『戦争の天才』は後手からの一撃を決める!
俺の名前はリノ・バステル。
敵が本土に転移してから2か月が経過した。
今回、我々は水際作戦を止め遅滞戦術に徹した。
縦深陣地構築のかいあって、現在は首都一歩手前で防ぐことができている。
しかし、制空権は五分五分。
どうやら敵は残る航空戦力をこの戦線に全投入したようだ。
本土防空用の局地戦闘機『霊峰』が奮戦しているものの、戦火は芳しくない。
「閣下!大変です!レートル工業地帯に向け、敵航空機が接近中とのこと!さらに敵は4発機との事!」
「なんだと!」
レートル工業地帯は我が国一番の工業地帯。
そこが潰されればこの国の生産力は潰されたも同然。
「出せる航空機は全機向かわせろ!なんとしても死守するんだ!」
一番近い航空基地はタント航空基地。
タント航空基地とレートル工業地帯は真反対に位置するが、今ならギリギリ間に合うだろう。
4発機。
この世界でまだ実用化に漕ぎつけた国はない。
以前石原孝雄陛下から聞いたが、陛下の前世では4発機の多くは『爆撃機』と言って、その地域に大量の爆弾を降らせるためのものらしい。
それから数時間後、私のもとに一報が入った。
「敵との交戦を開始したとの事です。戦況は好調。すでに半数を仕留めたとの事。それに、敵新型4発機は2機ほどだったそうです」
どうやら、レートル工業地帯は守り切れそうだ。
俺はほっと胸を撫でおろす。
しかし、ふと冷静になった時、一抹の不安が頭をよぎる。
敵は新型機をこんな杜撰に扱うだろうか?
敵は名将ロンメル。
2か月で首都手前まで電撃戦をする人間。
これは欺瞞なのではないか?
他に真の狙いがあるのでは?
「大変です!タント航空基地に向け、敵の新型機が飛び立ったそうです!奇数は10を超え、護衛戦闘機も多数!」
やってしまった。
全機レートル工業地帯に向かわせたせいで、タント航空基地を防衛するだけの戦力はもうない。
それからすぐ、タント航空基地は空爆された。
爆撃機の威力は絶大で、航空基地は使用不可になった。
どんなに修理を急いでも半年は使えないそうだ。
人は避難させていたのが唯一の救いだ。
この爆撃によって敵は制空権を確保、首都防衛はますます厳しくなった。
しかし、朗報もある。
ヴィクトワール王国の名将ルヴォア・エリックが部隊を連れて、フェアンベルゼン王国に到着。
タイミングを見計らって、我が国の転移スクロールを奪還のために動いてくれるそうだ。
‐‐‐
タント航空基地が爆撃されてから1か月が経過した。
敵の爆撃は頻度を増し、レートル工業地帯も爆撃された。
市街地は爆撃されていないが、付近の工業地帯は軒並み爆撃されてしまった。
ただ、私もボケっとしていたわけではない。
これを糧に大陸同盟中に戦争に参加するように呼びかけ、周辺国に食料の援助、大陸同盟には武器と兵力と弾薬を要請。
この行動は功を奏し、国民の士気は上がり、食糧もまだ余裕がある。
実は、この戦争が始まってすぐ、私は志願兵を募集。
新聞やラジオを通じて募集し、参加したら、金銭だけでなく、貴族の称号、一部特権の貸与なども報酬とした。
現在、貴族は形骸化し、実権はほとんど持っていない。
それなら名誉貴族とでも称して戦果を挙げた人に渡そうと思ったのだ。
事実、実権がなくなったとはいえ、貴族の称号は喉から手が出るほど欲しいものだ。
特権が欲しい商人たちも、企業ぐるみで人員を貸してくれる。
かなりの人が志願兵として参加した。
その数は現在でも増加中だ。
「閣下!敵が首都に向け攻勢を開始しました!」
ついに始まったか。
しかし、爆撃で国力こそ衰えたものの、遅滞戦術と援助、志願兵によって武器も兵力も十分。
ここが決号作戦の天王山となるだろう。
俺は窓から外を見る。
すると、西の方から戦車が来ているのが見える。
すでに首都は避難勧告が出ており、市民が東へ避難している。
敵は戦車を巧みに使う。
ならば、できることは沢山ある。
「敵、地雷原に入ったようです」
「よし、ゲリラ部隊、戦闘開始」
今回、新兵器『対戦車地雷』を投入した。
どこに仕掛けられているかわからない以上迂闊に進撃できないはずだ。
そして、左右には対戦車武器を持った、兵が待機している。
一気に畳みかける。
敵が地雷に引っかかった。
戦車は炎上し、乗組員が避難している。
それが合図だ。
左右の対戦車部隊が攻撃を開始。
放たれた砲弾のいくらかは戦車に命中した。
しかし、敵はどうやら頭が回るようだった。
まず、敵の戦術歩兵、戦略歩兵が周囲の対戦車兵を蹂躙。
対魔法結界も張っていなかったので、魔法も使われて、部隊は撤退を余儀なくされた。
そして、敵の魔法使いは進路に地震を起こした。
すると、対戦車地雷が一斉に爆発した。
敵の戦車を遅滞するはずの作戦は失敗した。
そして一つの通信が届いた。
「市民の避難は完了したか?」
敵はあくまでもフェアプレイを望んでいるようだ。
俺たちはそれに、『完了した』と伝えた。
すると、敵は進行を開始した。
こうなれば、対魔法結界を張っての市街戦だ。
「敵!攻撃機です!」
上空を見ると無数の航空編隊が空を飛んでいる。
空爆の被害を避けるため私は城を後にする。
「兵士たちを建物の中に避難させろ。敵が首都に入ったらすぐ、門を爆破しろ!」
俺は指令室に移動し、指示を出す。
「手伝おうか?」
私の後ろから声がした。
振り返ると、そこにいはエルベルト陛下と、銃を担いだ男。確かマルテだったか。
「陛下は、前線を退かれた身、それにお年を召されております故.... 」
「あれごときにやられるほど衰えてはいない。それに優秀な若者もいるんでな」
そう言って陛下はマルテを指さした。
陛下の国を思う気持ちは私が一番知っている。
「わかりました。ではお願いします」
「で、どうすればいい?作戦の目標は?」
「陛下随分軍人のようになられましたね」
「軍人の友人のが移ったのかもしれないな」
「目標は敵の撤退。陛下はただ暴れてください」
「わかった」
2人はそう言ってその場を後にした。
そしてすぐ、敵は首都に入った。
そしてすぐ門は爆破された。
しかし、敵はすぐに撤退すると、瓦礫を砲撃で吹き飛ばした。
少しすると、瓦礫は吹き飛ばされ、通行可能となった。
そうやら、私の時間稼ぎはあまり意味がなかったようだ。
敵は四方に分かれて、占領を開始した。
そしてすぐ、各方面の部隊と交戦を開始した。
戦闘が開始してから数十分が経過した。
戦況は優勢。
俺の見立て通り、戦車は市街戦が苦手なようだ。
そんな中、私に2つの朗報が届いた。
一つ目は石原孝雄陛下が敵本土で『後手からの一撃』を決めたという報だ。
俺が自国の首都すら満足に守れていない状況で、あのお方は華麗に反撃し、ピンチをチャンスに変えてしまわれた。
二つ目はエルベルト陛下とマルテが想像以上に優秀だった。
エルベルト陛下の強さは先の内戦で知ってはいたが、味方になるとこれほどまでに心強いとは思わなかった。
それにマルテというあの男。
エルベルト陛下が正面切って戦っている横から、ゲリラ的に狙撃をする。
戦車がきたら対戦車兵器を正確に弱点に命中させる。
彼のゲリラの戦闘スキルは目を見張るものがある。
「閣下!朗報です!ルヴォワ・エリック率いる反抗部隊が転移スクロールの奪還に成功!現在、こちらに援軍として駆けつけているそうです!」
どうやら神は俺に味方したようだ。
これで敵の補給路は完全に遮断された。
敵の本土の転移スクロールもクライスト皇国にある転移スクロールも取り返した。
この戦いを耐え抜けば、俺らの勝ちだ。
それから二時間後、敵の攻勢が止んだ。
「我々ヴァントリアス帝国軍は、降伏する!」
敵司令官の声が拡声魔法で声が一体に響き渡る。
この一声によってこの戦いは集結した。
勝ったのだ。
不利と思われた戦況から逆転したのだ。
なんとも言えない高揚感が俺を包む。
それから、敵は武器を捨て、我々の指示に従った。
そして、俺は敵司令官と接触した。
「俺はリノ・バステルだ」
俺はそう言って手を差し出す。
彼は不思議そうにこっちを見る。
「自分はエルヴィン・ロンメルだ。その手はなんだ?」
「握手だよ。この文化は前世にはなかったのか?」
「自分は敵だぞ?」
「戦いは終わった。もう敵ではないだろう?」
俺がそう言うと、ロンメルは豪快に笑った。
そして、私の手をガシッと掴んで握手をした。
「一つ質問をしたい。どうしてあらかじめ首都を爆撃しなかった?」
もし自分が相手の立場なら、まず、首都機能を崩壊させる。
その方が合理的だ。
俺の質問にロンメルは真面目に答えた。
「戦争は軍人と軍人の戦い。関係ない一般市民を殺すべきではない。合理的だとか、軍事学的にだとか以 前に我々は人だ。人道を忘れてはいけない。しかし、私の前世はそれができなかった。確かに合理的で効果覿面だが、それではだめだ。だから、この世界では同じ過ちを犯さないようにしようと思った。ただそれだけだ」
彼には決意を感じた。
こういう人間が世界を良くする。
俺の直感がそう告げる。
この人間を処刑してはいけない。
俺がエルベルト陛下に助けられたように、今度は俺を助ける番だ。
俺はすぐ、近く兵士を全員呼びつける。
「これにて、戦闘は終結した!終わった以上、ここに敵はいない!よってヴァントリアス帝国兵に対する私的制裁、暴力、略奪、その一切を禁止する!文句があるものは私に直接来い!」
ロンメルはその言葉を聞いて、私に頭を下げた。
「過分な配慮感謝する」
「リノ・バステルの名のもとに、君たちに人道的配慮をすることを約束しよう」
こうして、決号作戦は完結した。




