第四十九章 オカン、舞い上がる
サーブレンダー国の名物料理。
「実に楽しかったぞ。我が国でも参考にさせてもらうことにしょう」
「面白い経験をさせてもらった。今度はお忍びでくるつもりだ」
一泊した後、ライナスとクレアは帰国の途に就くことに。
両国の騎士団も帰国の準備をしている。
「また来てや。美味しいもんはまだまだあるさかい、歓迎するで」
「そうか、ならば今度来るときには我が国の名物である米料理をお土産に持って来よう」
ライナスの口から出た“米”のフレーズをオカンの耳は聞き逃さなかった。
「米やて」
「米」
真輔も顔を向けた。
「あんたの国に米があるんか?」
「ある」
この世界にも米がある、大喜びそうになるオカン。日本人にとって米とはそれ程の物。日本にいるときは毎日食べていたのに、異世界に来てからは一粒も食べていない。
「どんな形の米や」
世界には色んな種類の米があり、それぞれの米に合った調理法がある。
日本人が毎日食べている丸みを帯びた楕円形のジャポニカ種。粒が細長いインディカ種。粒が幅広くて大粒のジャバニカ種など。
ジャポニカ種に合った料理はご飯やおにぎりやお寿司。インディカ種に合った料理はカレーや炒飯。ジャバニカ種に合った料理はパエリアやリゾット。
サーブレンダー国で栽培されている米の種類はいかに。
「楕円形で丸みを帯びた形だ」
ジャポニカ種だ。オカンの目が輝く、真輔も同じ目をしていた。やはり日本人、米が食べたいのだ。
「お米をクロゴネンドに輸入することは可能ですか」
恐る恐る、それでいて期待を込めて真輔は尋ねた。
「ああ、可能だ。米を輸入して欲しいのか」
頷く真輔、激しく頷くオカン。
「解った。国に帰るなり、米を届けよう」
米がクロゴネンドに来る。
「米よ米米米米米よ~、ご飯が食えるで~」
オカンは舞い上がった。
「ご飯が食べられるのか」
舞い上がることは無かったが、真輔も喜んでいた。
馬に乗るライナスとクレア。続いてサーブレンダー国とゾマアスネ女王国の騎士団も馬に乗る。
両国の騎士たちは吉本新喜劇・異世界劇場などで沢山お土産を購入していた。
「「「「「お気を付けてお帰りください」」」」」」
真輔、チェルシーとデイモンとエミとハンナ、フレッドや吉本新喜劇・異世界劇場の芸人たち、クロゴネンドの民たちが見送りに来ていた。
オカンは米が届くことをまだ喜んでいる、見送りはしているけど、頭の中は米で一杯。
二国のトップがクロゴネンドに訪れている、魔族にとっては絶好のチャンス。
なので滞在中、クロゴネンドの自警団とサーブレンダー国とゾマアスネ女王国の騎士団は警戒していたのだが、魔族は襲撃は無く、何も異変は起こらなかった。
魔族は襲撃して来なかった、絶好のチャンスだったのにも関わらず。
自警団と騎士団は拍子抜け。
何もなければそれでいいかもしれないが、魔族が人間世界に侵入しているのだ。
人間世界に潜入した魔族はライナスとクレア来訪の情報は伝えていなかったのだろうか? 動く気配すら見せていない。
一体、潜入した魔族は何を考えているのだろうか解らないのが不気味……。
☆
帝都にある騎士団本部。
「町や村から人が消えているだと?」
部下から報告を受けたバーナード。
「はい、辺境にあるいくつかの町や村から人が姿を消しており、騎士団へ家族から捜索依頼が来ているのです」
報告書を受け取り、一通り読む。
「行方不明になったのは野良仕事をしていたり、買い物に行ったり、散歩に出かけた人たちか……。目撃者も痕跡もなし」
報告書によれば、結構な数の人が消えている。
「魔族でしょうか」
「だろうな、誰一人として目撃者を出さず、痕跡すら残さずに人を浚うなんて真似は人間には出来ない」
それに行方不明が起こっている辺境の町や村は結界が張られていない。魔族が安易に入り込むことが出来る。
「これが潜入している魔族の仕業なんでしょうか?」
「……」
情報を頭の中で整理するバーナード。
今も潜入していると思しき魔族の調査は行われているが、全く行動を起こさない、素振りすら見せていない。
「……おそらくは違う」
それがバーナードの判断。
「もし潜入している魔族の仕業ならば、もっと前に行方不明事件が起きていたはず。ライナス王の情報にあった潜入者と別口だろう」
ライナス王の情報にあった魔族の潜入者は動かないから、尻尾を掴めない。誘拐なんて行動を起こせばバーナード率いる騎士団ならば確実に尻尾を掴んでいるはず、影成も見つけているだろう。
それはそれで厄介な相手だが。
「各市町村に魔族に警戒せよと注意喚起。我々も動くぞ」
民を護る騎士団長は、魔族が起こす行方不明事件は見過ごすことは出来ない。
はいと答えた騎士たちはすぐに行動を開始。
☆
ラティストアン帝国の辺境にある村、エキフフ。村の半分が畑、農業が主な産業。
鍬を振り下ろし、民は土を耕す。
畑を耕している民たち、雑草をむしっている民たち、エキフフでは牧歌的な情景の中で野良仕事が行われていた。
とても平和な光景に見える。
オカンの大活躍で魔族の出現が減ったことで仕事がはかどる。
エキフフには魔王ニーンジグスが討伐されたことも大魔王ディオウマの存在も伝えられてはいない。
今日も明日も変わらない日常が続くと、エキフフの民たちは思っていた……。
「ふー、そろそろ、一服するか」
一息ついて袖で汗を拭い、民の一人が休憩しようとした時、
「?」
首を傾げて、辺りを見回した。
「どうした?」
様子に気が付いた隣の畑の民が聞いてきた。
「何か音が聞こえてきたような気がして」
耳を澄ませる。
「音?」
隣の畑の民も耳を澄ませてみる。
♪~、確かに音が聞こえてきていた。
「本当に聞こえてくるぞ、何だこの不気味な音は」
聞いたことのない不気味な音がエキフフ全域に響き渡る。
土の上に倒れる鍬。大切な野良仕事の道具を手放した民。
一人だけではない、外で作業をしていた民たちは手入れも欠かさず大切にしていた鍬や鎌など道具を捨て、ふらふらと歩き出す、まるで夢遊病者のように……。
行方不明時間。




