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episode・pre-fourth

 この国では、弓は贅沢であるという。


「それに、魔法もある。射程の大きく変わらない弓と魔法であれば、道具の優劣という外的要因に左右されない魔法の方が好まれておるというのもある」


 弓は道具の優劣が大きくその威力や射程に関わって来る。一般的な弓の射程と魔法の射程はほぼ同等。人族の魔法を超える射程の弓を作り、操る技術を持つのが守り人という存在であるらしい。


 前王はそのように説明してくれた。


 それでは、なぜ彼は弓など練習しているのか?


「守り人との縁も随分と薄くなった。かと言って、絶てばそれもまた困る。誰かがやらねばならん」


 どうやら複雑な事情があるらしい。


「守り人の弓がこのような形になったのも、あのような鎧を好むのも、古の勇者たるスケ殿あってのこと故な。どうやら、お主はその縁をもう一度繋いでくれる存在なのかも知れん」


 そんな前王の言葉を受け、おっさんは困り顔だった。


 武士が廃れて二世紀弱。弓を中心とした武士団などは、せいぜい室町前期辺りまでだろうと考えれば、七世紀は遡ることになるだろう。そんな遥か昔の武士が召喚され、守り人がその技術を受け継いだという事なのだろうか。


「守り人すら代を重ね、直接に勇者を知る者はおらん。500年以上前の話ではあろう。700年か、さもありなん」


 どうやら、おっさんの話に納得の様子であった。


「そうであるなら、一度守り人を訪ねるのも有りやもしれん」


 なにやら、話がオカシなことになったなと思うおっさん。前王はオラへと視線を向ける。


「オラよ、公爵の伝手を頼って召喚者を守り人と引き合わせよ」


「はい」


 随分あっさりとオラが引き受けたことに、驚きを見せるおっさんである。


 だが、前王はチラリと見ただけで何も言わなかった。


 しばらく弓を引きつつ、あれがただのマグレではなく、自分のジョブは冗談ではなく武将ではないのかと考え始めたおっさんである。


「ここには、貴殿にふさわしい弓は無い。オラを頼り守り人に会うてまいれ」


 どうやら、ひとしきり貸し与えられた弓であったが、おっさんが使う予備の弓はここには無いらしい。


 その日の夕方、オラはどこかへ向かい、しばらくして戻って来るなり


「女王陛下の許しを得た。明日は少々遠出となる」


 そんな事を言われるおっさん。


 翌朝、間借りしている騎士団宿舎を出れば、オラは既に準備を整えていたらしく、すぐさま公爵邸へ向かうという話をミラが持って来た。


 案内されたのは、牛車?だった。


「どうした?トータ殿」


 そこで待っていたオラが不思議そうにおっさんに尋ねるが、どう答えたものか分からなかった。見た目は四輪で、それは間違いなく馬車なのだが、繋がれている動物は馬ではなかった。どう見ても牛なのである。


「ブーバルスがそんなに珍しいだろうか?」


 そう聞かれたが、やはりどう答えれば良いのか分からないおっさん。


 何はともあれ、言葉を濁しながら乗り込むと、御者が車を出発させた。


 その速度は比較的早く、のろのろ歩きを予想していたおっさんは驚いてしまう。


「トータ殿の世界には、このような乗り物はないのだろうか?」


 そう聞かれ、すでに動物が曳く乗り物は廃れている事を話した。


「それは凄い。それでは車を動かすのにかなりの魔力を要するのではないだろうか」


 というオラの驚きに、魔法や魔術ではなく科学の力であると説明したが、きっと魔術と科学の違いは理解できていないらしいと気づいたおっさん。


 そこからも、昨日ほどの遠慮や躊躇いなくオラと会話が出来たおっさん。


 まさか二十近く年下の人物だと思っていたら、実は同年代だった。そう考えると急に親近感がわいたのである。


 話を聞くと、オラの立場はかなり微妙なものだった。


 公爵家という数百年前の勇者を祖とする家の血縁として生まれたは良いが、守り人の血を引く者の扱いはあまりよろしくない。


 人間より長命であることは、恐れの元になる。


 それが女性であるとなればお家乗っ取りに怯える貴族も多く、これまでも、女子が生まれても公爵家の係累内でしか婚姻が行われていない程だという。


「私などはもはや人とそう寿命が変わらないのだが、やはり父母や祖父母も私と変わらぬほど生きるとなれば、相手は恐れるのだろう」


 オラはそう苦笑している。


 おっさんはオラほど綺麗ならと言ってみるが、そう言う問題ではないと苦笑された。


「それもまた問題の一つだろう。私とてゆっくりしか年を取らない。しばらくはそれを良しと思っても、どうしても恐れが先立ってしまうものだ」


 それは中々に問題だなと思うおっさんだった。


 そして話が変わり、勇者召喚の話になった。


 過去に複数の勇者召喚が行われているそうで、日本からも一度ならず召喚者がいる事実が判明した。ただし、必ずしもそれが地球、ましてや日本だけとは限らないらしい事も聞かされた。


「召喚者と言うのは、召喚の過程で秘めたる潜在能力を表に出した状態で現れるという。トータ殿の国には魔法が一切ないのに、あの三人は強力な魔法が使える」


 ご都合主義のような話だが、そう言う事らしいとおっさんは自身を納得させる。 


 さらに続けておっさんを褒めるオラの話を聞きながら、返しでオラの事を褒める事も忘れない。同年代という事で遠慮もなく褒める。


「そこまで褒めることもなかろう」


 オラがそう苦笑している姿を、ただ眺めているおっさん。


 出発してから数時間後、一度休憩と食事のために停車はしたが、結局日が傾くころまで馬車?牛車?はは走り続け、ようやく館と言って良い立派な建物が見えて来た。


「あれが公爵邸だ」


 そう言ってオラが説明してくれたところによれば、王都からほど近い所を拝領しているとかで、ここは領地の館であるらしい。


 公爵とは言っても庭園付きの宮殿という訳ではなく、敷地の広い館そのままといった佇まいだった。


 執事の様な人物が出迎え、おっさんたちを案内する。


「お帰りなさいませ、お嬢様」


 そう言った執事のあいさつで、オラがこの家の人物なのだと今更ながらに納得するおっさんだった。


 案内されたのは執務室のようなところではなく、豪華なリビングだった。


 オラが挨拶とおっさんの紹介をする。


 昨日の前王への説明と微妙に違う気がしたが、あまり聞いていなかったおっさんは、当主であるらしい、外見上は年のあまり変わらなそうな人物の言葉に驚いた。


「おお!ようやっと、オラの嫁ぎ先が決まってくれたか!」


 理解が追い付かないおっさん。


「そうと決まった訳ではありません。トータ殿次第かと」


 と、全く昨日とは違う返答をするオラにも驚くしかなかった。


「ハッハッハ、なに、召喚者であれば守り人のくびきも関係ない。なにより弓を扱う者であるならば、我が家としても面目が立つではないか」


 そんな会話に、期待して裏切られるより、流された方がマシという心境に達していたおっさんは、愛想笑いで応える。


「始祖スケ殿と同じであれば、オラを置いていく事もなかろうて!」


 などと、おっさんの思考の外で何やら話が大きく動いているのだった。


 その夜は公爵邸での晩餐となったが、おっさんが懸念したようなテーブルマナーもなく、ただ家族の食卓を豪華にしただけな食事に胸をなでおろしたのだった。


 昨日のうちにオラが先触れを出していたらしく、公爵家は既に守り人へと使いを出しているという。数日中には連絡が来るというのでここでしばらく待つことになった。


 翌日、公爵邸にあるという弓を手にする事になった。


「この弓は、チョー飛ぶという弓だ。あの的に当てる事ができるか?」


 という公爵の話を聞いて、何を言っているのか分からないおっさんだったが、的までの距離はかなりあるように見えた。50mどころではない、80から100mあるかも知れないなと思いながら、矢を番えて引いてみれば、たしかにどう飛ばせば良いかのイメージが出来た。


 かなりの距離がある的へと、矢が吸い込まれていく。


「・・・・・・本当に、チョー飛ばしてしまったか」


 驚きながら冗談を言う公爵に、何とも言えないおっさんだった。 

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