第十一話 決戦の晩餐会! 偽りの天才と、本物の味
王宮の大晩餐会会場は、きらびやかなシャンデリアの光と、国中から集まった貴族たちの熱気に包まれていた。
厨房の総責任者として中央に立つお姉様クロエは、胸を張り、勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
「さあ、私の至高の芸術を味わわせてあげなさい!」
お姉様の指示で、豪華な皿が次々と運ばれていく。フォアグラのテリーヌ、最高級牛のステーキに金箔のソース。これでもかと高級食材を積み重ねた、華やかでド派手な宮廷料理の数々だ。
「素晴らしい! さすがは天才料理人クロエ様だ!」
「今日の料理は全盛期以上のキレがある!」
貴族たちの絶賛の嵐に、お姉様はフンと鼻を鳴らした。
(当然よ。アンナが完璧に下仕込みをしたんだもの。でも、褒められるのは私。歴史に名を残すのも、この私よ!)
しかし、レオンハルト様だけが、一口も料理に手をつけず、冷ややかな目でクロエを見下ろしていた。
晩餐会の最高潮、メインディッシュの時間が訪れた。
「皆様、本日の宴の締めくくりに、宮廷料理長レオンハルト卿の推薦による特別な一皿をご用意いたしました」
給仕長の声と共に、銀の蓋をされた皿が運び込まれる。
給仕たちが一斉に銀の蓋を開けた瞬間、会場の空気が一変した。
運ばれたのは、王宮の晩餐会にはあまりにも不釣り合いな、素朴な陶器の器。中に入っているのは、ただの琥珀色のスープと、ゴロゴロとした野菜、そして一切れの肉の塊。
アンナが作った、『ガラン村の恵み・熟成大鹿肉と黄金野菜のクリアシチュー』だった。
「何だこれは……? 宮廷料理にしては随分と地味ではないか」
「洗練さに欠けるな」
貴族たちが口々に不満を漏らす。お姉様も心の中で「勝ったわ」と確信し、嘲笑を浮かべた。
しかし。
一人の老貴族が、気まぐれにスープを一口口へと運んだ——その瞬間だった。
ガタァァァンッ!!!
「ひっ……!? な、なんだ神よ……っ!?」
老貴族はカッと目を見開いたまま、衝撃のあまり椅子から転げ落ち、床にへたり込んだ。そしてスープの器を抱え込み、大の大人が涙をボロボロと流しながら、無我夢中でスプーンを動かし始めた。
「美味い……美味すぎるッ……!! 先ほどまでのクロエ殿の料理が、まるで安物の化粧を施しただけの紙芝居に思えるほどの、圧倒的な本物の美味だ!!」
「な、何だと!?」
その言葉に導かれるように、他の貴族たちも一斉にスプーンを口に運んだ。次の瞬間、会場のあちこちで悲鳴のような歓声と、椅子がひっくり返る音が鳴り響いた。
「野菜が……このカブと人参が、信じられないほど甘い! 繊維の隅々まで、透き通った出汁が完璧に染み込んでいる!」
「この鹿肉は何だ!? 噛んだ瞬間、肉汁が津波のように押し寄せて口の中で溶けたぞ!」
貴族たちはもはや身分も忘れ、器に顔を突っ込む勢いでスープを貪り、肉を喰らった。
「これぞ至高! これこそが本物の天才の料理だ!!」
会場全体が、地鳴りのような大絶賛の拍手で包まれた。
「そ、そんな馬鹿なことあるわけがないわ!!」
耐えかねたお姉様クロエが、厨房の仕切りを飛び出して会場へと姿を現した。その顔は怒りと焦りで引きつっている。
「それはただの田舎のクズ肉と泥臭い野菜よ!? 私のフォアグラやトリュフを使った芸術が、そんな貧乏人の餌に負けるはずがないわ!!」
「見苦しいぞ、クロエ」
立ち上がったのは、レオンハルト様だった。
「お前が芸術と呼ぶその料理の『芯』を、一体誰が作っていたか、まだ理解できないのか? 貴公らが今食べたシチューを作ったのは、クロエではない。彼女の妹であり、ガラン村の料理人——アンナだ」
「——ッ!?」
会場に激震が走る。
「ということは、今までのクロエ様の料理も、本当は……」
「ち、違うわ! アンナはただの出来損ないの奴隷よ! 私の真似をしただけ——」
「お姉様」
凛とした声が響き、会場の視線が集まる。真っ白な料理服を着た私が、堂々と姿を現した。私の両隣には、腕を組んで不敵に笑うベルトさんと、誇らしげに胸を張るゴルドじいさん、マリナさんが控えている。
「私はお姉様の真似なんてしていません。これは、ゴルドおじいさんが育てたカブ、ベルトさんが獲ってくれた鹿肉、マリナさんに教わったハーブ、そしてガラン村の最高の湧き水で作った、私の料理です」
私は真っ直ぐにお姉様を見据え、ハッキリと告げた。
「私はもう、あなたの影じゃありません。私の名前は、料理人アンナです!」
「あ、あ、あああ……っ!」
お姉様クロエは、あまりの実力の差と、すべてを失った絶望に顔を真っ青に染め上げ、その場にガクガクと崩れ落ちた。
偽りの天才のメッキが、大観衆の前で完全に剥がれ落ちた、最高のカタルシスの瞬間だった。




