第三十三章 沈黙のオカン
ラティストアン帝国とアチナゴーン王国の会議。
「ほっほほほほほほほっ、お久しぶりでごじゃりますな、ジョセフ~」
カーティスは意図的に皇帝閣下を付けずに挨拶。
円卓に隣り合た座るジョセとシンシア、向かいにはカーティスとサイモン、コーディ。両国の貴族の代表者たちも席に着く。
オカンも同席。相手が相手なので正装に着替えて、いつもの弩豹のコートは着ておらず。
シンシアに似ている真輔は顔を合わすのはリスクが高いと判断、隣の部屋で会議の内容を聞いていた。
ジョセフとシンシアの後ろにはバーナードを中心としたラティストアン帝国の騎士たちが並び、カーティスとサイモンの背後にはアドンを中心としたアチナゴーン王国の騎士たちが並ぶ。アチナゴーン王国は団長も騎士たちは目重視の鎧を着ている。
「将来の夫が挨拶に来たよ、シンシアたん」
ジャバ・ザ・ハット似の顔に嫌らしさ丸出しの笑顔を向けてくる。好感度-でしかない。
ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべているように見える顔のコーディは本当にニヤニヤしていた。
「……遠路はるばる、よく来てくれた」
嫌な空気の漂う中でも、平然と歓迎の弁を述べるジョセフ。流石は皇帝陛下と言うべき。
「帝国では貴族でなくとも一流の騎士になれるのだな。しかも、騎士団長にも選ばれるとは。我がアチナゴーン王国では考えられないことだ」
アドンはラティストアン帝国の騎士を見下していることを隠そうともしない。バーナードの見る目は蔑みのそれ。
団長のアドンだけではない、アチナゴーン王国の騎士たち全員がラティストアン帝国の騎士たちを見下していた。
アドンとアチナゴーン王国の騎士たちは全員が貴族出身。どんなに実力があっても騎士にはなれず、精々兵士どまり。
貴族であれは実力が無くても騎士になれる。
アチナゴーン王国の騎士たちは無駄にプライドと自己評価が高い。
アチナゴーン王国の騎士たちの見下す態度に気が付かない騎士たちではない、自分たちならまだしも皇帝陛下と皇女殿下と騎士団長を馬鹿にされては怒る。ぶん殴ってやろうかと思った騎士もいたが、バーナードが堪えている姿を見て踏みとどまることができた。
「我が帝国は実力主義なのですよ」
さり気なく、笑顔でカウンターを入れてくれるシンシア。
今度はアチナゴーン王国の騎士たちがムスッとなる。アドンに至っては剣の柄を握りしめたほど。
「早速、会議を始めようではないか、本日はそのために集まったのだから」
場の空気を察したジョセフが強引に会議を始めた。今は人間同士が争っている場合ではないのだ。
「ほっほほほほほほほっ、それもそうなのですら、会議を始めようじゃあないか」
カーティスのジョセフを見下す態度は変わらず。
「そうだよね、そうだよね、めんどくさい会議なんてさっさと終わらさないと」
シンシアを嘗め回すように眺め、サイモンは鼻の下を伸ばす。
バーナードの眉が微かに動く。
会談が始まったのでアドンは柄から手を離した。
「話と言うのは他でもない、魔族と戦うために各国同士が協力し合う必要があると私は判断した。まずは隣国のアチナゴーンから、他の国には書状を送っているおります」
厳かな感じで話始めるジョセフ。
「魔族の侵攻は止まらない、人間側の全ての国が狙われているでしょう。だからこそ、国同士が力を合わせ、立ち向かわなくてはならないのです」
事実、オカンが来るまではラティストアン帝国は危機的状態にあった。魔族側にとってラティストアン帝国は人間側への侵攻の入り口に過ぎない。
言わばラティストアン帝国は人間の世界の縮図。
「その通りなのら。両国の繋がりを強化するためにも我が息子とシンシアの婚姻は急がないとならないですな。ほっほほほほほほほっ」
釣られてコーディがひょひょと笑う。
表情を曇らせるシンシア、奥歯を噛み締めるバーナード。どんなに嫌悪感があろうとも拒むことは出来ない。ラティストアン帝国だけではなく、人間の世界全てに関わることなのだから。
個人の思いを優先してはいけないと頭では解っていても、思いまでは拭うことは出来ない。
「国同士の協力はかまいませんが、騎士団同士の協力は必要ありませんな」
そう言ったのはアドン。
「平民上がりが団長をしている騎士団に負けてしまうような魔族など、アチナゴーン王国騎士団だけで十分だ」
怒り、今にも殴り掛かりそうになる騎士たちに、バーナードがさりげなく右手をまっすぐ伸ばして制す。
「アチナゴーン王国騎士団の好きなようにするといい」
そんなバーナードの態度を見た騎士たちは怒りを鎮めることが出来た。
珍しく黙っているオカン。
隣室で会議を聞いていた真輔、
「あんな奴らを相手にオカンが何にも言わないなんて……」
居眠りするどころか、欠伸さえしない。
一体、オカンは何を企んでいるのだろうか……。
何も言わないから、オカンが怖い。




