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扉を閉ざした理由

 痛打を受けていた帝国軍の機械化歩兵が動き出した。

 一方で、それを待ち受けるガルムの方も(かんば)しい様子ではなかった。


 薬局で防衛の指揮を取るガルムは、スカーと共に部隊の状況把握に努めていた。


「ハザール、残弾の状況はどうなってる?」


「よくねぇな。ふたつの軽機は一挺あたりマガジンが4つだ」


「かー! いくらなんでもビンボーすぎだろ」


 やれやれと言った様子でスカー(傷あり)が息を払った。


「そうなると、帝国軍からふんだくった機銃の弾薬箱は、残り2箱だから……」


「軽機が240発。機銃が600発か。あと一回戦えるかどうかですなぁ」


 ハザールがまるで他人事のように言う。

 パワーアーマーの関節から不満げな音を出したガルムは、さらに彼に問うた。


「小銃の方はどうだ? どうせ似たようなもんだろうが」


「クリップは一人当たり3つか4つです。つまり一人当たり15発前後ですわ」


「よし、射撃禁止!」


「バカ。それでどうやって戦うんだい」


「噛みつけ! 殴れ!」


「アンタだけでやっとくれ」


「そうはいっても姉御……遅かれ早かれ、剣で戦う羽目になりますぜ」


 薬局で指揮を執るガルムを悩ませていたのは、弾薬不足だった。

 各隊員の残弾は1割かそこらであり、まさに危機的な欠乏状態に陥っていた。


「ベリエには各戸に弾薬と医薬品の備蓄があるはずだろ? ひとっ走りやって、弾を集めてきたらどうだい?」


スカー(傷あり)、それは既にやった。備蓄があるはずなんだが……」


「各家庭にあった防衛物資が別の場所に移されてます。こいつを見てください」


「なんだい、この紙っきれは……はぁ?」


 スカーが素っ頓狂(すっとんきょう)な声を上げる。

 だが、紙片には彼女がそうするのも無理からぬ内容が書かれていた。


ーーーーーー

ベリエ市民の皆様へ


私、司祭の意向により、各ご家庭の防衛物資および弾薬を回収し、教会にて一括管理しております。


争いは更なる破壊を生むのみです。抵抗のための力を収め、防衛を解くことこそが、この街を過酷な戦火から遠ざけ、人々の尊い命と平和を守る唯一の道なのです。


どうか神のご加護が皆様と共にありますように。

ーーーーー


 優雅な曲線を描く丁寧な筆致でもって、わかりやすく書かれた文章ではある。

 しかし、文字は読めても意味は実に理解し難いものだった。


 白翼教の司祭が各家庭の弾薬を回収し、教会に隠した。

 正気を疑うような仕打ちに、スカー(傷あり)は目を白黒させていた。


「教会に閉じこもった連中が避難を拒んでたって話を聞いてたけど……聞く耳を持たなかったのは、避難を勧めにきたのが異種だからじゃなくって……」


「そうだ。これが理由だ。俺たちがさっさと撤退するように仕向けたんだ」


「何考えてるんだか。ベリエの指揮官にバレたら絞首刑もんじゃないか」


「どのみち帝国が占領するなら大事にならん。したたかな奴だよ」


「はぁ……。アンタはともかく、カリウスの坊っちゃんじゃ、裏切り者を吊るすってことはできなさそうだし……なるべくしてなったわけだ」


「まっ、そういうことだな!」


「偉そうに言ってんじゃないよ。本来なら先任のアンタが監督すべきことだよ」


「なっちまったもんは仕方ねぇ。これからどうするかを考えんとなー」


 今から教会の扉をぶち破って弾薬を回収したとしても、戦いには間に合わない。


 ガルムが薬局のカウンターに寄りかかると、パワーアーマーの重さで木がきしみ声を上げた。ガルムは耳を伏せ、腕を組んで喉の奥でうなる。


「うーむ……撤退の段取りを進めよう。手持ちの弾薬は巣穴道(バロウズ)でも必要になる。弾を節約して、バリケードで足止めする」


「そんなところだろうね。手当たり次第に窓や扉の前にピアノや本棚を置いてやれば、しばらくは時間が稼げるはずだよ。パワーアーマーの馬力なら楽勝さ」


「それと、壁に開けたラットホールも塞いじまおう。外側から始めて、巣穴道に向かいながら作業を進める。取り残されるものがでないようにしないとな」


「そんなら、俺とアビーは対戦車班を回収しようか?」


「頼むハザール。車両の連中が孤立してる。陣地の沈黙してる連中も心配だ」


「姉御はどうするんで?」


「あたしは障害を構築して回るよ。北側のアパートが手薄だったからね」


「で、俺は薬局で引き続き状況をまとめて指示かぁ? スカー(傷あり)、俺とお前の役目、逆にしねぇか?」


「駄目。アンタのことだ。勝手に乱闘始めて周りも巻き込むに違いないよ」


「信用ねぇなぁ。」


「んじゃガルム軍曹、いってきます」


「よし、動くか!」


「アンタは動かなくていいからね。いいかい、絶対動くんじゃないよ」


 ガルムは傷ありに叱責され、きゅーんと情けなく鼻を鳴らした。

 だが、その時だった。

 薬局の扉を跳ね飛ばすように開け、一人の兵士が飛び込んできた。


 迷彩ポンチョを頭から被ったその兵士は、息も絶え絶えと言う様子だったが、何とか伝えたい内容を肺の奥から絞り出した。


「はぁ……はぁ……二階から、帝国兵……入って来ました!」


「何? どこの二階からだ?」


「北側の……民家、三階建てのやつ……です!」


スカー(傷あり)、手勢を連れて火消しに言ってくれ。こいつも使っていい」


 ガルムは薬局に保管していた予備の機銃をスカーに手渡した。

 帝国の戦車から奪ったMG34。

 多数の穴が穿孔(せんこう)された空冷ジャケットが特徴的な汎用機関銃だ。


「……で、よいしょっと。弾は箱ごと300発を持っていけ。ベルトあたり50発だが、ヒマだったんで内職して100発につなげてある。ジャムには気をつけろよ」


「ありがたいね。ちょっとばかし脅かして追っ払ってくる」


「頼んだ。それと兵を3人つけよう。お前、来たばかりで悪いが彼女を案内しろ」


「……は、はい!」


「全員、剣とグレネードをもっていけ。2個づつだ。きっと白兵戦になるぞ」


「はっ!!」


 ガルムに指差された狼人(ライカン)は、グレネードの柄を装甲の上を通る腰のベルトに差し、鞘に収められた短剣を肩の前に()げた。


 彼らが装備する短剣は、ベリエの正式装備ではない。

 個人個人が職人から購入したか、作ったかしたものだ。


 ライカンが使う短剣は牙剣(ナーヴェ)といわれるもので、先端は筆の先のような細まり方をして、後ろに向かってきつい傾斜がついている。


 この重厚で鋭い刃は、しゃくりあげるように突くことで自然と装甲の隙間に入る。


 ライカンたちは古来より自分たちより装備の充実した相手――すなわち、鎧を着た人間の兵士を相手にしてきた。


 牙剣は、その長い歴史に基づいた工夫(くふう)の賜物だ。


 狭小地での近接戦闘において、銃身の長い小銃を構えた帝国兵に対し、彼らの圧倒的な腕力と牙剣(ナーヴェ)の組み合わせは間違いなく脅威となるだろう。


「聞きな。敵の規模は不明だけど、こっちより多いのは間違いない。まともにぶつかったら勝負にならない……だから、今回はいつも以上に意地汚く行くよ」


「わっ、本気の姉御だ」

「怖ぇ怖ぇ……」


「茶化すんじゃないよ。敵が足場を固める前に叩き出す! 続きな!」


 スカーはMG34を小脇に抱え直すと、疾風のように薬局を飛び出していった。






帝国兵の戦力が1~2分隊なら、少なくとも20人以上。

スカー+3人の4人でいけるか…?

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