街道上の怪物
1936年 4月22日 22:10
フロレンヌの西で発生した偶発的な戦闘は、その規模をさらに増していた。
ベリエ側の戦力は、重戦車一両。軽戦車をベースにした対戦車自走砲が3両。
歩兵は負傷して動けなくなった者が8名。
フランク側の戦力は、75mm騎兵砲が7門。砲を失い、歩兵になったものが18名。
一方の帝国軍は、20mm機関砲を搭載したペッカードが1両、37mm砲搭載のラスプが5両。75mm短砲身を装備したベグライターが2両。合計で戦車8両。
ハーフトラックは6両で、どれも装甲化された機銃を搭載したもの。歩兵は一両あたり10名と2名(ドライバーと機銃手)が乗り込んでおり、機械化歩兵は60名いた。
戦力的には圧倒的に帝国兵が優勢だ。
しかし、指揮統制の面ではベリエに分があった。
「メリナ、先頭車両を狙え!」
「了解!」
街道上に鎮座し、西を向いたティーゲルの主砲が吼える。
榴弾は先頭の装甲車の前部に命中。無数の破片と共に蒼色の猛火を放った。
ハーフトラックは力なく牧草地の上で止まった。
後部デッキが開くも、そこから降りる兵士の姿はなかった。
ここにおいて、敵の機械化歩兵は移動を止め、その場で下車を始める。
彼らは敢えて車体の前面をティーゲルに向けた。
「教本通りの動きだな。車体を盾にしてティーゲルの機銃を防ぐつもりだ」
再び放たれた榴弾が2両目のハーフトラックを粉砕する。
が、残りの4両は歩兵の展開に成功した。
牧草地に伏せた機械化歩兵は、対戦車銃を装備している。
車体の左右に展開した彼らは、ティーゲルのキューポラやペリスコープを狙って猛射を仕掛けてきた。
ドライバー席のフリンは、バイザーを下げて前面の窓を封鎖する。
窓を覆うバイザーの厚みはざっと6センチある。
ラスプの主砲でも撃ち抜けない厚みだが、音と衝撃は伝わってくる。
< クワンッ! カンッ! >
「兄ちゃん! めっちゃ撃たれてるよ!」
「落ち着け。ただの嫌がらせだ。ティーゲルの装甲なら、ベグライターの主砲でも貫通されることはない」
「主砲や機銃は壊されちゃうけどね。どうするの?」
「マルトー、エーテル弾を装填!」
「はいっ!」
20kgの砲弾をいくつも担ぎ上げ、汗だくになったマルトーだったが、文句ひとつ言わずにバスケットの底から砲弾を引き上げた。
「装填完了しました!」
「メリナ。敵の真ん中を狙え。ただし――《《敵に当たらないように》》」
「地面を狙えってこと……? わかった!」
メリナがハンドルを上下左右に回して狙いを定めると、カリウスは車長席を降りて砲尾に手をかけた。
「天蓋に輝く猛威をもって、我、真なる暁もたらさん――轟なる暁天」
カリウスが統制を完了すると、砲尾に青い光が灯る。
振り返っていたメリナはそれを確認すると、さっと照準器を覗き込んだ。
「……撃ちます!」
< パウッ!! >
主砲から放たれた閃光は、機械化歩兵が潜む牧草地のど真ん中に落ちた。
刹那、轟音と地面に太陽が落ちたかのような銀色の閃光が周囲を灼く。
闇に身を潜めていた歩兵たちは、声すら出せずに昏倒した。
(ティーゲルの主砲弾の容量で撃つと、単なるフラッシュバンじゃすまないな)
歩兵からの射撃は完全に止んでいる。
(闇夜に慣れた目で閃光を浴びたんだ。しばらく動けないだろう。――よし)
「徹甲弾装填。今のうちにベグライターを片付ける!」
「了解!」
ベグライターは失神した歩兵を踏みつけるのを恐れ、ハーフトラックの間で停止している。撃つなら今しかないだろう。
メリナは2両のベグライターのうち、手前に照準を重ねる。灰色の塗装の中戦車は、フランクの陣地に機銃と榴弾を撃ち込んでいる。
このまま自由にさせておけば、騎兵砲チームの全滅まで、そう時間はかからない。
「そこだっ!」
主砲がうなり、撃ち出された徹甲弾がベグライターの車体に突き刺さる。
徹甲弾は車体の装甲板を叩き割り、幾何学的に整っていた戦車のシルエットが、ハサミでも入れたかのように奇妙に欠けた。
奥のベグライターは破壊された僚車の影に滑り込むように入り込んだ。
「残骸を盾にするつもりか。フリン、ティーゲルをゆっくり前に」
「了解だよ、兄ちゃん!」
「次弾装填、徹甲!」
「はい!」
ティーゲルはゆっくりと前進し、隠れた敵を撃てる位置まで移動する。
マルトーが徹甲弾を装填すると、メリナは即応して射撃を加えた。徹甲弾は残骸から半身を出していたベグライター前面装甲に突き刺さり、沈黙させた。
「よし! 残りはどうなってる!?」
「ウィラーたちがやっつけたみたい。見て!」
「――クソッ……結構やられたな」
大麦畑に視線を向けると、侵入してきた帝国の戦車隊は完全に壊滅していた。
牧草地から道路を横切って畑に侵入した6両の戦車は、フランクの騎兵砲と、T-13に搭載された47mm砲の十字砲火を浴びたのだ。
しかし、こちら側も無事では済まなかった。
対戦車砲班のT-13は機関砲を浴び、車体から防盾まで穴だらけになっている。
フランクの騎兵砲チームも、被害は甚大だ。
大半が戦車に踏みつけられるか榴弾を食らって破壊され、残った砲も廃棄のためにテルミットで砲尾を焼き切る作業が始まっていた。
「あ~あ……勿体ないなぁ」
「鹵獲を防ぐためにはしょうがないよ。これで彼らは砲兵から騎兵に転向だな。砲を失った彼らは、西に向かって撤退するはずだ」
カリウスの言うとおり、砲を廃棄したフランク騎兵はライフルグレネードで帝国軍の機械化歩兵を牽制しつつ、西へ後退を始めた。
砲を失ったが、50名近くのセントール騎兵はかなりの精鋭と見えた。
手酷い打撃を受けつつも、潰走していない。
フランク騎兵は互いを援護し、整然と移動を始めていた。
「僕らも西へ抜けよう。ウィラー、そちらの状況は? 手は足りてるか?」
『救助の要なし。4号車は全員戦死しました』
「……わかった。中隊長車はこのまま西を目指す。ついてこれるか?」
『はい。お供します』
「フリン、移動を再開するぞ」
「うん、わかった!」
ティーゲルのエーテル機関が高鳴り、速度を上げる。
牧草地で気絶していた帝国の歩兵は次第に意識を取り戻し始めたが、悠々と街路を進むティーゲルを見送るしか無かった。
もはや戦車もなく、銃で狙うには遠すぎた。
ティーゲルは深い闇にそのシルエットを溶かしていく。
「クソッ、なんて怪物だ……!」
帝国兵の怨嗟を背に、カリウスたちはメース川の鉄橋に向かっていった。
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歩兵との砲戦を避け、砲を廃棄したかぁ…
帝国の被害もヒドイけど、フランク側もかなりの火力を失ってしまった




