第四十章 密室バーナード、尋問する
バーナードが中心の話。
「そんなことでクーデターを起こさせてのですか……」
オカンが流した噂が引き金となり、クーデターが起こったと聞いてバーナードは驚くしかなかった。
『地球でもネットやSNSの情報が革命を起こしたことあるから……』
例えばチュニジアで起こったジャスミン革命である。
警察の暴力に対する抗議運動がネットやSNSで拡散され、二十年以上続いた独裁政権を崩壊させた。
アラブの春はネットやSNSの情報が切っ掛けなって起こった革命。
オカンがそれを知っているわけではないのだが……。
大通りから少し外れた場所にある喫茶店でオカンと真輔とバーナードで会話。喫茶店と言っても貴族御用達。クーデターによって店員も客も居なくなった。紅茶はオカンが淹れたもの。
「デマの心算やったんやけど、ほんまに魔族とあのジャバ・ザ・ハットはつるんどったやな。瓢箪から駒、もしくは嘘から出た実やな」
日本の諺のことなんてバーナードには解らないが、大体の意味は察することはできた。
「チャドと同じく、カーティスとサイモンも魔族と関わっていたのか」
チャドは魔族に利用され魔物に変えられた、カーティスとサイモンは殺された。
裏切り者の末路はろくでもないなと、つくづく真輔はそう思った。
「本当にそうですね」
もし、シンシアとサイモンが結婚していたらと考えると、ゾッとする。魔族とどんなやり取りをしようとしていたのかまだ解らないが、悪意まみれなのは間違いなし。
「団長」
騎士が呼びに来た。
「私はこれで」
バーナードは喫茶店を出た。カーティスとサイモンたちが殺された以上、情報を聞くことが出来るのはコーディ一人だけ。
尋問は直接、バーナードが行う。
「ほな、また後でな」
帰りはオカンも真輔とバーナードと一緒。
アチナゴーン王国の城の倉庫。カーティスとサイモンのコレクションを保管しているだけあって、盗まれないように地下牢獄以上に頑丈に造られている。
急遽、棚を動かして窓を塞ぎ密室にした。外と繋がっているのは入り口のドア一つしか無いようにしておく、これならば紐のように伸ばすことの出来るナダンコアも易々と潜入は出来ないだろう。
窓を塞いだため、昼間でも暗い。明かりは壁のトーチホルダーと机に置かれたランタン。
バーナードとコーディは机に向かい合って座っている。
コーディは拘束されていなかった。出入口はバーナードの背後にある一つのみ。これでは逃げ出せない。
またコーディ自身、逃げ出そうとしていない。逃げ出したら、今度こそナダンコアに殺されてしまうので。
「魔族と結託して、何をやろうとしたのか話してくれますね」
「ハイ」
頷いたコーディのニヤニヤしたように見える特徴的な顔も心なしか陰っているように見える。
「シンシア様とサイモン様を結婚させ、ラティストアン帝国を乗っ取ろうとしていたのです。成功の暁にはカーティス様とサイモン様たちは魔族にしてもらえるのです。そんな契約をしたのです」
素直に話す、素直に話すしかない。バーナードとラティストアン帝国騎士団がナダンコアから護ってくれているのだから。
腐っていても死になくはないのだ。だから、知っていることは話す、生き残るために。
「魔族にしてもらえるだと?」
シンシアと結婚してラティストアン帝国を乗っ取る。それを聞いた途端、腹が立って斬り捨てたい衝動に駆られたが、意識を強く持って耐えきった。
ふと、憔悴しきったコーディを見ていたら、怒りの気持ちも薄れていく。
道を踏み外した人間の行先は、反省しない奴か反省する奴。
少なくとも、コーディは反省はしている。お芝居だとしても、それを見抜けないバーナードではない。
騎士たちもそのことは理解できた。
「ハイ、魔族になれば他の国が魔族に侵略されてもアチナゴーン王国だけは無事。むしろ、支配する側になれると、喜んでいたのです」
これが結界を張らなかった一番の理由。魔族になれば結界によって王都に入れなくなるので。
口に出さずに心底呆れるバーナード。チャドの時もそうだったが、魔族に人間と真っ当な取引をする概念はない。利用するだけの存在でしかないのだ。
「後、人間の寿命は短いのです、死んだら権力も財産も失ってしまうんです、だからカーティス様とサイモン様は魔族みたいに長い寿命と老いない体と強力な身体能力を欲しがったんです。だから、魔族と取引したんてです」
「お前もか?」
「――ハイ」
少し言い淀んだが、頷いた。権力と財力を手に入れた果てに、永遠の命と若さを欲するものなんだろうか。
「愚かな」
思わず口から言葉が出てしまう。
以前のコーディならば頭に血が上っていただろうが、今はバーナードの言葉が痛いほどに身に染みる。
愚かなことをしたことでカーティスとサイモンと貴族たちは魔族に殺されしまったのだ。コーディ自身も殺されかけた。
毒気が抜けてしまうのも頷ける。
「あの~、私はどうなるのです」
民衆に掴まりそうになった時、生存本能フル活用で逃げた。逃げ先でナダンコアに殺されかけた。
死になくない気持ちは今も変わらない。
「裁判にかけられるでしょう。その結果次第です」
アチナゴーン王国の平民たちの貴族に対する恨み辛みは深い。それだけのことを貴族はやってきたのだ。
ただ、平民たちは恨み辛みではなく、民主的な裁判をすると言っている。
「あなたは知っていることを正直に話した。そのことは民に話しておきます。それが裁判にどのような影響を与えるかは私には解りませんが」
それを聞いたコーディは頭を自然に下げる。コーディ自身、平民出身のバーナードに頭を下げたことが信じられなかったが、気が付いたら下げていた。
自らの罪を悔い改める人、悔い改めない人。




