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Episode・pre-second

 取り敢えず腹が減った。


 そして、血と何かに濡れた服が気持ち悪い。


 女王さまは言うだけ言って立ち去ってしまい、オラと呼ばれた騎士も困惑している。


「ごめん。事態がよく飲み込めないが、腹減ったのと、服を何とかしたいんだけど・・・」


 おっさんは申し訳ないとは思ったが、今自身の置かれた状況を早く改善したかった。


「あ、ああ、そうだね」


 オラは少し考える様に間を空け


「・・・・・・近衛の練習着にでも着替えてもらおうか」


 結局、これといった案は浮かんで来ず、自分の知る範囲での回答しか思いつかなかった。


 そして、おっさんを連れて近衛が控えに使う区画へと連れ立って歩いて行った。


 そこでおっさんは、近衛について色々と聞く。ずっと無言でいるのに耐えられなかったからだ。


 オラの話によると、女王直属の近衛は女性で固められているそうだ。


 あらぬ噂が立っては困るという実利の面と、見栄えであるらしい。


 中でも式典の際には目見麗しい女性騎士が女王の側に控えるんだそうだ。


「なら、オラさんはそういう役割が多そうですね」


 おっさんは本心からそう言った。


「そう思うか?」


 オラはスッと目を細めておっさんに問う。


「ええ、オラさんの様な美しい女性が女王さまの側に控えているというのは、とても見栄えが良いですからね」


 おっさんはニコニコとそう答えた。


「そうか・・・」


 オラは苦笑しながらそう言って、話が途切れてしまう。


 おっさんはその事で察した。


 確かに自分から見ればまだ若いとしても、すでに三十路を越えているであろう女王にとって、オラの様な凛々しく美しい騎士が近くにいては、自分が劣って見られるのだろうと。


 そして、少し間を置いたおっさんは別の話題を口にした。


「そうだったね。貴殿には何も説明がなされていなかった」


 女王一行にとっては、おっさんは無精者という鑑定結果なのでもはや用はなく、わざわざ召喚理由を説明する必要性も感じなかっただろう。

 なにより、鑑定結果が不満なギャルと少年の抗議を宥めるのが先だったに違いない。


 オラによって語られたところによると、どうやらテンプレの魔王とはいささか話が違うらしい。


「根元?」


 魔王の様な分かりやすい悪の元締めを倒すといった話ではなく、魔物の凶暴化と大量発生の原因を探って欲しいという話だった。


 それならこの世界の人たちがやれば良いと思うのだが、そうも言っていられない事情があるらしい。


「我々も調査を行う事になるが、どうしても我々では見付けられないモノがあるという話が伝わっている。そのナニカを見つけ出せるのは、召喚魔法によって見出された『勇者たち』だけだというんだ」


 と、オラが教えてくれる。


 だが、肝心のナニカが尾の様な物、或いは生物なのかは判然としないらしい。


「それははっきりした形を持たず、勇者たちが見つけることで形を成す魔象であるとされている。ただ、勇者たちにはそれが見つけられるように話を伝えた。三人に対して、それを魔王であると」


 それはどうなんだ?と、おっさんは思ったが、形が無いものを、見つけた者のナニカが形にするというのであれば、それが正解なのかもと思ったが、おっさんにとって魔王と言うのがあまりにも幅が広すぎた。


「俺の世界では、いや、国では、魔王と一口に言っても厳つく殺気や禍々しさに満ちた存在から、幼く愛くるしい幼子まで幅が広いんだ」


 それを聞いたオラはまずは驚き、そして笑い出した。


「それは凄い国だ。魔王と言えば、普通は厳つく禍々しいものと相場は決まっているというのに」


 そんな話をしていると、騎士たちが行きかう区画へとやって来た。


 当然だが、近衛騎士には王配の護衛に当たる者もいるため、男も居ると教わったおっさん。


 とりあえず、予備としておいてあった騎士の練習着を手に風呂かシャワーはと聞けば、それは時間にならないと使えないと言われ、仕方なく準備してもらったタオルと水で体を拭いて着替えるおっさん。


 そして食堂へ向かえば、そこはガランとしていて利用している者はいなかった。


「まだ食事には早いんだ。ただ、練習後に食べる者が居るから何かあるはずだ」


 そんな風にオラに言われたおっさんは、とりあえず厨房を覗いてみる。


「・・・」


 ジロッと睨むおばちゃんがいた。


「えっと、何か食べ物・・・」


 恐る恐るそう聞くおっさん。


「あるよ」


 おばちゃんはそれだけ言うと、何やら鍋のようなモノから皿へとよそう。


「ほれ、お残しは許しませんえ」


 まるで細かな注文を聞いていたかのように、さらに並々と盛られた皿が突き出された。


「あ、どうも」


 おばちゃんに圧倒されながら受け取り、皿をもってテーブルへと座る。


 それは、ミンチの肉と豆や野菜が煮込まれているように見えた。


 スプーンで掬って食べてみれば、ちょっと塩が濃いが、フードコートの料理に慣れたおっさんからすれば、それでも薄味に思える食べ物だった。


 オラの解説によると、食堂で出されるものは王族用厨房から出た余り端材が使われており、無料で食べられるとの事だった。


「調理法は違うが、ここでならば王族と同じ食材を味わうことが出来る。近衛の特権の一つだよ」


 オラがニッコリそう言った。


 おっさんも、確かにそうかもしれないと思う程度には満足するのだった。


 腹を満たせたおっさんだったが、そこから先が問題だった。


 これからどうすれば良いのだろうか?


 そんな事を考えていると、食堂へと人が入って来た。


 オラを見つけて駆け寄って来るではないか。


「アレクサンドラ閣下、探しましたよ」


 声を掛けて来たのは、オラとそう変わらない年齢の女性だった。


「ミラ、悪いね。ああ、こちらは・・・、そう言えば名前を伺っていなかったね」


 オラが苦笑しながらおっさんにそう言って来た。


 おっさんも、ようやく名乗ってすらいない事に気付く。


「そうだった。俺は富士原兜太、トータとでも呼んでくれ」


「分かった。私はアレクサンドラ。オラで良い」


 オラとアレクサンドラがつながらないが、通称か何かだろうと納得するおっさん。そして、驚いた顔をしたミラ。


「閣下、それは・・・」


「ん?ああ、彼は召喚者だよ」


 オラがそう答え、ミラがおっさんを見る。


「そうでしたか」


 納得はしてない様子だが、それ以上は何も聞いて来なかった。


「陛下より直々に、私が彼の専属を仰せつかった」


 オラはそう言うが、女王のニュアンスとはずいぶんと違う気がするんだが?


 ミラはそれを聞いてしばし驚き


「閣下にも、ようやくそう言うお話が来たんですね」


 と、何やら勝手に喜んでいる。オラはというと、複雑な顔をしておっさんを見ていた。


 その後、おっさんの今後についてどうするのかという話になったが、オラの隊でおっさんを面倒みるという事になるらしい。

 おっさんからすれば、それはどうなのかとも思ったが、何も言うことは出来なかった。  

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