第四十七章 オカン、会議の後に爆睡する
大魔王ディオウマの存在が明らかになった会議。
「そうか……、魔王は司令官の一人に過ぎなかったのか……」
バーナードから、魔王ニーンジグス討伐の報告を受けたジョセフは静かに言った。動揺はしていない。
ただてさえ、魔王を倒せば終わると思われていた魔族との戦い。
魔王を倒ししたものの、魔族のリーダーと思われていた魔王は一司令官に過ぎず。上位の存在、大魔王ディオウマの存在が明らかになり、魔族との戦いはまだまだ続くこととなった。
こんな状況下で皇帝が動揺を見せれば、集まった人たちにどれほどのショックを与えていることだろうか。
やがてショックは国民たちの間にも広がって行くことになる。
主君が動揺を見せてはいけない、主君は強くならなくてはならない。
シンシアも動揺することも無く、しっかりとした態度を示す。お陰で皇帝の間に集まった貴族の代表者たちとイーサンは大きく動揺していない。
バーナード、オカンと真輔は最初から動揺していない。そもそも、オカンは動揺なんかしたことなど無し、真輔はオカンの子供。
バーナードは騎士団長。
「ロアゴンの領主のセニも大魔王ディオウマの存在は知りませんてした」
セニは魔王ニーンジグスの後ろ盾を失ったが、今もロアゴンの領主を続けている。
連合軍が引き上げる際、立ち寄ったロアゴンでバーナードがセニに大魔王ディオウマを話したところ、セニは驚きを見せる。
あくまで魔族のトップは魔王ニーンジグスと思っていた様子。
「その話は信じられるのかね」
貴族たちの代表者の一人が質問。これまで魔族は戦ってきた相手、簡単に信じられるものではないのが普通。
「その気持ちは解りますが、私が話した印象では嘘を吐いているようには見えませんでした。またセニは魔族でありながら、戦って領民を無駄に死なせるよりも降伏を選択した人物です。魔族とは言え、命を大切にする相手は信じてよいかと」
それがバーナードの判断。
「バーナードは信頼できる人物だ。その彼がそう判断したのだ。それでよかろう」
ライナスにクレアは頷いて同意。
「ウチも信じていいと思うで」
オカンの人を見る目は確か。ただ人の能力と言うよりかは野生動物の勘に近い。
皆、魔王ニーンジグス討伐の前に比べればテンションは落ちていると言えば落ちてはいるが、落ちすぎてはいない。
魔王ニーンジグスは魔王軍の一司令官でしかなく、更なる強敵大魔王ディオウマの存在の発覚。大魔王ディオウマの先兵、戦男爵ノードラテンプの登場。
本来ならばもっと、テンションは落ちていても不思議ではない状況であった。
ところがオカンがあっさりと大魔王ディオウマの先兵、戦男爵ノードラテンプを倒してしまった。
初手で大魔王ディオウマに仕える爵位持ちを倒した功績は大きい。オカンは絶望を希望に塗り替えてしまったのである。
魔王に致命傷を与え、大魔王の先兵を倒したのは共にオカン。この世界の人たちはオカンが来て本当によかったとしか言えない。
「大魔王だが、大大魔王だが知らないが、要するに敵を倒せばいいってことだ」
「そうだな、やること変わらない」
クレアに今度はライナスが同意を示す。
満場一致でその通り。襲い掛かって来る敵がいるならば、倒してしまえばいい。倒さなければ倒されるのはこちら側になる。
めげることなく、人間はこれからも魔族と戦うことを決定。
「今回の件はいい経験になった」
一旦、間を開けるライナス。
「サーブレンダー国はラティストアン帝国と同盟を結ぶことにする」
思い付きではなく、考えての判断。
「なら、ゾマアスネ女王国もラティストアン帝国と同盟を結ぶ」
クレアも考えての判断。
誰も反対する者はおらず、おおと声が上がった。
今回の魔族との戦いは三国の絆を高めた。同盟を結ぶことで国交や交流や交易が生まれ、ラティストアン帝国とサーブレンダー国とゾマアスネ女王国の国力は増す。
対魔族の連携国家の誕生。これで人間側の戦力が一気に向上することになるだろう。
「残された問題になるのは潜入者だな」
ラティストアン帝国に人間に化けた魔族が潜入している。この情報を掴んだのはサーブレンダー国の影成、日本で言うところの忍者。
「すいません、ライナス様から情報を伝えられて以来、私たちも侵入者の調査しているのですが未だに尻尾を捕まえていないのです」
謝罪するバーナード。
「潜入した魔族は何も行動を起こしていないのです、掴める尻尾も掴めないのも致し方ありません」
シンシアはバーナードを擁護したわけではない。幾ら優秀でも動ない何もしない相手を見つけ出すのは困難。
ライナスもクレアもイーサンもバーナードの実力を知っているので非難することはしない。
実際、連合軍が魔族領に攻め込んだ時も魔王軍には何の情報ももたらされていなかった。
帝都でも誰も襲われた様子はない。
影成の情報収集能力は本物。ラティストアン帝国に人間に化けた魔族が潜入していることは間違いない。
何も悪いことをしないのならそれていいじゃないかと思うかもしれないが、相手は魔族、ずっと人間たちと戦っている。
何度も攻め込んできた敵、ここで人間世界の侵略を諦めたとは思えない。
「何も行動も起こさないのが不気味ではあるな」
ジョセフが呟く、シンシアも頷く。
真正面から攻めてくる敵は恐ろしいが、何もせずに潜んでいる敵は不気味で恐ろしい。
「これからも警戒を怠ることは致しません」
バーナードの決意。潜んでいる魔族が何を仕掛けてきても返り討ちに出来るように騎士たちも身を引き締める。
会議が終わると、オカンは大通りにある宿屋のベットの上に寝っ転がり、爆睡へ突入。
真輔もベットに入って、すぐに眠りについた。
魔王城への遠征から帰ってきた親子。久しぶりのふかふかのベットの上で思いっきり体を伸ばして寝ることが出来た。
旅の疲れもあり、オカンも真輔も深い眠りについている。
無防備に見えても帝都には結界が張ってあるし、何より爆睡しているとはいえでもオカンに襲い掛かると言う事は飢えたグリズリーに抱き付くよりも危険な行為なのだ。
ラティストアン帝国、サーブレンダー国、ゾマアスネ女王国同盟。




