第三十一章 オカン、こけら落とし
異世界の人にも通じるもの。
「……ここがそうですか」
案内された建物をチェルシーは見回す。瓦に似せて造った屋根の大きな建物、玄関ホールは広い。
玄関ホールを進んだ先にあるドアを開けて中に入った。そこは規則正しく九百人分の椅子が並んでいて、正面には舞台。
舞台は広く、いろいろな合唱や演劇するには申し分ない。
明り取りの窓があるので中は明るく、壁にはトーチホルダーがあり、夜間は松明を差し込んで灯りを取れるようになっている。
天井にはシャンデリア、使うのは蝋燭。
もし、この世界にオカンと真輔以外の関西人が居れば、外も内もある建物に似ていることに気が付くであろう。
「吉本新喜劇・異世界劇場や」
命名したのは勿論オカン。
オカンの身振り手振り交じりの説明だけでニーナたちは図面を起こし、大阪の難波にある吉本新喜劇と大体同じの建物を造って見せたのである。
正直、真輔はプロは凄いなと感心した。
「吉本新喜劇・異世界劇場ですか、広くて立派な劇場ですね。演劇か合唱でもやるのですか?」
この世界で生まれ育っただけあり、劇場と聞くと真っ先に思い浮かぶのは演劇と合唱。
「吉本新喜劇・異世界劇場と言ったら、やるんは吉本新喜劇に決まっとるやないか」
「?」
意味が解らず首を傾げるチェルシー。当然である、関西人ではない異世界人に吉本新喜劇に知るはずがない。
「異世界の人に吉本新喜劇と言っても解らないよ」
最もな意見。
「それもそうやな。話すよりも見てもらった方が早い」
オカンがパンパンと手を叩くと、舞台上に数人が出てきた。
「吉本新喜劇・異世界劇場のこけら落としや」
真輔に勧められたチェルシーは椅子に座って吉本新喜劇を観劇。
チェルシーは笑った、腹を抱えて笑った。人生で一番、笑い転げたと言っても過言ではなし。
「ここまで受けるなんて、多分吉本新喜劇に耐性が無かったんだ」
吉本のネタは慣れていても解っていてもお約束でも笑ってしまう。
そんな吉本のネタに耐性の無い、異世界人が見たらどうなるのだろうか?
H・G・ウェルズが執筆した『宇宙戦争』では地球人には風邪を引く程度のウィルスでも、耐性の無い火星人には致命的なウィルスになった。
異世界人には吉本のネタは刺激が強かったのかも。
「異世界の人にも、吉本新喜劇は通じるんやな」
手応えを感じたオカン。
帝都で見出した選りすぐりの人材をオカンが徹底的に鍛え上げ、吉本新喜劇を教え込んだのだ、骨身にしみ込むほどに。
オカンが見出した選りすぐりの人材はお笑いの才能もさることながら、見た目も体格も選りすぐりな人が選ばれた。本人に出来るだけ似ている人たちを。
ボケとツッコミの絶妙な駆け引きの漫才に演劇、どれもがチェルシーに受けた。
「あの杖を振り回すお爺さん、あれは回避能力を鍛える訓練にもなるかもです」
本物に比べればぎこちなさがあるものの、しっかりと演じてくれた。
「それに猿と猫がおかしかった~」
笑いすぎて乱れた呼吸を整える。
「この吉本新喜劇を興行化するのですね」
ようやく落ち着いた。
「そや」
顔を縦に振るオカン。
やっと、復興したクロゴネンドの産業としてオカンが考えたのが吉本新喜劇であった。
「いい考えです、興行化すれば沢山の人がクロゴネンドが訪れる。沢山の人が訪れればお金を落とします」
沢山の人が訪れることで交流や交易が生まれ町は活性化して行き、クロゴネンドの発展が期待できる。
オカンの出したのはアイデア、そのアイデアを実現させ、成功させるのがチェルシーの役目。
「オカンさん、私に任せてください。必ず、吉本新喜劇・異世界劇場を産業化させて見せます」
チェルシーは統治の専門家。産業や商業にも詳しい。オカンの手の届かないところを補うためにクロゴネンドに派遣されてきた。
「笑えば誰でも幸せになるんやで。笑いは世界を救う、笑う門には福来るんや」
豪快に笑うオカン、釣られてチェルシーも笑う。
他にも吉本新喜劇にはパチパチパンチにポコポコヘッド、チチクリマンボー、カニバサミ、こわかった~、ごめんくさいなど、ネタはまだまだ数多くある。
場所を変えてオカンと真輔の豪邸。丸いテーブルにオカンと真輔が隣り合って座り、向かいにチェルシーが座る。
「商人たちにクロゴネンドの土地を貸し出したいと考えています」
オカンの淹れた紅茶を啜りながら、計画を話し始める。
「土地を貸して店をオープンしてもらい、売り上げの何%かを土地の使用料を収めてもらうんですよ」
興味が無いので聞き流しているオカンに、しっかり聞いている真輔。
「店が出来れば人が集まります。人が集まれば流通が生まれ、クロゴネンドを発展させるんです」 そこに吉本新喜劇・異世界劇場の講演が加わる。吉本新喜劇・異世界劇場は講演だけでなく、お土産物の販売の予定もあり、只今商品の開発中。
さらにオカンの広めた料理が加われば鬼に金棒である。
「さて、真輔さんですが、私と一緒に領地経営を学んでもらいます」
「うん、解っている。しっかりと教えてください」
立ち上がってお辞儀する。
「任せてください、一人前の領主にしてみせますから」
真輔が領地経営を学ぶことは会議で言われていた。この世界で生活するなら、領地経営を学んでいても損は無い。
玄関のドアノッカーが叩かれ、来客を告げた。
「ハーイ、今行きます」
真輔が玄関に向かう。
ドアを開けると、そこに騎士が立っていた。
「申し訳ありません、予定よりも早く例の者たちが帝都に到着するそうなので……」
申し訳なさは口先だけではない。
真輔はオカンの方を向く。
「また帝都に戻るんか、しゃないな」
めんどくさそうに言いながらも、帝都に戻ること反対しない。元々、例の者たちが到着すれば帝都に来てほしいと頼まれていたので。
吉本のネタは慣れていても解っていてもお約束でも笑ってしまうよね。




