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白百合の君

朝の教室に、柔らかなざわめきが広がる。


「そろそろ“白百合の君”の選考時期ではなくて?」

「そうですわね。今年はどなたが選ばれるのかしら」


女子生徒たちが興味深げに噂を交わしている。


“白百合の君”とは、各学年の代表候補の中から選ばれる、勉学・芸術・容姿すべてにおいて優れた女子生徒の称号。いわば、この学園における“ミスコン”のようなものだ。


その昔、ひとりの女子生徒が学園に在籍していた。

容姿端麗で、すべての教科において優秀。芸術の才にも恵まれ、さらに誰に対しても分け隔てなく優しい。

花の世話を趣味としており、特に白い百合を愛し、いつも丁寧に育てていた。

その清らかな佇まいと人柄に、周囲の生徒たちは自然と憧れを抱き、やがて彼女をこう呼ぶようになった――「白百合の君」と。


だが、その存在を面白く思わない生徒がひとりいた。

彼女もまた人目を惹くほどの美貌を持ち合わせていたが、成績も人望も「白百合の君」には及ばなかった。

悔しさから、彼女も白い百合を育て始めるが、誰からも注目されることはなかった。

そしてついに、堪えきれずこう言い放ったのだ。


「どちらが本当の“白百合の君”にふさわしいか、勝負をしましょう」


白百合の君は穏やかにそれを断ろうとした。

しかし相手はこう脅したのだ。「断れば、大切に育てている百合を滅茶苦茶にする」と――。


仕方なく、白百合の君は勝負を受けることに。

この一件は瞬く間に学園中に知れ渡り、大騒ぎとなった。

「どちらが勝つか」賭けを始める者まで現れ、学園はまるでお祭りのような賑わいを見せた。


勝負当日、妨害や陰口、あらゆる策略が飛び交う中で――

それでも結果は、白百合の君の圧勝で幕を閉じた。


これこそが、学園伝説の始まり。

後に「白百合の君選考」と呼ばれ、今では学園の恒例行事――「白百合祭り」として語り継がれているのである。


全女子生徒憧れの「白百合の君」の称号――それは、ただ美しければ選ばれるというものではない。

審査対象となるのは、容姿はもちろん、ファッションセンス、パフォーマンス能力、そして学業成績。真の気品と知性を備えた者だけがその称号を手にするのだ。

そのため、選考が行われる「白百合祭り」は二日間にわたって開催される一大行事となっている。

審査員は教師数名と、昨年度の「白百合の君」。さらに、全校生徒による投票も加わり、厳正な審査のもと選ばれるのである。


これはチャンスだ――リリスはそう確信した。

この展開なら、エレノアに勝てる。なぜなら、これは“ゲームのイベント”なのだから。

シナリオ通りに進めば、攻略対象の男子たちが彼女を推薦し、ミスコンへの参加が決定する。

そして――選ばれなかったことが面白くないエレノアは、嫉妬から妨害工作に走るはず。

だが、それらは全て男子たちによって阻止され、むしろエレノアの評判は下がっていく。

一方で、数々の困難を乗り越え、見事「白百合の君」に選ばれるのはリリス。

彼女の好感度は一気に上昇し、ヒロインとしての立場も確固たるものとなる――はずだった。


ところが――

「代表はエレノア様がよろしいのではなくて?」

「ええ、そうですわね。エレノア様こそふさわしいと思いますわ」

「ヴァレンシュタインさんなら、“白百合の君”も狙えるんじゃないかな」


話し合いの場で飛び交うのは、どれもエレノアの名前ばかり。

リリスの名は、ついぞ挙がらなかった。


「そんなことはありませんよ。私よりも、もっとふさわしい方がいらっしゃいますわ」

エレノアは微笑みながら、丁寧に辞退の意を示す。


――転生前の由里子は、注目を浴びるのが苦手だった。

こうした行事で張り切るのは、決まって目立ちたがり屋の智美――今のリリスの方なのだ。


「なんでよ……!私の方がふさわしいのに……!」

内心の悔しさを押し殺し、リリスは一歩前に出た。こうなったら――


「先生!」


「はい、フィオレンティーナさん」


「エレノアさんのおっしゃる通り、他にもふさわしい方がいらっしゃるかもしれません。話し合いだけで決めるのは難しいかと存じます。ここは、公平に“投票”で決めるというのはいかがでしょう?」


「……なるほど、それも一つの方法ですね。では、こうしましょう。これから投票用紙を配りますので、代表にふさわしいと思う人の名前を書いてください。もっとも票を集めた人を代表とします。それでよろしいですか?フィオレンティーナさん」


「はい、構いませんわ」


自信に満ちた笑みを浮かべるリリス。

皆が口にこそ出さないだけで、本当は自分こそがふさわしいと思っているはず――そう信じて疑わなかった。

何しろ華やかな容姿は白百合のように気高く、成績は常に上位。加えて希少な光魔法の使い手でもある。選ばれない理由など、どこにもないはずだった。


だが――

発表された投票結果は、エレノアの圧勝だった。

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