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萌木の村の「ROCK」の店内に一歩足を踏み入れると、そこは大勢の客の活気が渦巻いていた。吹き抜けの高い天井や、重厚な木造りのカウンターが、清里の開拓精神を感じさせる力強い雰囲気を醸し出している。
一輝さんは、テイクアウトの出来上がりを待つ間、ショップの棚に並ぶワインのボトルを、まるで精密機器の仕上がりをチェックするかのような鋭い眼差しで見つめていた。
「はる、ビールだけじゃ物足りないな。せっかく山梨にいるんだから、勝沼のワインも揃えておこう。アヒージョにはすっきりした白が合うし、この重厚な肉料理の脂を受け止めるには、しっかりとしたコクのある赤が絶対に必要だからな」
そう言って彼が選んだのは、勝沼のワイナリーが誇る白ワインと、深いルビー色が美しい赤ワインの二本だった。さらに彼は、当初の予定だった名物の「ROCKカレー」と手作りウインナーだけでは飽き足らず、骨から肉がほろりと外れるほど煮込まれたスペアリブや、地元の白麗茸を贅沢に使ったアヒージョ、そして萌木の村の工房で作られた自家製のカマンベールチーズの燻製まで、次々と注文を増やしていった。
あまりのボリュームに驚く私をよそに、一輝さんは「あとでお腹が空くかもしれないから、多めに買っておくだけだ。それに、肉の旨味を一番引き出してくれるのは、やっぱり赤ワインだからな」と涼しい顔で言い切り、出来立ての料理を受け取って車へと向かった。
別荘に戻ると、一輝さんはリビングの照明を一番暗い設定に落とし、テラスの扉を少しだけ開けた。九月の夜風がカーテンを静かに揺らし、外からは秋の虫たちの声が心地よいBGMのように聞こえてくる。
「まずはビールだな。喉を潤そう」
シュッ、と小気味よい音を立てて抜栓されたのは、清里の地ビール『タッチダウン』。キンキンに冷えた琥珀色の液体をグラスに注ぎ、まずは熱々のウインナーを頬張った。パリッとはじける皮の中から溢れ出す肉汁と、ホップの力強い苦味が身体の芯まで染み渡っていくようだ。
「美味しい……! ROCKのご飯を食べると、なんだか元気がもらえますね」
私が幸せな気分に浸っていると、一輝さんは次に、勝沼の赤ワインのコルクを鮮やかに抜いた。グラスに注がれた深い赤色は、間接照明を受けて妖艶に輝いている。彼は一口その味を確かめると、満足そうに目を細めた。
「いいな。この深い味わいが、スペアリブの濃厚なソースと本当によく合う。はる、この肉を一口食べてから、赤ワインを飲んでみろ。口の中で脂の旨味とワインの渋みが綺麗に混ざり合って、最高に美味しくなるから」
一輝さんは自分のフォークで肉を掬い上げると、当然のように私の口元へ運んだ。続いて白ワインの栓も開けられ、アヒージョのキノコと合わせる贅沢な飲み比べが始まった。赤ワインの芳醇な深みと、白ワインの爽やかな酸、そしてROCKのカレーの深いコク。最高の料理と贅沢なワインに囲まれて、私たちは時間の経つのも忘れて語り合った。
「一輝さん、なんだか夢みたいです。美味しいものをたくさん食べて、こうして一輝さんの別荘でゆっくりできるなんて」
「夢なんかじゃない。楽しいか?」
一輝さんはソファに深く背を預け、私の肩を自分の方へと引き寄せた。ワインのせいか、彼の頬もわずかに赤みを帯び、その瞳は熱を孕んで私を見つめている。
「今日一日、お前は私のそばを離れなかったな。そのご褒美を、今から受け取りたいんだが」
彼の低い声が耳元を掠め、心臓の鼓動が急激に速くなった。テーブルの端では、今日作ったばかりのオルゴールが、静かな夜の空気に混じって、小さな音で優しいメロディを奏で続けている。
一輝さんの顔がゆっくりと近づき、彼の体温が私を包み込んだ。山梨の豊かな自然が育んだワインと、温かな料理。そして、大好きな人の腕の中。
私はこの幸せの中に溶けてしまいたい。そんなことを思いながら、そっと目を閉じた。




