第四十章 民主主義国家へ
民主主義国家への試金石。
アチナゴーン王国で王家や貴族たちがこれまで行ってきた圧政や横暴によって、平民たちの不満や怒りは溜まりに溜まっていた。
オカンの流した噂が蟻の一決となり、溜まりに溜まっていた不満と怒りを一気に決壊させたのである。
恐るべし、大阪のおばちゃん。
暫定の代表者が選ばれ、国名はアチナゴーン王国からアチナゴーン共和国に改められた。アチナゴーンを変えなかったのはあんな王の名前でも一応慣れ親しんだ名前だし、何よりすぐに新しい国名を思いつかなったから。
状況が落ち着き次第、選挙が行われて国家元首が決定する。
この国で初めて行われる真面な選挙で選ばれる代表。
国家運営に関してはラティストアン帝国がアドバイスすることに。
ラティストアン帝国とアチナゴーン共和国は政略結婚ではなく、友好条約を結ぶこととなる。
アチナゴーン共和国の王都改め、首都で行われるコーディの裁判。
感情に左右されずに判決を出せるかどうかアチナゴーン共和国が本当に民主主義の国になれるかどうかの試金石。
ナダンコアがコーディの命を狙っているかもしれないので、ラティストアン帝国騎士団が裁判中は護衛に着いている。そこにバーナードの姿はない。
大通りから少し外れた場所にある喫茶店にオカンと真輔とバーナードはいた。
オカンはローストビーフのサンドイッチとハムのサンドイッチ、真輔はスモークサーモンのサンドイッチとソーセージサンドイッチ、バーナードはチーズのサンドイッチを摘まんでいた。
飲み物は三人とも紅茶。
サンドイッチを作ったのはオカン、真輔も手伝う。これまでは貴族しか食べることが許されなかった食べ物も、これからは誰でも食べることが出来るようになる。
「バーナードさんは首都にナダンコアは、もういないと考えているんですね」
「ええ、コーディの抹殺に失敗した時点で彼の口から、魔族との取引の情報が私たちに伝わるのは解っているでしょう。ならば、今更首都に残って口封じする意味は最早ありません」
なるほどと納得する真輔に、サンドイッチを食べるオカン。話を聞いているのかどうか不明。
「おそらく、既に首都からは脱出しているでしょう。体を紐のように細くすることが出来るのですから、アチナゴーン共和国のどこからでも逃げ出せます。ただ、万が一の場合もありますので護衛は付けておりますが」
本当は万が一の場合も無いと考えている。万が一の場合があればバーナードは今日を休日にしたりなんかしない。
また護衛に参加しなかったのは、騎士たちに経験を積ませる目的もある。
「いずれはナダンコアとは戦うことになるでしょう。その時までに倒し方を考えておかなければなりません」
魔族と戦っていればナダンコアと相まみえる時がやって来る。
「紐のようになるんか、おかしな奴やな」
「オカン、別のヒモのこと考えない?」
「物を縛ったりする長いやつやろ」
「解っいるんなら、いいよ」
「解っとるがな、そんなの」
まだ大きかったのにサンドイッチを一口で食べてしまう。
裁判においてコーディに下された判決は財産没収と四年の強制労働。強制労働の求刑は六年だったが、魔族との取引を素直に話したことと反省していることが考慮され、二年減刑された。
アチナゴーンで初めて民間で行われた裁判。平民たちの私怨による判決は無く、民主的に真面に行われた。
コーディもまた控訴することなく、刑罰を受け入れる。
反省は見せかけではなく、本心である証明。ただ、元からの笑ったように見える顔はそのままだったが。
警戒されていたナダンコアの襲撃も無く、バーナードの読み通りに首都にはいない可能性が高い。
「アチナゴーン共和国の民は乗り越えることが出来たんだね」
「ええ、そのようですね」
騎士から、裁判の一部始終の報告を受けた真輔とバーナード。
私怨を乗り越えたことでアチナゴーン共和国は民主主義国家の第一歩を踏み出したのだ。
独裁者を倒した者が、新たな独裁者になることは地球の歴史でもあったこと。
でもこれならば、その心配は少ないだろう。アチナゴーン共和国の未来は明るい。
「待ってたで~」
アチナゴーン共和国首都にやってきた一団を出迎えるオカン。
やってきたのはクロゴネンドの復興をしてくれた作業員たち。全員では無いが、三分の一ほどががやってきた。
「よう、来たぞ、オカン」
いかにも肉体労働者といった風体の男が代表して挨拶。クロゴネンドを復興させた腕を買われて呼ばれたのだ。
「まずは見たってや」
早速、オカンは作業員たちを大通りに案内。
「これはこれは聞くに勝るな」
「見てると、目がキンキンする」
キンキラキンに飾られた悪趣味な大通りを作業員たちは見回す。
「次はこっちや」
続いて案内したのはおんぼろな下町。
「これは酷いな」
「噂以上にアチナゴーンの貴族は悪質だったんだな」
大通りとのあんまりもの格差に作業員たちは、アチナゴーンの貴族は悪質を再認識。
一通り首都を見て回った作業員たち。
「これは腕が鳴るね」
「俺たちの腕の見せ所」
「やってやろうじゃないか」
作業員たちはやる気を漲らせる。
クロゴネンドは魔族に壊滅された町。アチナゴーン共和国は貴族に滅茶苦茶された街。
復興と改修の差はあれど、住みやすく暮らしやすくすることは同じ。やってやれないことは無い。
予算については問題なし、王族と貴族から没収した潤沢な資金がある。
元をたどれば、民から搾取されたもの、民のために使っても悪くはない。
コーディへの判決。




