『戦争の天才』はヴァントリアス帝国に行く!
この物語もついに最終章へ突入!
ジェストカン神聖国との戦争が終結してから10年が経過した。
この10年世界は大きく変わった。
まず、世界情勢。
フェアンベルゼン王国率いる大陸同盟はヴァントリアス帝国と、現在冷戦の真っ只中だ。
ヴァントリアス帝国は自国の勢力圏拡大のため、付近の小国を属国化。
我々も義勇兵を送ったり武器を支援してみたものの、結果は敗北。
フェアンベルゼン王国は冷戦激化を避けるために直接的な支援はせず、ジェストカン神聖国やヴィクトワール王国が支援をしたというのも敗北の原因だ。
敵はここ数年で近代化を成し遂げ、特に銃火器は我々よりも優れている可能性がある。
そして、ヴァントリアス帝国の参謀が優秀で、作戦面でも敗北したようだ。
その参謀はクライスト公国内戦で敵義勇兵の指揮を執り、チェコの針鼠を用いたり、ジェストカン神聖国との戦争でも軍事顧問として参加していた『クロス』と呼ばれている人物だ。
クロスはヴァントリアス帝国一番の知将と言われ、『作戦の神様』という二つ名は広く国民に知られている。
また、軍事技術も前世では考えられないほど進化した。
戦車は以前より高機動でありながら重武装、重装甲。
海軍は空母が就役。
空は金属製単葉機が主力となった。
全体的に前世の昭和初期程度の技術水準だ。
それと、大陸同盟は軍事、経済共に協力関係を構築。
統一の通貨を使用し、有事の際には迅速に連合軍を結成できるようにしてある。
ここで、ヴァントリアス帝国について少し説明しよう。
我が国より海の向こう、ヴィクトワール王国の西海岸から更に西側に6000粁先の海を渡ったところにある国だ。
通称青龍洋と呼ばれるその海は極端に島や陸地がなく、ヴィクトワール王国とヴァントリアス帝国のちょうど真ん中に直径100粁程度の小島が1つあるだけだ。
ヴァントリアス帝国は人口2億を超える超大国。
資源は豊富で、広大な土地もある。
諜報力に優れていて、数多くの諜報員を有するという。
しかし、基本は大陸に干渉することはなく、傍観しているだけだという。
そんな中、10年ほど前から、露骨にフェアンベルゼン王国を敵視し始めた。
大陸をまとめ上げた我々を脅威とし、禁輸や関税の引き上げを行ってきた。
この10年緊張緩和をしようと何度も試みたが、すべてうまくいかなかった。
そうした中先日、ヴァントリアス帝国から1つの手紙が来た。
送り主はクロス。
そう、ヴァントリアス帝国一番の知将、『作戦の神様』からだった。
何が目的なのかは知らないが、私と会談したいと申し出てきた。
以前から気になっていた人物だったので、私は会談を了承した。
場所はヴァントリアス帝国帝都、『ワリハル』だ。
さて、今回の会談に際して、エルベルトは勿論の事、フィストのメンバーにも私の護衛という立場で同行してもらった。
現在、我々は帝都の真ん中、指定された建物の目の前にいる。
私達はその建物を見て驚愕する。
高さにして100米はありそうなビルが辺り一帯に建っている。
道路にはアスファルトが敷かれていて、街灯も電気式のものだ。
ここは1900年代の亜米利加のようだった。
「すごいわよ!フェシリテ!高い建物がいっぱいだわ!」
「ええ、凄いですね.... 」
エメは興奮しているがフェシリテはただただ圧倒されていた。
国というのは10年でここまで進化できるものなのだろうか。
我が国はまだ、石造りの城が拠点だというのに、ヴァントリアス帝国はコンクリート製のビルだ。
一応、我が国も軍事拠点は強度の都合からコンクリートを使用しているが、ビルを建てるほどの余裕はない。
これが資源大国の力なのだろうか。
指定された建物に入ると、受付の人が私達を案内した。
その際、上の階に行くためにエレベーターを使った。
またしても、我が国との差を痛感した。
一応、我が国の大型軍艦にはエレベーターがついてはいるが、民間まで普及はしていない。
我が国が軍事でしか使えないものをこの国は民間でも使えるのだ。
それだけ豊ということだ。
エレベーターが止まり、扉が開くと、なんと、そこは和室だった。
畳が敷かれ、掛け軸らしきものがあり、真ん中にはちゃぶ台がある。
昭和の質素な和室だ。
私は靴を脱ぎ、胡坐をかく。
他の者たちも困惑しつつも私の動作を真似する。
見たこともない畳という床に、簡素なちゃぶ台という机。
転生者でもなければ困惑するのは当然だろう。
少しして、お茶がだされた。
私はまたしても驚愕した。
なんと、緑茶だった。
しかも茶柱が立っていた。
この世界は茶と言えば紅茶が普通だ。
「このお茶苦い.... 」
マルテが小声でつぶやく。
間違いない、クロスは転生者だ。
しかも、日本人。
奥から足音がした。
こちらにどんどん近づいてくる。
「お初にお目にかかります。石原孝雄陛下。いえ、お久しぶりです。導師」
そう言って現れたのは坊主で、丸い眼鏡をしていて、顎にややくぼみがある男。
明らかに日本人らしい顔つき。
私はその顔に見覚えがあった。
辻 正之だ。
彼はノモンハン事件やマレー作戦、ガ島の戦いを指揮し、日本陸軍に貢献した。
特にマレーの快進撃、シンガポール攻略は異常とも言える速度で達成し、人は彼を『作戦の神様』と称した。
が、彼はそんな名誉と同じくらいの不名誉がある。
まず、日本がバターン半島を攻略した時、たくさんの米兵が捕虜になった。
ここまではいいのだが、あろうことか辻は大本営からの命令だと嘘をつき、その米兵を射殺したのだ。
当然、捕虜は射殺してもいいなんて言う国際法は存在しない。
また、シンガポールを占領した際、奴は当時反日的だった華僑を一般人を、虐殺したのだ。
その際奴は「私はシンガポールの人口を半分にしようと思っている」と言っていたそうだ。
更に戦後、GHQによって戦犯指定されると、あろうことか奴は国外に逃亡したのだ。
そして数年たって戦犯から解除されると、奴はのこのこと日本に帰ってきた。
CIAからは「第三次世界大戦を起こしかねない男」と言われた。
彼は私の部下だった。
私が関東軍で参謀をしていたころ、満州の理想を彼に教えた。
すると彼は心から共感してくれた。
満州事変が終わると、私を導師と呼び、もはや崇拝に近い尊敬をしてくれた。
この時、私は彼の本性に気づけなかった。
非人道的行為を行うことに何の抵抗もない、その性格に気づけなかった。
戦争において合理主義者であり、命を消耗品と考える辻は危険人物だ。
「辻だからクロスか。なんとも安直な偽名だな」
「ええ。先生なら気づいてくださると思いまして」
そう言って辻は靴を脱ぎ畳に座る。
かくして、『戦争の天才』と『作戦の神様』による会談が始まった、
フェシリテがどうして家出したのかについては間話で話したいと思います




