第三十章 オカンに品物が届く
オカンと真輔を訪ねてきた人物。
「初めまして、オカンさん、真輔さん、私はチェルシーです」
クロゴネンドのオカンと真輔の邸宅に一人の女性が帝都から派遣されてきた。小柄でくせ毛と丸い眼鏡が印象に残る。両手で小柄な体に似合わない大きなカバンを持っている。
「あなたのことは皇帝陛下から話は聞いています」
真輔が挨拶。ラティストアン帝国での会議の際に出ていた統治に関しての専門家がチェルシーである。本日、クロゴネンドにやってきた。
「子供やのに偉いんやな」
いい子いい子と頭を撫ぜてあげる。
「私、小さいけど、二十歳越えてますよ」
「そうなん、それは悪かったな」
素直に間違いを認めて謝罪。
「気にしていませんよ、いつも、間違えられるので」
チェルシーは全然気にしていない。どうやら、おおらかな人物のようだ。
真輔も前以て教えていられなかったら、未成年に間違えていたかも。
チェルシーは平民ながらも頭が良く、沢山の本を読んで様々な知識を身に着けた。
やがて貴族の一人の目に留まり、統治の方法を学ぶ。
今回、皇帝に見込まれてクロゴネンドに派遣されてきた。
「真輔さんは私の元で統治の勉強をするのですね」
「はい、よろしくお願いします」
いつまでも他人任せにはしておけない。いつまでこの世界にいるか解らない。いつ大阪に帰れるのか、もしかしたら、もう帰れないのかもしれない。
そんな状況下なら、学べる物は学んでおくべき。
一方、オカンは統治のことはちんぷんかんぷん、全然興味が無い。
「そうそう、忘れていました」
ぽんと、手を叩く。
「これ、ニックさんから預かってきたんです」
大きなカバンを開き、中から黒い液体の入った小さなガラス瓶を取り出す。
一目でオカンも真輔も小さなガラス瓶の中にある黒い液体が何なのかは解った。
「出来たみたいやな」
受け取ったガラス瓶の蓋を開け、匂いを嗅いでから指先に付けてペロッと嘗めてみる。
「よし、これや、しょうゆや」
オカンの指示通りにニックは大豆と小麦と塩と麹を手に入れ、半年以上かけて熟成させて完成させた。
ニックの努力の現れ。一生懸命、何度も何度も混ぜて頑張った。ろ過するにも時間がかかるのに焦らず根気よくやってくれた。
そうやって、しょうゆが完成。
真輔も匂いを確かめ、指先に付けて味見してみる。確かにしょうゆの味と香りがする。
異世界でしょうゆを作ることに成功した。しょうゆは日本料理に欠かせない調味料。
1867年に開かれた第2回パリ万博でもしょうゆが紹介されたことがある。
「これで、いろんな料理が作れるで」
これまでしょうゆが無いことで作れなかった料理。塩などを代用して作った料理もしょうゆを使うことができるようになった。
例えば焼きとうもろこし、以前作った時は塩で味付けしたがこれからはしょうゆで味付けが出来る。
きっと、香ばしい焼きとうもろこしが出来るであろう。
この世界の料理にも隠し味として使えるかもしれない。
「これで料理の幅が広がるね」
真輔も料理のレパートリーが増えるのは嬉しい。オカンの料理は美味しいし。
「ニックに感謝せんと、あかんな」
「うん」
オカンと真輔共にニックに感謝。
「次はポン酢や」
「材料があるといいね」
この世界に柑橘類があるのは確認している。ポン酢に使えるかどうかはまだ解らないが。
「ポン酢が出来ればもっと料理が美味くなるで」
「僕も同感」
「鍋に焼肉に焼き魚にトンカツにたこ焼き、楽しみやな」
関西人はポン酢が大好きなのだ。スーパーにも沢山の種類が売ってある。
しょうゆが出来たと言う事は味噌やオイスターソースなど、他の調味料が作れる可能性を示している。
ここで真輔が気が付いた。チェルシーを置き去りにしていることに。
「ごめん、例の建物に案内しないと」
「ああ、そうやった」
オカンも思い至る。
「私、気にしていませんよ」
全然、チェルシーは怒っておらず。本当におおらかな性格している。
「よっしゃ、ほな行こうか」
「はい」
オカンは何事も無かったようにチェルシーを連れて邸宅を出る。真輔も同行。
大きなカバンは作業員が受け取って彼女の家に運んでくれた。しょうゆは後でキッチンに運んでおく。
プリンにしょうゆをかけたら、本当にウニの味になるのかな?




