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愛国連隊 A実験小隊

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 フロレンヌの西、崩壊したカフェテリアの前に兵士が整列する。

 だが、彼らは埃まみれのコーヒーを目当てに集まったわけではなかった。


 ビシっと並んだ十数人の小柄な兵士に対して、ノイン少将が号令をかける。


「A実験小隊、整列!」


 軍靴が泥を打ち鳴らし、狂いのない一音となって廃墟に響いた。

 ノインはこの瞬間がたまらなく好きだった。


 掛け声ひとつで、個々の兵士がひとつの意志として立ち上がる。


 見た目も中身も異なる人間を、大量に注ぎ込んだ巨大な坩堝(るつぼ)

 それが軍隊だ。


 指揮官はそのどろどろに溶けた溶湯(ようゆ)を部隊という型に注ぎ、自身が目的に沿った槍や矢に研ぎ澄まして形作る。


 これぞ号令の意味であり、これぞ指揮官の仕事である。

 彼女はそう信じていた。


 背筋を駆け抜ける静かな全能感。だが、彼女がその甘やかな余韻に浸っていられたのは、ほんの数秒のことだった。


「はいはーい!」


「アルファ、返事は一回でよろしい」


「はいはいはーい!」


「ええい、増やすな……! 休め!」


 いつものようにマイペースを崩さないアルファに少将は肩を落とした。


 雨が降ろうとも、矢が降ろうとも、彼女はそのくるっと巻いた赤髪のように我が道を行く性格をしている。


 足先どころか身長も揃える造命種に対して、彼女はオマケのように列の端に立った。


 ナイトメアのアルファは、造命種より頭ひとつ分身長が高い。ノイン少将も中身はともかく、その体は造命種だ。自然と見下ろされる形になった。


 しかし、アルファはどこかソワソワしている。顔はノインを向いているが、肩と足先の意識は、しっかりと背後のカフェテリアに向いていた。


「……どうした、アルファ?」


「ね、入っていい?」


「このカフェテリアにか? 店主もいなくて屋根も落ちているのに?」


「お菓子みたいな臭いがする。ココアかも」


「駄目だ。ばっちいぞ」


「むー」


 アルファは不満の声を上げながら、カフェテリアに顔を向ける。

 すると、彼女の背後から陽気な笑い声が上がった。


「去年死んだうちの犬がようやっとったなー。入ったらいかん部屋の敷居の上でもって、においを舐めるんよな」


 そういって荷物の乗った乳母車を押しているのは、帝国軍の戦車隊を率いていた、バッスス中尉だった。


 彼とその部下は、取っ手のついた金属の缶を乳母車に乗せ、乗り切らない分は肩に担いでいる。缶は角の取れた長方形をしていて、取っ手の部分と横腹に丸い(ふた)がついていた。


「爆薬は集まったか」


 乳母車から缶を取りあげたノインが問うと、バッススの横にいた造命種――ヘルメットに12番と書かれた銀髪の少女が歩み出た。


「はい。工兵のものと、戦車が装備していた爆薬で、130kgほど集まりました」


「そんな量は必要ない。床材を吹き飛ばして、一時的に使用不能にするだけでいい。持っていくのは予備を含めて30kgほどでいいだろう」


 12番に缶を渡したノインは、右手を挙げて指を回す。

 ここに集めろというハンドサインだ。


 並んでいた造命種たちが動きはじめ、手早く爆薬を集積した。


「アルファ、ココアとバタークッキーなら任務が終わった後に用意してあげるから、今はこっちに来なさい」


「はーい!」


「ノイン閣下、6キロ缶を6つ持ちました。信管はいくつ持っていきます?」


「20もあればいいだろう。1つあたり3つは使いたい。20番が持っていけ。覚えやすいし、お前はマメだからな」


「20ですか。そんなに厳重にする必要が?」


「不運と不幸は寂しがり屋だ。甘い顔をするとすぐ近寄ってくるぞ」


「なるほど」


「爆薬缶は6から12番が持て。残りの者はトラックでパワーアーマーの用意だ」


「「了解しました!」」


 10名前後の造命種が通りに止まっていたトラックに駆け寄った。


 トラックは帝国軍が正式採用している3トン級の倍の6トンタイプだ。トラックは荷台にプレハブ小屋のようなものを乗せている。


< ガシャン! >


 造命種(シャッフェン)の少女がプレハブ小屋の荷台を開けると、片側に人形のようなものが並んでいた。いや、人形にしてはあまりにも物騒過ぎる。


 それが着ているのはフリルの付いているドレスではなく、装甲板と弾帯だ。


 同じような動力甲冑(パワーアーマー)ならライカンが既に使っている。


 しかし、荷台に並ぶ甲冑はそれよりも高度に洗練されていた。


 ライカンが使うアイアンペルトは、分厚い鋼板が動力のついた骨組みに支えられたもので、シャフトや関節は基本露出している。


 一方、荷台に座る巨躯は、継ぎ目の少ない重厚な装甲によって隙間なく覆われており、内部の駆動系を完全に保護していた。


 分厚い肩甲が回り込むように胸を覆い、腰の支持機構はゴムで覆われて、弾帯が垂れ下がっている。


 アイアンペルトでも弱点となる膝は、太腿から伸びる装甲が脛のパーツと一緒になって可動域を保ちながら保護していた。


 バイザーの上がった兜の下には何も収まっていない。

 鋼鉄の巨兵たちは、自らを身に(まと)う主たちを静かに待っていた。


「偶数番、着用始めます」


「了解、奇数番は着用を補助せよ」


 造命種たちは着るものと手伝うもの、二手に分かれてパワーアーマーの着用を始めた。まずヘルメットを取り外し、肩甲を回し開けて胸の装甲板を前に倒す。


 すると装甲板と一緒に腰の駆動部がスライドして足を入れる二つの穴がでてくる。


 着用する造命種は介助人に支えられて足を片方ずついれ、装甲板を元の位置に戻してもらう。あとは開けた方法を逆に行い、ヘルメットを被れば着用は終了だ。


『動力甲冑、着用完了。エーテル機関を始動します』


 機関を指導すると、アーマーの背部にあるユニットが蒼色の排気炎を上げて駆動を始めた。蒼色の陽炎を背負いつつ、彼女たちは立ち上がった。


 爆薬輸送の後始末をしていたバッススは、パワーアーマーが立ち上がる様子を見て、口笛を吹いた。


「こりゃえらいもんがでてきたなぁ」


「少々油っぽいがな。昔のアダマン甲冑のほうが強いのは間違いないんだが、何ぶん数がないし、穴だらけにするわけにもいかん。ついでに例の試験もすませよう」


 ノインの言葉に頷きながら、アーマーを纏った造命種たちはトラックの奥から何かを引っ張り出した。


 一見すれば、ただの無骨な鋼鉄製の長方形コンテナだ。側面には黄色い塗料で危険物を示す斜線と、管理番号が白文字で描かれていた。


「目視と指差しで兵器の状態を確認せよ」


「了解、確認します」


 しかし、彼女たちが両端のロックを外し、バコンと頑丈な上蓋を跳ね上げると、箱の構造が一変した。


 中に収まっていたのは、斜め上に傾斜した金属製のガイドレールと、そこにズラリと装填されたビール瓶大のロケット弾だ。


 そこに複雑な駆動パーツなど存在しない。


 鋼鉄のただの枠とレール。だがそれ故に、泥にまみれようが、水の中に叩き落とそうが、確実に火を噴くであろう構造をしていた。


「動作正常。異常なし」


「了解。一人一基で携行せよ」


 造命種の一人が取っ手を掴み、重い箱を肩に担ぎ上げた。人間の歩兵なら数人で運ぶ発射機を、帝国の動力甲冑はいとも容易く持ち運ぶ。


 その様子をみて、ノインは古い格言を思い出した。



「ハンマーを持つ者には、すべての問題が釘に見えるらしい」


「んなら、爆薬を持つ者には、何に見える?」


「――簡単だ。全ての問題が『解決済み』に見えるのさ」





史実だと無誘導ロケット弾の実験は1930年代に盛んだったので、あり得なくはないんだけど……当時としては重砲の精密射撃のほうが強いと思われてたんで、異端なのは間違いないです。


愛国連隊の兵器開発は出たとこ勝負で、なんらかの明確なドクトリンをもとにプロジェクト化されてる訳じゃないのが、まだ救いですなぁ…

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