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episode・pre-fast

 そこはとあるショッピングモールのフードコートだった。


 午後8時を過ぎ、そろそろ閉店準備を始める店も出始めた時間帯。


 草臥れたおっさんが、今日の夕飯を食べにやって来ていた。


 すでにフードコートの席は空きが目立ち、店の前に並ぶ人もほとんどいない。大半の店では店じまいを始める店員が目立っている。


 おっさんはそんな店を次々と見ていくが、さすがに時間も時間なので人気メニューが売り切れている店も散見される。


「贅沢言ってる場合じゃないよなぁ」


 どこか諦めたようにそう呟き、やはりこっちじゃなくて街中へ行くべきだったかなどと思ったりもするが、家と会社の位置関係から言えば、ここへ寄って帰るのが一番の近道だった。


 そう大きくもない地方都市である、午後8時ともなればどこの飲み屋も常連で一杯だろう。おひとり様が今から入るには遅すぎる。それに、そこから帰る事を考えると、残念ながら選択肢に入らなかった。電車やバスが店と家を繋いでくれる線上にはない。

 電車の駅から家の近くまではコミュニティーバスが存在するが、そんなモノが夜遅くまで動いているはずもなく、ならば、自分で運転できる条件の店となる。

 代行?そこまでして飲む気もないおっさんだった。


 適当にラーメンかなと店へと寄って行こうとした時、目の前から三人組がやって来た。


 両手に花な少年であった。


 おっさんですら知っている街の有名人。有名な議員のドラ息子である。


「あ~、豆乳うどん~」


 花の1人が立ち止まる。


 おっさんは、半ば道を塞ぐ三人組をよけながら横を通り、目当てのラーメン屋の前へとやって来た。


「ん?何だこれ」


 券売機へとスマホを当てようと、ふと下へと視線を向けると、床が光っているではないか。それが何かよく分からずジッと見れば、何やら魔法陣に見えた。


 ふとそのサークルを追ってみれば、どうやら中心は三人組であるらしく、しかも、三人はまるで気が付いていない様子だった。


 フードコートでそんな演出をこれまで見た事もなく、天井を見ても何もなく、それは床に薄く光りながら存在していた。

 気付いたのだろう、三人の周りから人が避けていく。


 おっさんもサークルの端には入っているが、


「ま、ここなら関係ないだろ」


 などと大して気にせず、それよりも空腹が勝っていたのでメニューを睨み、何を食うか悩みだした時だった。


 フッと光が増し、急に目の前が眩しくて目を瞑ってしまった。


 気が付くと体中が焼ける様に痛く、そのうえ体が動かせなかった。もちろんだが、声も出せていないし眩しさで目の前も真っ白なままだった。


「おい!大丈夫か」


 そんな声がした気がした。


 そして、痛む体に何かが掛けられた感覚だけがある。


 しばらくすると痛みが引いていき、何とか目が見えるようになった。


 目に入ったのは、自分を覗き込む顔。


「女神様・・・」


 その顔は驚くほど美形で、もし死後に女神様に会うならこういう感じかと、酷く納得してしまうものだった。


「女神様?」


 覗き込む顔が声を発した。とても中世的で、女神さまというには疑問符が付いたが、おっさんはそれでも女神なのだろうと思っていた。


「ほかにどういえば良いのだろうか?天使と言うのは何か違う。神にしては美しすぎる」


 おっさんは心の中でそう思ったつもりだった。


「私の事か。私を女神と間違えた人は初めてだよ」


 覗き込む顔が微笑みながらそう言った。声は中世的で、女性にしてはやや低い。しかし、なぜか敏感になったおっさんの嗅覚は「女の匂い」を感じ取っており、件の人物が男という発想には至らない。


「そうだろうか?では、あなたは?」


 口に出したつもりはないおっさん。


「私は近衛騎士だ。そして、貴殿は勇者召喚された一人であろう?」


 そう問いかけられ、おっさんは事態が全く呑み込めなかった。


「勇者召喚?ラノベ?え?何かの撮影??」


 おっさんは、そこでふと起き上がろうとして近衛騎士だという人物とぶつかった。


「おっと、使命を思い出してくれたのは嬉しいが、そう慌てないでくれ」


 騎士は勢い余ったおっさんを支える様な体勢になっている。


「あ、ど、どうもありがとうございました」


 受け止められたおっさんは、その人物が女性であると確信したが、それと共にある事に気が付いた。


「あれ?膝が痛くない。うん?肩も軽いな」


 そろそろ四十になろうとしていたおっさんは、最近ひざを痛めていたはずなのだが、その痛みが全くなく、四十肩を警戒していた肩にも違和感が無くなっている。


「何じゃこりゃ」


 さらによく見れば、自分の着ている作業服は血まみれになっているではないか。


「どうやら、貴殿は魔法陣の縁に依り過ぎていたのだろう。転移が上手く行かず危うい状態だったのだ」


 騎士からそんな説明を受ける。


「その様な状態で済まないが、まずはあちらで行っている鑑定を受けてもらいたい」


 騎士が指さす方を見れば、どうやら三人組が高そうな服に身を包んだ集団に何やら抗議をしている所だった。


 大人の出番かと思ったおっさんは、その場へと向かう。


「おい、何で俺が僧侶で、コイツが勇者なんだよ!!」


 だが、争っている内容に耳を澄ませば、どうやら出番ではないらしかった。


「そうそう、あーしが聖女っしょ!」


 少年とギャルが自分のジョブに不満をぶちまけているだけ、召喚云々への抗議ではないと知って、立ち止まってしまう。


「おお!もう一人いたのか!!」


 困り果てていた集団の1人が、おっさんを見つけてそう声を上げる。


「あぁ?誰だよおっさん、邪魔なんだよ!」


 振り向いた少年が早速おっさんにもキレた。


「誰~?」


 フードコートでも聞いた緩い声も聞こえた。


「あら?あなた達の仲間じゃなくて?」


 ひときわ豪華な衣装に身を包む女性がそう声を上げる。


「こんなおっさん、知らないし」


 ギャルもおっさんを見てそう言う。


「ふむ。しかし、召喚者には違いない」


 そう言って何やら道具を持った人物がおっさんへと近づいて来た。


 そして、おっさんに手を乗せる様に言い、おっさんも何となく、その場の雰囲気でそれに従った。


「ん?ぶ?むー?ぼー??ふむ、無精者・・・か?」


 どうやら、鑑定道具だったらしいが、おっさんの結果がすぐには分からないらしい。


「何?どうした」


 さらに道具へと数人が集まり覗き込むが、誰もハッキリとは答えられない様子だった。


「そんなよく分からないジョブの者など不要じゃろう」


 そう声を上げた女性の一言で、答えは出たらしい。


「陛下のおっしゃる通り、無精者は不要にございます」


 おっさんには何が何やら分からなかった。


 最初に道具を持ってモゴモゴ言っていた人物がそう宣言する。


「いや、無精者って・・・」


 おっさんは抗議したかった。


 零細企業で必死に頑張る自分を無精者など、さすがにあんまりだったからだ。


「ギャハハ、無精者って何だよ」


 ギャルが笑う。


「ぶしょ~」


 緩い声が聞こえる。


「んな事どーでもいいんだよ!!俺が勇者だろ!!」


 少年がそう叫ぶ。


 そして、おっさんは置いてきぼりとなり、再び勇者聖女論争へと話題が戻っていった。


 おっさんは完全に空気となり、その場を離れる。


「・・・まあ、いいや」


 ふと、おっさんは先ほどの騎士を見つけ、そちらへと歩いて行った。


「いやぁ、鑑定結果が無精者とかになっちゃいましたよ。でもね?俺の国にはむかし武将ってのが居たんです。あなたみたいな騎士とはまた違った武人なんですが・・・」


 そう言って、どうしようもないおっさんのウンチクを彼女に聞かせるのだった。


「あら?オラ。その男、貴方が気に入ったみたいね。無精者だから、あなたにあげるわ」


 ふと振り向けば、先ほどの女性である。オラと呼ばれた騎士は跪いているではないか。


 どうやら三人組の抗議の輪から向け出して来たらしい。


「は、陛下。しかし、召喚者ではありませんか?」


「良いのよ。ハズレみたいだし。あなたみたいな男っぽい騎士には、コレくらいが似合うんじゃないかしら?」


 なんだかそれはパワハラにしか見えない光景だったが、空気の読めるおっさんは何も言わずにやり過ごすことにした。


「では、騎士団で預かります」


「いいえ、あなたのモノよ?」


 ピシャリとパワハラを重ねる女王の姿に、おっさんは顔を引きつらせる事しか出来なかった。

 

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