼び出しに応じ、参上した!」
ベルトさんが堂々と門番に書状を突きつける。門番たちは書状の紋章を見るなり慌てて最敬礼を行い、重厚な鉄の城門をギギギと開き放った。
朝日を浴びながら、私は馬車の窓から正面の城門をくぐった。
かつて私を閉じ込めていた場所へ、私は自分の名前を掲げて、正面から凱旋したのだ。
王宮の広大な第一厨房。建国記念晩餐会を数日後に控え、数百人の料理人たちが立ち働いていた。
その中央、一段高い場所に、その女性はいた。燃えるような赤髪を華やかに結い上げた美女——私のお姉様、クロエだ。
「あら。本当に来たのね、ドブネズミ」
私を見つけるなり、お姉様は扇子で口元を隠しながら冷酷な嘲笑を浮かべた。
「田舎の落ちこぼれどもの間で、私の料理を真似してチヤホヤされたからって、いい気になって。……いい、アンナ。今回の晩餐会には隣国の王族や国賓が勢揃いするの。これだけの量を、明日の朝までに一人で、完璧に皮剥きと筋引き、刻みまで終わらせること。もし終わらなければ、あのガラン村とやらを、即座に取り潰すよう王宮へ進言してあげるわ」
お姉様がパチンと指を鳴らすと、台車に乗せられた絶望的な量の食材が運ばれてきた。数百人分の肉塊、山のような根菜、ハーブの山。
普通の料理人なら、この量を見ただけで泣き崩れるだろう。
しかし、私は思わず口元を緩めてしまった。
(……お姉様。本当に、何も分かっていないんだね)
「大丈夫です、皆さん」私は微笑みながら、愛用のマイ包丁をスラリと抜いた。「これくらい、お姉様の無理難題に付き合わされてきた私にとっては、ただの準備運動ですから。——始めます!」
私は深く息を吸い、包丁を構えた。そして、一歩を踏み出した瞬間——私の身体は、ゾーンへと突入した。
シュバババババッッッ!!!
厨房の中に、肉眼では捉えきれないほどの銀色の閃光が走った。
「な、何だあいつは……っ!?」
帰ろうとしていたお姉様と王宮料理人たちが振り返り、次の瞬間、全員が石のように硬直した。
巨大な鹿の塊肉が、まるで魔法にかかったかのように一瞬で筋を引き抜かれ、均等な厚みの美しいステーキ肉へと切り分けられていく。次に人参に包丁を向けると、トントントントン! と、恐ろしいほどの高速の金属音が響いた。コンマ一ミリの狂いもない完璧な飾り切りにされた人参が、噴水のように次々と飛び出していく。
「嘘でしょう……!? 飾り切りを、目で見ずに行っているのか!? あんな技術、人間業じゃない!!」
王宮のエリート料理人たちが、辺境から来た少女の圧倒的な技術を前に、ガタガタと膝を震わせている。
「あ、あり得ないわ……! なんでそんな速度で……っ!?」
お姉様クロエは、顔面を真っ青に染め上げ、ガタガタと歯を鳴らしながら後退りした。
彼女は知らなかったのだ。自分が「天才」として胡坐をかいていた七年間、裏でその何倍もの量を処理し続けてきた私が、どれほどの領域に達していたのかを。
「お姉様、言いましたよね。明日の朝までに終わらせろって」
私は包丁を収めると、満面の笑みでお姉様を振り返った。私の後ろには、まだ始めて十分しか経っていないのに、全体の三分の一の下仕込みが完璧に終わった食材の山が、美しく輝いていた。
「約束通り、完璧に終わらせます。……でも、覚悟してくださいね。晩餐会当日、私はお姉様の影にはいませんから」
私の宣戦布告に、お姉様は言葉を失ったまま、ただ恐怖に身を震わせることしかできなかった。




