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Episode・pre-fifth

 チョー飛んだ事に公爵が喜び、おっさんが顔を引き攣らせる。


「いやぁ、ぜひともオラを頼む。これで守り人にも、王国にも面目が立つと言うものよ!」


 なぜか盛り上がりまくる公爵が、怖くなるおっさんであった。


 いやいや、マグレだろ。と、おっさんは顔を引き攣らせながら二の矢を番える。


 となりでニコニコ顔の公爵が鬱陶しいが、目に入れない様にして放てば、やはり的に吸い込まれていった。


 チョー飛ぶ弓というのは伊達ではないなと、おっさんも調子に乗ってくる。

 オラの様なイケメン女性との縁など、おっさんにとっては夢か冗談の世界であった。


 それが女王の近衛騎士などという身分で、公爵家のご令嬢とくれば、どこまでも他人事だった。


 オラがおっさんの様な凡人に興味を抱くハズがなく、ましてや好意などあるハズがない。


 そんな思いを胸に、だが、公爵がニコニコ顔なのは、鼻の下を伸ばさずには居られないのが、お調子者な性格のおっさんである。


 何ならまだ、飛ばせそうだ。などと、もはや有頂天にすらなっていた。


 そんな調子で更に的を遠くへと移動させてもらってみれば、それでもしっかり的を射抜いてしまった。


「3バンプを射抜くか!もはや守り人に比類する。まさしく召喚者よな!」


 公爵は上機嫌、おっさんも有頂天。もはや怖い物はない。


 さらに翌日、公爵は何を思ったのか、おっさんを魔物討伐に同行させると言い出した。

 有頂天なおっさんには怖い物はなく、すぐさま快諾してしまう。 


 おっさんには弓と簡単な防具が与えられ、オラと数人の兵士が護衛に付いた。


「では、参ろう!」


 公爵の姿は武者に近い。まるで昔観たサムライ映画の外国人俳優みたいな姿だった。

 公爵の護衛も、どこか和風である。腹巻きだったか胴巻きだったかと言う徒歩鎧を身に着けている。


 それが公爵家の騎士装束であり、どうやら守り人の姿を模したモノであると、オラが説明してくれる。

 そんなオラは、ヨーロッパらしい金属鎧なのだが。


 だが、驚きはそれだけに留まらなかった。


「これに乗るのか?」


 すでに公爵は騎乗している。


 毛むくじゃらで首の長い動物の背に。


 おっさんは、その動物が地球のナニカに似ていると思ったが、名前が出てこなかった。


「エクウスを見るのは初めてか?」


 オラに聞かれ、素直に頷くおっさん。


 説明を受けたが、馬より鹿やカモシカの方が近い生態の動物に思えた。


 だが、これが飼い慣らされた騎乗動物だと言うのだから、納得するしかない。


 おっさんは思う。


 ここはヨーロッパに似ているが、根本的に何かが異なるんだなと。


 石で街を作り上げた白人系の人々だが、そんな外見だからイコールでヨーロッパと見做してはいけない。

 そんな、どうでも良い思考を巡らすおっさんであった。


 エクウスと呼ばれる騎乗動物は、おっさんの知るポニーサイズしかなかった。

 なるほど、牛車を曳くには少々非力かも知れない。

 体の大きなあの牛の方が、牽引力がありそうに見えた。


 おっさんはオラに習いながらエクウスに跨り、見様見真似で歩かせる。


 オラが並走し、なんとかついて行くくらいの事は出来た。


 おっさんの体感で、一時間少々はエクウスに揺られた頃、公爵が不意に歩みを止めた。


「5バンプ先に居るぞ」


 そう言ってくるが、おっさんには距離が分からない。

 昨日、的に当てた100mや200mくらいの距離ではない。おっさんには「もう少し遠く」くらいの感覚だ。


 昨日聞いた話では、魔法も弓も、おおよそ1バンプの射程が標準であるらしい。

 

「トータ殿」


 公爵がおっさんへと声を掛ける。


 おっさんにはまだ相手すらよく見えていないのだが、お構いなしだった。


 弓の準備をしてしばらく前進する。


 公爵に付き従う護衛たちが槍を構える。


 その頃になって、おっさんにも敵らしい姿がハッキリと見えた。


 それは二足歩行をしている集団。


 緑っぽい姿から、ファンタジー名物たるゴブリンではと当たりを付けた。


「おおよそ3バンプだ。やれるか?」


 公爵の問いに頷くおっさん。何せ有頂天である。

 しかも、エクウスなる動物はあまり揺れない歩き方をするので弓を構えやすい。


 おっさんは矢を番え、一匹のゴブリンへと狙いを定めた。


 矢を放てば素直に飛び、狙い違わず命中する。


「トータ殿、敵は一体ではない」


 喜びかけたおっさんへと、オラがそう声を掛ける。


 おっさんは慌てて矢を番えて次を狙って放つ。


 もっとこう、矢を受けたゴブリンが簡単に倒れ伏すのかと想像していたおっさんだが、相手はしぶとく向かって来る事に驚いた。


 腹を狙ってはダメな事に気付き、狙えるなら脚を狙って歩みを止め、確実に当たると確信できる相手は頭を狙った。


 何体かは倒れたが、それでも複数のゴブリンはまだ向かって来る。


「よし、放て!」


 公爵が護衛へとそう命じれば、護衛たちの穂先から光るものが射出された。


 アニメやゲームの様な派手さはまるで無く、しかも、呪文を唱えている風でもないため、はた目からは何をやっているのか分からない。


 それから程なく、ゴブリンたちが複数倒れた所を見ると、アレが魔法による攻撃なのだろう。


 燃え上がるとか凍りつく様な派手さはない。普通に矢や銃弾を受けた様に倒れただけ。

 銃器であれば発砲音がする分、派手さがあるだろう。


 魔法攻撃の距離は数十mに過ぎなかった。大きな道路の道幅程も無さそうに見えた事から50m以下だろうと推察したおっさん。


 さらに近づくゴブリン集団を、おっさんは弓で頭を狙い、公爵の護衛だけでなく、オラの指揮でおっさんの周りに配された護衛たちも攻撃を開始した。


 護衛たちが攻撃を始めて数分程度で、ゴブリン集団の殲滅に成功した。


「アレが何に見える?」


 不意におっさんはそう聞かれた。


 アニメやゲームでよく知るゴブリンに見えたが、どう説明してよいやら迷い、特徴だけを口にした。


「そうか。そう見えるのか」


 何やら頷きながらそう言う公爵。


「我々には枯れ枝の様な醜い生き物に見えるが、やはりスケ殿と変わらん様に見えるのだな!」


 と、ひとり納得顔をしている。


 そんな姿を見、そして視線をゴブリンへと戻せば、そこには何も存在していなかった。


 アニメやゲームでよくある粒子になって消えたわけではない。気が付いたら何も無くなっていた。


「奴らはそう言うモノだ。魔力の根源より湧き出した存在と言われている」


 もちろん、アイテムがリポップする様な都合の良い存在ではないという。

 そんな事から、この世界に冒険者ギルドの様な存在はなく、領主が騎士や兵を率い、或いは村や町が傭兵などを雇って対処しているという話だった。 


 魔法は地味、魔物討伐は金にならず、まるでアニメと現実は違う事を痛感させられたおっさんであった。


 その後は近くの村を回り、魔物に関する情報収集を行って帰路についた。

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