表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天才料理人のお姉様の影武者だった私、廃村に捨てられたので好き勝手に食堂を開きました  作者: P作


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/13

第十話 決戦前夜——偽りの天才と、本物の料理人

 王都に来て三日目の夜。

 下仕込みをすべて終え、翌日の晩餐会に備えて食材を最終確認していたとき、宮廷料理長レオンハルト様がひっそりと厨房に現れた。

「アンナ、少し話がある」

 二人きりになると、レオンハルト様は静かな声で語り始めた。

「明日の晩餐会、クロエは必死になるだろう。お前が下仕込みを完璧にこなしたことで、彼女は表向きの自信を取り戻している。だが……」

 レオンハルト様は少し間を置いた。

「私は、クロエを長年見てきた。彼女には本物の才能がある。食材の組み合わせを思いつく天才的な発想力が。ただ——それだけでは料理は完成しない。お前のような、素材を極限まで引き出す『手』がなければ、彼女の料理はただの空想で終わる」

「……知っています」

「だからこそ、聞きたい。お前はなぜ、七年間も黙って耐え続けた?」


 私はしばらく考えた。

「最初は、お姉様の料理が本当に好きだったから、だと思います。お姉様が思い描く料理を形にするとき、食べた人が目を閉じる瞬間が——好きだったんです。自分の名前じゃなくても、その瞬間だけは、私も誰かを幸せにできていた気がしていた」

「過去形だな」

「はい。でも今は違います。自分の名前で、自分の料理で、誰かに笑ってほしい。七年間で、やっとそれがわかりました」

 レオンハルト様は静かに頷いた。

「明日、お前は私が用意した枠でメインディッシュを出す。クロエの皿と並ぶ形になる。正々堂々、お前の名前で、出してみせろ」


 翌朝、お姉様は私のところへ来た。

 いつもの冷酷な顔ではなく——どこか、焦りを必死に押し隠したような顔をしていた。

「アンナ、昨夜、下仕込みを確認した。……完璧だったわ」

 私は黙って聞いていた。

「あなたの仕込みがあれば、私の料理は完璧になる。今日の晩餐会も……一緒に、やってくれないかしら」

 お姉様の声は、七年間で聞いたことのない、小さなものだった。

 私は少しの間、お姉様の目を見た。プライドと、恐怖と、そして——かすかな、本物の懇願が混じっていた。

 かわいそうだと思った。本当に、心からそう思った。

 でも。

「お断りします、お姉様」

 私は静かに言った。

「今日の晩餐会で、私は私の料理を出します。お姉様も、お姉様の料理を出してください。……せっかくだから、正面からぶつかりましょう」

 お姉様の顔が、怒りで紅潮した。「生意気なことを……!」

 でも、それ以上は何も言わなかった。お姉様は踵を返して、厨房の奥へと消えていった。

 その背中を見ながら、私は包丁の柄を握りしめた。

(今夜——終わりにしましょう)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ