19
一輝さんの腕に抱えられたまま、寝室の扉が静かに開かれた。
薄暗い室内へ足を踏み入れた瞬間、私の視界いっぱいに広がったのは、壁一面の大きな窓と、その向こうに瞬く圧倒的な星空だった。
九月の高原の夜空は、まるで不純物をすべて削ぎ落としたみたいに澄み切っている。天の川の淡い光さえ、息を呑むほど鮮明だった。
「……綺麗。カーテン、開けたままでも寒くないんですね」
そう呟くと、一輝さんは私を抱いたまま、低く笑った。
「……当然だ。この部屋は床暖房が入っているし、窓の気密性も高い。外がどれだけ冷え込もうが、中は常に快適なままだ」
そう言ってから、一輝さんは私の顔をじっと見つめ、少しだけ声を和らげた。
「お前に、この星空を見せたかった」
胸の奥がじんわりと熱くなる。
一輝さんは私をそっとベッドへ降ろすと、そのまま背後から覆いかぶさるように抱き寄せた。
窓の向こうには静かな銀河。足元からじんわりと伝わる床暖房のぬくもりと、彼の高い体温が混ざり合い、部屋の中は春先みたいな柔らかな温もりに満たされている。
「……星、降ってきそう……」
思わず零した声に、一輝さんが耳元で低く囁いた。
「……降らせはしない」
そのまま唇が首筋へ触れる。
「だが今からはお前の目には私だけを映していろ」
深く低い声が、胸の奥まで震わせた。
長い指がカットソーの裾から滑り込み、直接肌へ触れる。
「っ……一輝さん……」
熱い。ただ撫でられているだけなのに、そこからじわじわ熱が広がっていく。
「……はる」
掠れた声が落ちてくる。
「お前が私の名前を呼ぶとき、声が少し震える。その癖も、息の乱れ方も……私は全部覚えているぞ」
指先が腰をゆっくり撫で上げた。
「……今夜も、私を夢中にさせてみせろ」
その言葉に、身体の奥が甘く震える。
一輝さんの唇が首筋を辿り、鎖骨のくぼみへ深く口づけを落とした。
「……ぁっ」
吐息が漏れる。
窓から差し込む星明かりを受けて、一輝さんの瞳が濡れたみたいに揺れていた。
普段は論理と理性で自分を制御している人なのに。今だけは、私を求める熱を隠そうともしない。その危うさが、たまらなく胸を熱くさせた。
「……お前は、どうしようもない程に私を熱くする」
掠れた声が落ちる。
「……この熱さだけは、どうしても計算通りにいかない」
一輝さんは指を、絡めるように握り直した。そのまま、逃げ道を塞ぐみたいに深く抱き寄せてくる。
「……っ、一輝さん……!」
「……逃がさない」
低い声が耳元へ落ちた。
「この温もりも、お前のその声も……全て、私のものだ」
窓の外の星が揺れて見える。
窓の外には冷たい夜空が広がっているはずなのに、部屋の温もりと、一輝さんの熱さのせいで、頭がどうにかなりそうだった。
一輝さんの手が私の身体を強く抱きしめるけれど、触れる指先は驚くほど優しくて、大切にされているのが伝わってくる。私の小さな変化をひとつも見落としたくないみたいに、彼は何度も私の名前を呼んだ。その声を耳元で聴くたびに身体の力が抜けていく。
「……はる」
苦しそうな声。
「お前は……私を、どこまで狂わせれば気が済むんだ……」
その掠れた呻きが肩口へ落ちた瞬間、胸の奥がいっぱいになる。
窓の向こうでは、美しい星空が静かに瞬いていた。




