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異世界オカン  作者: 三毛猫乃観魂


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第三十五章 望まぬ、結婚に向けて

 オカン、不在の帝都。

 結婚式はアチナゴーン王国の王都で行われる。これにはカーティスとサイモンのラティストアン帝国が格下だという意味が込められていた。

 アチナゴーン王国の王都では、今頃結婚式の準備が進められているはず。

 結婚式はカーティスとサイモンの趣味に合わせた、キンキラキンに飾り立てた悪趣味ものになる予定。

 その情報が伝わってくる度に帝都の民はますます表情が暗くなっていく。

 帝都の民がどんなにシンシアとサイモンの結婚が悪い夢であって欲しいと願っていても、結婚式が近づくにつれ、現実であると思い知らされる。

 これではまるで生贄である。でも帝都の民は口に出して言うことは出来ない。街の中をアチナゴーン王国の騎士が我が物顔で歩いているからだ。聞かれでもしたら、何をされるか解らない。


 配膳カートを止め、コンコンと使用人が皇帝の部屋のドアをノックする。

「お食事をお持ちいたしました」

「すまない、食欲が無いんだ、下げてくれないか」

「昨日も殆どお召し上がりになりませんでしたが……」

「心配かけてすまないな。だが、どうしても食欲が出てこないんだ」

「解りました」

 使用人は配膳カートを押しながら立ち去る。長年使えているからこそ、皇帝の気持ちはよく解る。

 幾ら人間の世界のためとはいえ、愛娘をあのような奴らに嫁がせる父親の心情はどれ程、辛くて苦しくて悲しいことか。

 このところ、罪悪感から皇帝は自室に引き籠っている。

 長年使えている使用人たちは皇帝の気持ちが解るため、掛ける言葉が思い浮かばない。

 使用人たちもシンシアがアチナゴーン王国に嫁ぐことが辛くて苦しくて悲しい。辛くても苦しくても悲しくても、何もできることがない。


「ラティストアン帝国の騎士団は我々に従ってもらうぞ。平民の騎士など、下っ端がお似合いだ」

「……」

 嘲笑うアドンにバーナードは耐えた。感情に任せた行動で両国の関係を壊してはいけない。

 アチナゴーン王国の騎士たちもラティストアン帝国の騎士たちを嘲笑っていた。

「アチナゴーン王国に向かう護衛は我々の騎士団だけで十分だ。お前たちは帝都で休んでいろ」

 偉そうな命令口調。

「待ってください、シンシア様の護衛は我々ラティストアン帝国騎士団で行いたい」

 騎士の一人がたまらず抗議したが、

「平民の騎士共に王都に入ってもらいたくないのだよ。身の程を弁えろ」

 明らかな挑発。手を出させてバーナード率いる騎士団を潰す口実にしたいのだ。

 潰した後はアチナゴーン王国の傀儡となる騎士団を作る。

 アドンの計画に気が付いているからこそ、バーナードは堪えた。自分一人の感情で手を出してしまったら、アドンの思う壺。

 バーナードだけならまだしも、騎士全員が路頭に迷わせてはならない。

「チッ」

 挑発に乗ってこなかったので、つまらなそうに舌打ち。

 団長が堪えている。その姿を目の当たりにしているからこそ、騎士たちも我慢することが出来た。

 もし、バーナードが居なかったら、ラティストアン帝国の騎士たちはアチナゴーン王国の騎士たちに殴り掛かっていただろう。


「本当にいいの? 何なら、僕が身代わりになってもいいよ。途中で逃げ出すけど」

 お祭りの時はシンシアと入れ替わっていた。女装するのは恥ずかしいが、そんなことを言っている場合ではない。

 オカンと寝食を共にしているだけあり、真輔の度胸は高く、身体能力は低くない。全力疾走で逃げ切れる自信は十二分にある。

 義理人情もオカン譲り。

 真輔の提案にシンシアは首を横に振った。

「そんなことしたら、ラティストアン帝国とアチナゴーン王国が戦争になってしまいます。魔族が攻めてくる最中(さなか)、人間同士が争っている場合じゃないんですよ」

 カーティスとサイモンの親子はメンツを潰されたと考えて戦争を仕掛けてくる。皇女であるからこそ他国の情報に明るい。サイモンとは婚約しているので尚更。

 どんなに嫌悪感MIXでも一国の皇女、人間の世界の未来のために逃げ出してはいけないのだ。

「金襴緞子の帯しめながら、花嫁御寮は何故泣くのだろ」

 思わず花嫁人形を口ずさんでしまう。

「何か、もの悲しい感じがする歌ですね」

 聞き終えたシンシアは、そう感想を述べた。

 真輔はオカンほど、常識の外にはいないので過激な行動は取らないが、モヤモヤ感は拭いきれない。

 オカンの姿が帝都に無いのも気になる。

『オカン、何かしでかさないだろうか……』

 変な予感がする。まさか、映画『卒業』のラストのようにシンシアをかっ差たりしないだろうかと不安を抱く。

 しかしオカンは息子の予想の上を行っていた。







 『花嫁人形』は悲しい感じがしますね。

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