第四十章 オカンとお好み焼きとたこ焼きと涙
ラティストアン帝国とアチナゴーン共和国仮同盟。
城内でシンシアと暫定の代表者が仮の条約を結ぶ。
羊皮紙にサインした後、立ち上がって二人は固く握手する。正式な友好条約は両国の情勢が落ち着いてから。
仮であってもラティストアン帝国とアチナゴーン共和国はこれで同盟関係となり、対魔族において協力し合うことになった。
バーナード率いる騎士団とアチナゴーン共和国の兵士たちが二人の護衛についていたが、儀礼的なもので戦闘が起こることは無い。
戦闘が起こらないなら、それでよし。
街の改修を始めた作業員たち。ただ改修するのではない、アチナゴーン共和国の民に手伝わせる。
無理強いではなく、本人の希望で。
これまで民たちは大通りに立ち並ぶ悪趣味な建物や下町のおんぼろ建物しか手がけたことが無かった。
民に手伝わせることで技術を身に着けさせ、作業員たちがクロゴネンドに帰った後も、自分たちで出来るように育てるのが目的。
「沢山あるで、腹いっぱい食べてってや」
オカンは作業員が持ってきてくれた食材を使ってお好み焼きとたこ焼きをアチナゴーン共和国の民に振る舞う。真輔はそのお手伝い。ここでも帽子を目深に被って顔をよく見えないようにしている。
お好み焼きの鉄板とたこ焼き用鉄板は作業員が持ってきてくれた。
「キャベツがシャキシャキしていて、甘めのソースと相性バッチリだわ」
「豚肉がボリューム感を与えているぞ」
「この球体の食べ物、外はカリカリ、中はふんわりとろとろ」
「中のコリコリした具は何だろう?」
「こんなに美味しいものがこの世にあったなんて」
涙を流して感動さえしている民もいる。これまで食べれるだけましな物しか食べたことが無かった人にお好み焼きとたこ焼きは衝撃の味。
「いきなり、美味しいもの食べてお腹がびっくりしないだろうか……」
「そんなことあるかいな、ウチの愛情がたっぷり入っとんやで」
自慢げに言う、妙に説得力があった。実際、これまでオカンの料理を食べてお腹を壊した人は一人はいない。
「私にこの料理の作り方を教えてください」
「俺にも教えてくれ」
お好み焼きとたこ焼きに感激したアチナゴーン共和国の民たちはオカンに作り方を教えて欲しいと言ってきた。
「ええでちゃんと教えたる。他にもいろんな料理も教えたるで」
オカンは二つ返事で了承。お好み焼きとたこ焼き以外の得意料理を伝授することに。
こうしてアチナゴーン共和国にもオカンの料理が広まって行く。
鍛冶屋が大変になるね」
お好み焼きとたこ焼きが広まれば鉄板の需要が増える。お好み焼きはフライパンでも焼けるが、たこ焼きは専用の鉄板が必要。
「道具屋筋があればええんやけど」
ゴタゴタも落ち着き一段落付いたので、シンシアはラティストアン帝国に帰ることとなった。オカンと真輔。バーナード率いる騎士団も一緒に。
兵士たちと民たちと作業員たちが見送りに来てくれた。
「あなたたちには感謝しています」
暫定の代表者が挨拶。
「こちらこそ」
シンシアが笑顔で返答。来た時とは真逆に、その表情はとても明るく晴れ晴れしたものであった。
見せかけではない笑顔のまま、馬車に乗る。
「オカンさん美味しい料理を沢山教えてくれて、ありがとうございます」
「美味しい料理はまだまだあるで、また教えに来るわ」
元気よく馬車に乗る。
帽子で顔を隠した真輔は軽く会釈してから、オカンの後に乗る。
シンシアとオカンと真輔を乗せた馬車が走り出し、護衛のバーナード率いる騎士団も馬に乗り出発。
「ほな、またな」
窓からオカンが手を振る。
兵士たちと民たちと作業員たちは馬車と騎士団が見えなくなるまで、その場から離れることなく手を振り続けていた。
異世界にも道具屋筋があれば便利なんだけど。




