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『戦争の天才』はヴィンセント侯爵と対峙する!

 つい先ほど、戻ってきたエルベルトから、ヴィンセント侯爵の作戦を聞いた。


「馬鹿な策だ」


 作戦を聞いた私は心底呆れた。

 どうやらヴィンセント侯爵は商才はあるようだが、軍才はないようだ。


「どうする?迂闊に動けば子供たちが殺されてしまうぞ。それに保護しようにも子供たちはどこにいるかわからないときた」


 エルベルトは焦っているようだ。

 だが、私には策がある。


「難しいことはない。

 まず、子供の居場所だが、なんとなく検討がついている。

 子供が500人を超えているなら、彼らを生かすための食糧もかなりの量になる。

 その量を隠しながら運ぶとなると、恐らくはヴィンセント侯爵が治める領地内だろう。

 自分の領地ならもみ消せるし言い訳もできる。

 それと、恐らくは街中の堂々と隠しているだろう。

 奴隷商で成り上がったヴィンセント侯爵の領地なら街に奴隷を堂々と正面から連れ込める。

 それに、山や辺境に監禁しておくと、輸送だけでもかなりの手間になるというのもある。

 平坦で道が整備されている街の方がいいだろう」


 私はすぐに諜報員たちに調査を命じた。


「それで、発見次第、そこに乗り込めばいいのね!」


 私が命じた後、エメがそう言った。


「まぁ、焦るなエメ。万が一にでも敵が子供達を人質に取ったら厄介だ」


「じゃあどうするの?」


「民衆を使う」


 私がそう言うと、エメはきょとんとした顔をした。


「まず、新聞を使って、奴隷がいかに非人道的で残酷なことかを訴える。そのうえでそのヘイトをヴィンセント侯爵に向ける。そして、そこでデモを決行する。新聞で呼びかければかなりの人数が集まるだろう」


「デモ?」


 エメがデモという言葉の意味を聞く。


「デモとは民衆が集まって自分たちの意見を非暴力で主張することだ。これは、非暴力ゆえに迂闊に武力で鎮圧できない。民衆を味方につけたいヴィンセント侯爵にとっては悪手だからだ。こっちは暴力を振るっていないのにあっちが振るったとなれば民衆は去っていく」


「相手にとっては嫌な作戦だな」


 エルベルトは笑みをこぼす。


「相手にとって嫌な事をするのが戦争であり、戦いだ」


 それと、一応国王に掛け合って、アレを制定してもらおう。






‐‐‐






 あれから二週間。

 あらかじめ諜報員の多くをヴィンセント侯爵に投入していたこともあって、子供たちはヴィンセント侯爵の邸宅がある街『ダーカール』に監禁されていることが分かった。

 ダーカールのどこにいるかまでは分からなかったが、そこまでわかれば十分だ。


 すでに新聞は国内中にばらまいており、世論には奴隷廃止のムードができつつある。

 そんな中、ジェストカン神聖国国王デクスター・デインは奴隷に対する非人道的行為を禁止する法律を制定。

 ヴィンセント侯爵はひどく反対したらしいが、国王は法律制定を強行した。

 これによってヴィンセント侯爵は私を陥れるどころか自分が陥れられそうになった。


 今から、そこにとどめの一撃を加えよう。


 さて、我々は今一般人としてデモに参加している。

 一応、ローブを羽織って顔を隠している。


「奴隷反対!」


「非人道的だ!」


 パッと見てもデモ参加者は5000人を超えている。

 流石に街中でこんなに騒ぎを起こされては、領主は黙っていられない。

 少ししてから、ヴィンセント侯爵が現れた。


「黙れ!貴様ら!」


 ヴィンセント侯爵は拡声魔法を使ってデモ隊に怒号を浴びせている。

 しかし、そんなのはデモ隊には意味がない。

 むしろ逆効果だ。


 そんな中、まるで図ったかのように豪華な馬車が通りかかった。


「これは一体何の騒ぎだ!」


 その馬車から降りてきたのは、ジェストカン神聖国国王デクスター・デイン、そしてイレーナだ。


「国王.... 」


 ヴィンセント侯爵はあからさまに怪訝な表情を浮かべる。

 更にエメがデクスターに話しかける。

 

「国王陛下、ヴィンセント侯爵は奴隷を非人道的に扱っています!私はこの目で見ました!」


「適当なことを言うな!小娘!」


 ヴィンセント侯爵はすぐに反論する。


「では、一度ヴィンセント侯爵の邸宅を調べても構わないか?それでもし、ヴィンセント侯爵が非人道的に奴隷を扱っていたのなら、君を処分する。逆にこの子が嘘を言ったのならヴィンセント侯爵の名誉を傷つけた事、並びに虚偽の報告を行ったとして処分する。これでいいか?」


「ええ、それでいいです!」

 

 エメは勢いよく言った。


「わかりました.... 」


 ヴィンセント侯爵もしぶしぶ了承した。


 ということで、デモ隊一行はヴィンセント侯爵の邸宅に向かった。

 私たちはエメの仲間ということで、ヴィンセント侯爵の邸宅内に入った。

 かろうじて、私が石原だということに奴はまだ気づいていないらしい。


「それで、君はどこで見たんだい?」


 デクスターがエメに問う。

 ヴィンセント侯爵にはどこか余裕があった。

 当然だ。

 ヴィンセント侯爵はこの娘を知らない。

 当然家に上げたこともない。

 そんな娘が知っているはずがない。

 恐らく、さっきのは口から出まかせだと思っているだろう。


「こっちです」


 そう言ってエメは案内する。

 案内する場所はどこか。

 そう、フェシリテが監禁されている場所だ。

 こっちの正体がバレる前にまずはフェシリテの安全を確保しなければいけない。


 あらかじめエルベルトがフェシリテの居場所をエメに伝えてある。


 フェシリテの部屋に近づくにつれて、ヴィンセント侯爵の余裕は無くなっていく。

 そしてエメが、扉を勢い良く開ける。


「助けに来たわよ!フェシリテ!」


 フェシリテはびっくりしながらこっちを見る。

 ヴィンセント侯爵はこの状況がまだ理解できないらしい。

 一方、フェシリテは状況を理解したようだ。

 フェシリテはこっちに走ってきて、エメに抱き着いた。


「ありがとう.... みんな.... 」


「そう言うことだ、ヴィンセント侯爵」


 私はそう言って私たちはローブを脱ぐ。


「貴様!石原か!」


「いかにも」


 今回、ジェストカン神聖国国王のデクスターとイレーナがデモに出くわしたのはたまたまではない。

 私があらかじめ仕組んだのだ。

 今回、敵にはフェシリテという強い手札があった。

 これによって、フィストのメンバーは迂闊に強硬手段をとれなかった。

 しかし、デクスターとイレーナにはフェシリテという手札は通用しない。

 だからこそ、この二人を起用したのだ。

 デモを利用して、この2人に邸宅の調査をさせる。

 それに乗じて我々も邸宅に侵入してしまえば、王手だ。


「一ついいことを教えてやろう。このデモも、国王がここに来たのも、すべて私の計画だ。それに、すでに反乱のための奴隷たちは解放済みだ」


 ヴィンセント侯爵は怒りと焦りの混ざった顔をする。


「気になるなら、確認してもらって構わないぞ」


 私がそう言い終わる前に、ヴィンセント侯爵は走り出した。

 私たちも彼を追いかける。

 ヴィンセント侯爵は下に降り、隠し扉を開け、からくりを作動させて、地下に入った。


 そこには、500を超える子供たちがいた。


「騙したな!石原!」


「道案内ご苦労。ヴィンセント侯爵。これで貴様は500人の奴隷という手札も、フェシリテという手札も失ったわけだ」


 実のところ、私たちは子供たちの居場所を知らなかった。

 だから道案内してもらった。

 人間とは不思議なもので、一回敵に完璧にやられると、焦りと怒りで、正常な判断ができなくなる。

 一回落ち着いて、「反乱なんて起こそうとしてない」と言えばよかったものを。


「いいか、ヴィンセント。私の仲間に手をだしたらこうなるんだよ」


 私は冷酷にそう言った。

 その後、国王がヴィンセント侯爵に言う。


「本来500人を非人道的に扱ったのなら死刑だ。ましてや貴様には余罪が沢山ある。だが、石原陛下は慈悲深い。どうするかは陛下にきめてもらおう」


 すると、ヴィンセント侯爵は顔色を変えて笑顔で私を見る。


「どうか陛下お慈悲を.... これからは真っ当に生きますので.... 」


 都合のいい男だ。


「今回、一番の被害者フェシリテだ。フェシリテに決めてもらおう」


 すると、今度はフェシリテを笑顔で見る。

 父親の威厳はないのだろうか。


「フェシリテ頼む.... ここまで育ててやったのは私だろう?実の父親を助けてくれ.... 」


「じゃあまず、ここにいる子供達全員を解放して一人一人に謝ってください」


 すると、ヴィンセントは馬鹿正直に一人一人を解放してから謝罪をしていく。


 その姿は醜い。

 そんな中、フェシリテが私に耳打ちしてきた。

 私はその内容に仰天した。


「いいのか... ?」


「ええ」


 かなりの時間をかけ、ヴィンセントは全員に謝り終わった。


「じゃあ次は土下座してください」


 ヴィンセントは一瞬ためらったが、すぐに実行した。


「何か言うことがあるのでは?」


「今回はこのような行いをし、皆様に不敬をはたらいたこと心から謝罪いたします」


「わかりました。ここで、話すのもなんですし、場所を移しますか。ヴィンセント侯爵、どこか適当な部屋に案内してください」


「はい!すぐに!」


 ヴィンセント侯爵は勢いよく立ち上がり、地下室を後にした。

 そうして廊下を歩いているとき....













 一発の銃声が廊下に響いた。












 撃ったのはフェシリテ。

 撃たれたのはヴィンセントだ。

 そう、さっきの耳打ちで言われたのは「拳銃を貸してくれ」だった。

 私はそれを聞いた瞬間、すべてを察した。



「どう.... し.... て.... 」


 ヴィンセントは苦しそうにしながらフェシリテに問う。


「貴方は、奴隷が助けを求めた時、助けてあげましたか?そういうことです。せいぜい、絶望しながら死んでください」


 そして、フェシリテは慈悲の一発をヴィンセントに与えた。

 ヴィンセントは死んだ。


 こうして、フェシリテ誘拐事件は幕を閉じた。

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