第三十四章 オカン、井戸端会議に参加する
オカンの環境適応能力。
帝都の雰囲気は物凄く暗かった。十倍の魔王軍を打ち破った時は大喜びだった帝都の民の誰も彼もが暗く沈んでいた。
全ての店は臨時休業、とてもではないが店を開く気力が無いのだ。
原因はシンシアとサイモンの結婚式が近づいているから。
本来ならば結婚式とはめでたいもので多くの人が祝福を送るもの。しかも、ラティストアン帝国の皇女とアチナゴーン王国の王子の婚姻。
両国は深く繋がる結婚、表向きだけは……。
帝都の民はカーティス王とサイモン王子がどのような人物なのか知っているのだ。他国に伝わってくるほどの評判の悪さ。
見た目も悪い、中身も悪いの二連撃。
良い所なんて一つも無いサイモンに、シンシアが魔族に対する連携強化のために嫁ごうとしている。
シンシアは人間の世界を護るために、その身を捧げようとしている。まるで人身御供。
シンシアの思いが解るからこそ、帝都の民は反対することが出来ないでいた。
それ故に悲しくて悔しい。
こんな状況下に陥っている帝都のどこにも、オカンの姿は無い。忽然と姿を消した。
オカンはお節介なのである。
アチナゴーン王国の王都の大通りはカーティスとサイモン親子の悪趣味丸出しのキンキラキンに飾り立てていた。
大通りを歩く貴族はどいつもこいつもお世辞にも似合っているとは言えないのに、無駄に金だけをかけた服を着ていた。
身に着けて出歩くには羞恥心を捨てる必要がある。アチナゴーン王国の貴族たちの羞恥心は見ての通り。
ちなみにオカンは羞恥心と言うより、面の皮が物凄く厚く心臓には剛毛がびっしり生えているのだ。
殆どの貴族はたっぷり脂肪を蓄えた体格、カロリーたっぷりの贅沢な物ばかりを食べていることが一目で教えてくれる。
店には見てくれだけは豪華な服や無駄にでかい指輪や首飾りなど、どれもこれも高いだけの商品が並んでいた。
「サイモン王子とシンシアの結婚でラティストアン帝国もアチナゴーン王国の物になりますよ」
「これは、めでたいめでたい」
「どれだけ、ラティストアン帝国から搾り取れるか」
「今から楽しみですな」
「カーティス王とサイモン王子が居れば魔族が攻めてきても、裕福に安全に暮らせますな」
邪な気持ちでサイモンとシンシアの結婚を祝福していた。王が王なら、貴族も貴族。
平民の住んでいる下町はキンキラキンの大通りとは対照的におんぼろ。
建物はなんとか雨露がしのげる程度。店屋で売っている物は食べれるだけまし、使えるだけましなものばかり。
でっぷり太っている貴族たちとは正反対に、平民は痩せていて栄養状態も良くないので血色も良くない、衣服は質素なもの。
どんなに働いても殆ど、貴族に搾取される。溜まって溜まって膨れ上がった貴族への不満。
貴族への不満は溜まっていく一方でも、誰も抗議はしない。
抗議の一つでもした日には、拷問→死刑が待っている。
皆、ギリギリで生きていることを感じさせる。
貴族たちとは違い、平民たちはサイモンとシンシアの結婚を対する祝福は無く、むしろシンシアに対する同情が強かった。
あんなのと結婚させられるなんて、なんて可哀そうなんだと、思っていても口に出して言う人は皆無。
帝都から姿を消したオカンは何とアチナゴーン王国の王都の下町にいた。
いつもの弩豹のコートではなく、質素な服を着て王都の主婦の間にしれっと紛れ込み、井戸端会議に参加。
大阪のおばちゃんは初対面の相手でも話しかけることが出来て、友達のように接することが出来る特技があるのだ。
集団に中に溶け込み、何食わぬ顔で会話を交わす。
「なぁ、知ってまっか、アチナゴーンの王様と王子様、魔族と結託しているらしいで」
「それ、本当のこと」
「ほんまや、ほんま、ラティストアン帝国の大臣にチャドって奴いたやろ」
「知ってるわ、魔族と内通していたんでしょ」
「そのチャドと同じように、アチナゴーン王様と王子様も魔族と繋がっているんやで」
まるで見て来たかのように王都の主婦たちに話して聞かせる。顔色一つ変えないところが信憑性を与えた。
「アチナゴーン王国を魔王軍に売り渡し民を犠牲にして、王族と貴族だけ見逃してもらう計画なんや」
オカンの話に耳を傾ける王都の主婦たち。もしカーティスとサイモンと貴族たちが民衆に尊敬され、慕われる人物ならば一笑に付されていただろう……。
「あいつらなら、やりかねないわよね」
「確かにそうだわ」
「元々、カーティスとサイモンは魔族に近い姿している」
「貴族たちも同類」
「私たちを魔族に売って、あいつらは侵略する側になる心算なんだ」
「裏切り者の王と王子に貴族め」
普段のカーティスとサイモンと貴族のこれまでの言動がオカンの話を信じ込ませたのだ。
オカンの流した噂は瞬く間にアチナゴーン王国の平民の間に広がって行った、尾に鰭がついて。
普段の言動は大事。




