第八話:確定した事実の記憶で人生をぶっ壊す男
「……これ、全部当たるってことだよな?」
男は競馬新聞を見ながらニヤついていた。
目の前の画面には、レース結果が並んでいる。
まだ発走前なのに、もう“答え”が出ている。
西暦2048年。
『Memory Rewrite』は、過去の確定情報を記憶として持ち込める。
それはつまり――未来の答えを知ることと同義だった。
ニュース、SNS、実況、観客の反応。
その後に起きた未来を「記憶として再生」すれば――
それはもう予言と同じだった。
男・田所は気づいた瞬間、こう思った。
「これ、大勝ち確定じゃね?」
そして最初のレース。
「全財産、単勝一点」
ポチッ。
結果。
当たった。
しかも大勝ち。
「え、こわ」
「え、これやばくない?」
次のレース。
また当たる。
三時間後。
田所は言っていた。
「これ、もう人生クリアじゃん」
勝ち馬券を換金し、銀行に入金すると銀行残高はバグみたいな数字になっていた。
田所は考えた。
「ここで堅実に生きるのが正解か?」
「いや違うな」
「これはゲームだ」
その夜。
彼は繁華街にいた。
キャバクラ。
ドアを開けた瞬間――
「いらっしゃいませ〜♡」
光と香りと声が一気に流れ込んでくる。
田所はソファに沈む。
「全員呼んで」
「え?」
「全員」
数分後。
席は異常事態になった。
席はすぐに賑やかになり、シャンパンが開き、笑い声が弾ける。
シャンパンタワー三基。
名前も覚えきれない女の子たち。
テーブルの上には札束が“装飾”されている。
「お兄さんなにしてる人〜?」
「未来知ってる人」
「は?」
一瞬の沈黙のあと、誰かが笑った。
「なにそれ、ずるいじゃん」
一番人気の女の子が笑う。
「じゃあ明日も明後日も毎日来てくれる?」
田所は即答する。
「明日も俺、金持ちだよ」
「やばwww」
店内爆笑。
その瞬間。
田所は気づく。
「これ、無敵すぎね?」
キャバ嬢に当たる馬券を知ってるから買うのを繰り返す話をする。
キャバ嬢がふと聞く。
「ねえ、それ楽しいのかな?」
田所は即答できなかった。
「……楽しいはずだけどさ」
「なんかさ それって…」
「ゲームの答え見ながらテスト受けてる感じじゃない?」
キャバ嬢は笑う。
「じゃあつまんないじゃん」
田所は考える。
そして言った。
「いや、逆だわ」
「全部当たるから」
「どこでふざけてもいい」
「どこで失敗してもいい」
グラスを持ち上げる。
「人生、初めて雑に遊べるようになった」
その瞬間、店内が拍手みたいに盛り上がる。
「最高じゃんそれ!」
「チート人生じゃん!」
田所は気づく。
これは勝ちでも負けでもない。
**“人生を攻略するゲーム”じゃなくて
“人生で遊ぶモード”だった。**
財布はパンパン。
通帳は壊れているレベルの数字。
なのに『Memory Rewrite』が終了すると田所は普通にコンビニへ行く。
「おにぎりうまっ」
さっきまでの“億万長者”が、
普通に腹を減らしている。
そこで初めて思う。
「これ、金じゃねえな」
彼はスマホを見る。。
「『Memory Rewrite』の中なら次も当たるの、知ってるのに」
ニヤッと笑う。
「じゃあ……どう遊ぶかだな」
『Memory Rewrite』を起動して過去に戻る。
彼は単勝を100円だけ買った。
「今の俺は、結果じゃなくてさ」
「どう遊ぶかで決めたいんだよな」
そしてその日田所は全レース外した。
「え?」
未来がズレたわけじゃない。
ただ――
**自分の遊び方が変わっただけだった。**
キャバクラの女の子に言われた言葉が頭に残る。
「それ楽しいの?」
田所は空を見て笑う。
「今はちょっとだけ、楽しいわ」
『Memory Rewrite』は未来を教える。
でも使い方次第でそれは、
“最強の予言アプリ”にも、
“ただのバカ遊びツール”にもなる。
この先彼が一番夢中になるのは、
勝ち続けることではなく、
「わかっているのに、あえて外す自由」そのものだということを。




