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エリオット・グレイ

「リリスさんには――共犯者がいます。黒百合の使者……」

その言葉は、私の意思よりも先に、口からこぼれ落ちていた。


「共犯者?」

すぐさま、ガウェインが眉間に皺を寄せる。


「ええ。今回の計画は、これまでの彼女のやり方とは明らかに異なります。まず第一に――他人を使っていること。これまでのリリスさんは、少なくとも私が把握している限り、常に自分の手で事を仕掛けてきました。しかし今回は違う。黒百合の使者を名乗る女性を差し向けてきたのです。そして、その女性を操っていたとされる“魔香”……」


私はそこで言葉を切り、息を整える。

「学園にも魔香はありますが、専門の教師が厳重に保管しており、許可なく持ち出すのはほぼ不可能です。外部で入手しようとすれば、相当な高値で取り引きされる代物。差別するつもりはありませんが、庶民出身のリリスさんに、それだけの資金力があるとは到底思えません。エリオットさんに渡した金銭についても同じことが言えます」


「つまり……背後に、貴族出身者が関わっているというのか」

ガウェインの声は、低く、重く響いた。


「そ、そんな……」

エリオットが青ざめ、息を呑む。


「これはあくまでも推測です。しかし、今回の件にリリスさんが深く関与している可能性は、極めて高いでしょう。――黒百合の花言葉は、『復讐』と『呪い』。今のリリスさんが胸に抱いている感情は、まさにその二つではありませんか」


そう告げた瞬間、胸の奥に広がる複雑なざわめきを抑えきれず、私は視線を落とした。


「エレノア様……」

不意に名前を呼ばれ顔を上げると、エリオットが震える声で叫ぶ。

「すみませんでした!」


「急に、どうしたのです?」

戸惑う私に、彼は深く頭を垂れたまま言葉を続ける。

ガウェインは無言のまま、その様子を鋭く見守っている。


「……僕は、報酬のためにエレノアさんに怪我と汚名を着せるところでした。写真部には貴族の方が多く、皆さん立派な光写機を持っています。それに比べ、僕の光写機は古く、部品も欠けて……新品を買う資金がどうしても必要だったんです。それで……」


ふう、と部屋に静かな溜め息が落ちた。


「エリオットさん、顔を上げてくださいな」

思わず、声が柔らかくなる。


「……え」

涙で濡れた顔がこちらを向く。


「あなたの名前を聞いて、思い出しましたわ。以前、展覧会で拝見したエリオットさんの作品――公園で遊ぶ子どもたちの笑顔。無邪気な天使のようで、何げない一枚でしたけれど……見た人の心を温かくする、不思議な力を持った写真でした。それで、ずっと印象に残っていたのです。ねえ、エリオットさん。写真の出来は光写機の精度ではなく、撮る人の技術と心に左右されます。少なくとも私は、あなたにそれがあると信じています」


「……本当に、本当にありがとうございます……。どんな処罰でも、お受けします」

エリオットは、涙のまま私の手を強く握った。


だが次の瞬間、その手はガウェインによって振り払われる。

「どうなさいますか、エレノア様。騙されていたとはいえ、皇子の婚約者を襲ったのです。それなりの処罰を下すべきでしょう」


私はしばし沈黙したまま考え――そして、ふと閃いた。

「写真……証拠……。そうですわ、今回はあえて相手の案に乗りましょう!」


「え?」

「え?」


「……何よ、これ」

壁に貼られた一枚のポスターを見て、リリスの顔が引きつった。

そこには、白いドレスをまとい優雅に微笑むエレノアと、その手を取って跪く騎士姿のガウェインが並んでいる。


「あら、エレノア様のドレス姿、お美しいですわ。さすがです」

「まあ、ガウェイン様! 凛々しいお顔が素敵だわ……あんなふうに守っていただきたい」

通りすがる女子生徒たちが次々と足を止め、視線を釘付けにしていく。


――これは、白百合の君選考のアピールポスター。

規定に違反しない範囲で、巧妙に作られたものだ。


「おはようございます、リリスさん。朝からそんな怖いお顔をして……どうなさったのかしら?」

「エレノア!」

「ご覧になって? このポスター。素敵でしょう? やっぱりモデルが良いのかしら。代表に選ばれるくらいですものね。ああ……もしかして、光写機が得意な方に偶然お会いして撮っていただけたからかも。本当に運が良かったわ」

以前、智美が読者モデルとして撮影を受けたと誇らしげに語っていた様子を、私も真似してみた。


「……エリオット……!」

「まあ、リリスさんもご存じなの? そんなに有名な方なら、将来有望ですわね。楽しみですこと」


小さく会釈し、朝礼へ向かうため足を進めるエレノア。

その背を、リリスは憎悪を隠さぬ形相で睨みつけていた。


その背後から、手首に黒いリボンを結んだ女子生徒が静かに歩み寄る。

「……次があるわ」

「ええ」

リリスも自らのリボンをぎゅっと握りしめ、短く応じると、教室へと歩を進めた。

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